第16話 仲間
「ところでミネルヴァちゃん、この人達は誰なんですかー?」
夏の木漏れ日が降り注ぐ中、ロザリーはそう呟く。
そして、ロザリーが大きい瞳をパチクリさせつつ、俺達を見回す。
すると、ミネルヴァが間を取り持つ様に話し始めた。
「こやつらは、わらわの仲間じゃ。悪党共からわらわを救ってくれたのじゃ」
「仲間……ですか、凄いです! ミネルヴァちゃんも仲間とか作れるんですねー!」
いや……若干のディスり入ってんじゃん。
イジられてるぞ……ミネルヴァ……。
なんて事を思ってたら、アトも同様に、
「ミネルヴァ……どんな風に思われてたの……?」
と、ツッコミを入れた。
しかし、ミネルヴァは大して気に留める様子もなく笑いながら言った。
「わらわも、もういい歳じゃからのぉ。遠慮なく助けてもらう事にしたのじゃ」
「へーそうだったんですねー! ミネルヴァちゃんのお友達のロザリーですよー! よろしくですー!」
そう言って、ロザリーはアトの手を取り顔の高さまで上げて微笑みを向ける。
すると、アトはみるみるうちに顔を赤らめて呟いた。
「か……可愛い……あ……アトです……」
お、百合展開か?
って、男の娘だし百合でもないかこりゃ。
しかしアトはこういうタイプの女が好きなんだな。
アトが顔を赤らめているからか、ロザリーは楽しそうにして、
「アトちゃんも可愛いですよー!? 仲良くしてくださいね!」
「は……はい……!」
アトは真っ赤な顔でそう言った。
確かに、女って可愛い子の事好きだよなー。
そして、その流れのままロザリーは隣りにいるニコルの手を掴み同様に、
「ロザリーですよー!? よろしくお願いしますね!!」
頭の大きなリボンがひょこひょこと揺れ動く。
「これはこれはロザリー様、ご丁寧にありがとうございます。私はニコルと申します。以後お見知りおきを」
ニコルは持ち前の爽やかフェイスでそつなく返した。
さすが、ニコル。
爽やかだな。
俺なら絶対、ニヤけちゃうからな。
手とか握られちゃったら。
ロザリーはニコルに何か感じたのか、少し嬉しそうにして言った。
「ニコルちゃんは私と同じ行の使い手ですね! しかも凄い魔力量ですよ!」
その言葉に、ニコルは謙遜した様子で返す。
「いえいえ、そんな事はありませんよ。私など賢者であるロザリー様の足元にも及びません」
「そんな事ありですよー!? ミネルヴァちゃんにはもったいないくらいです! 今度、賢者として洗礼を施してあげます!」
ちょいちょいミネルヴァの事ディスってるよな……。
まぁそんだけ仲が良い事の裏返しなんだろうけど。
そして、俺の番。
森の中を夏風が吹き抜ける。
ロザリーは俺の方へ目を向けて、俺の手を掴む。
「ロザリーですよー!? よろしくお願いしますね!!」
おめめをパチクリ、ロザリーは俺を見つめる。
やっぱり可愛いな……。
完全に見た目は女の子のそれだ。
俺もアトと同じく、分かってても顔が赤くなってしまう。
「はじめまして、俺はーー」
途端、遮る様にロザリーが言った。
「あれれ? 手にケガをしてますねー!?」
先程作った切創にロザリーが気づいた。
あぁ……そっか、そういやロザリーの能力はアレだったな。
俺は気を遣わせない様に、
「あぁ、良いです。良いです。こんなのほっとけば治るんで」
「ダメですよー! ケガは早めに治した方が良いんですよ!?」
ロザリーは止まらずに続ける。
「じっとしてて下さい! 私が治して差し上げます!」
そんなわざわざ力を使わなくてもって、まぁ良いか……好意には甘えよう。
ロザリーの言う通り大人しくしていると、ロザリーは目を閉じてなにやら集中している。
瞬間、俺の手を握るロザリーの手のひらが光り輝く。
そう、どんな重いケガでも治せる癒しの力。
それがロザリーの能力だった。
わざわざ、俺の為にこの能力を使ってくれるなんて、原作通りロザリーは良い奴ーー
刹那。
「あれれ……? 何故だかお兄さんの身体に干渉出来ないですよ……」
え……?
何故に?
ロザリーは目を瞑ったまま思索している。
「うーん……不思議な感覚です。存在しているのに、理が通じない……」
理……。
なんとなく、分かったかも……。
「あれ……? もしかしてお兄さんーー」
その時、図っていたかの様にミネルヴァが間を割って。
「気付いたか、ロゼル。こやつはこの世の生と死に干渉出来るのじゃ」
ミネルヴァのセリフにロザリーは驚いた様子で、
「えぇ!? そうだったんですねー!? 面白いですー! 死神に愛されちゃったんですねー!?」
ロザリーは閉じていた目を大きく見開く。
俺は嘆息と共に返答する。
「愛されたと言うか、勝手にこんな体になってたというか……」
「残念ですが、死神ちゃんのケガは流石のロザリーにも治せないのです! おそらく理が異なっている為だと思うのです!」
そう言ってロザリーは微笑む。
死神ちゃんって、俺の事だよな……。
縁起悪い呼び方だな……まぁなんでも良いけど。
あと、もう手を離してもらえますか?
ロザリーは俺の手をずっと握ったまま、
「でも、こうやって死神ちゃんの身体に干渉しようとすると、死神ちゃんの身体の奥から暗くて重い気配が湧いてきて、私の身体に流れ込んで来るのです……」
「いやいや……それなんかまずくないですか?」
「えへ……でもそれがゾクゾクして、凄く気持ち良いのですよ……」
と、そう言ってロザリーは少しほてった表情をして見せた。
うわ……エロ……。
またも赤くなる顔を悟られない様に、俺はロザリーから顔を背けた。
別にエロくないんだろうけど、俺も良い歳だからそういう表情されると色々考えちゃうから。
「ロゼルよ、こやつが不埒な事を考えておるから、その手を離してやれ」
ミネルヴァが横から水を挿した。
「あぁっ! すみません!」
ロザリーは俺の手を離した。
…………。
ミネルヴァ、あなたのその能力で俺が凄い恥ずかし目を受けている事、気付いていらっしゃいますか?
ほら、アトがケダモノを見るような目で俺の事を睨んでいます。
なんて、俺の気持ちをよそにミネルヴァはその綺麗なツインテールをかき上げて、話しはじめた。
「してロゼルよ、わらわがここに来た理由じゃがの、単刀直入に言おう、お主の命が狙われておるのじゃ」
「えぇ!? そうなんですか……?」
ロザリーの大きなリボンが揺れ、ゆるふわな髪が風になびく。
「あぁ、お主も一度は聞いた事があるじゃろう、連中の名は解放教会、カルトじゃ」
「あっ、それ聞いた事ありますよ! 王国の方で時々暴れてるって」
「そうじゃ、その連中が今度は賢者達の命を狙ってるようなのじゃ、理由は分からんが、五行の石も集めておるようじゃしの」
「心配してくれて嬉しいですけど、私こう見えて結構強いので大丈夫ですよー?」
「わらわもそう思っておった。じゃがのロゼル、連中の中にかなりの手練れがおる。あれは賢者達と同等かそれ以上の力を持っておる」
上級司祭マルコシアス…….。
危うくミネルヴァは殺されかけてたしな。
ミネルヴァの真剣な表情にロザリーは黙り込んだ。
「でじゃロゼル、わらわ達と一緒に来ぬか? 賢者二人が協力すれば、奴等もそう安易に襲ってはこぬじゃろうし、それにーー」
ミネルヴァは俺を見つめて、
「わらわの仲間もおる。どやつも信用に足る人物じゃ安心しろ」
ミネルヴァの言葉に、ロザリーは少し思案した様子だったが、それも束の間。
観念したのか、小さくコクリと頷いた。
ロザリーも勿論、ミネルヴァの能力の事は知ってるのだろう。
その辺の事も汲んだのか、あるいは元々の二人の絆なのか、ロザリーは何も言わずにミネルヴァの言葉に素直に従ってくれた。
やっぱり、ミネルヴァが居るだけでかなり交渉が楽になるぜ。
ニコルもうんうん、と微笑んでいる。
俺もそれに乗じてうんうんと頷く。
すると、いきなりロザリーが頷く俺に抱きついてきた。
「うおっ!」
その身体から柑橘系の良い匂いがする。
ロザリーはだらしない微笑みを浮かべつつ、
「あぁ……気持ちいいです……。この重い気配……私の中に入り込んでクセになるんですよ……ゾクゾクしてたまらないんです……! 一緒に居れば毎日これが味わえるんですよ……!」
ロザリーの手のひらが光輝いている。
どうやら癒しの力を使っているようだ。
「ちょちょ! ロザリー! そんなことに癒しの力を使うな!」
こっちだって逆の意味でゾクゾクするんだよ。
男の娘だし、でも良いか……いや良くないだろ……みたいな色んな思いが巡っちゃうんだよ……!
「えへへ……ちょっとぐらい良いじゃないですかー! 死神ちゃん! 別に減るものじゃないんですからー!」
ロザリーが可愛い顔で抱きついてくる。
「仲良しじゃのう、二人とも」
ミネルヴァが呑気な様子で眺めている。
「うわ……お兄ちゃん……なんか嬉しそう……気持ちわる……」
アトがケダモノを見るような目で俺に視線を送る。
「えへへ……よろしくお願いしますねー! 死神ちゃん!」
この眩しい夏の太陽のようにロザリーの笑顔は輝いていた。
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