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第10話 水の賢者

ミネルヴァの護衛獣である、ティアマトは強力な竜だ。

油断出来ない。

気を抜いて殺されたら殺してしまう。

気を付けなければならない。

「ニコル! アト! 気を付けろ、このドラゴンはそこいらの魔族とは訳が違うぞ!」

俺は、腰に携えた古びた柄を手に取り、漆黒の刀身を露わにする。

俺の黒刀を見た、ティアマトはその青い瞳を細める。

「はは……、どうだ変則的だろ? 降参するのなら、俺らも手は出さなーー」

途端。

ティアマトは、その爪で一閃する。

「あぶねっ!」

「主どのっ! お気をつけて! この魔獣、存分に魔力を込めて攻撃してきますっ……一発でも食らったらひとたまりありませんよ」

俺は態勢を立て直し、

「そうみたいだな……」

ニコルは少しだけ顔を強張らせ、

「目には目を……我々も倒すつもりでやらないとやられてしまいますよ、主どの」

「いや……だめだ、なんとか戦闘不能にする程度で収めてくれ」

「……承知しました」

ニコルは歯切れが悪い様子だが従ってくれた。

「お兄ちゃん達っ、避けてー!」

視界の端からアトが手の平に炎を宿して、ティアマトに向け、そっとかざした。

轟音と共に、一瞬で視界が火の海になった。

顔が放射熱で熱い。

「…………」

アト、強くね?

えっこんな魔法使えるの?

半妖、怖っ。

炒飯パラパラで作れるレベルの火力が限界じゃなかったのかよ……?

「アト様、良いタイミングです」

隣にいるニコルが、何かを詠唱している。

大きい魔法を発動するつもりだろう。

それまで俺も時間を稼がなければっ!

「ガルルルっ!!」

ティアマトが、大きく咆哮を上げると、アトの炎の魔法が一気に消されてしまった。

そして、止まらずにその口から、圧縮した魔力の玉をニコルに向けて放つ。

俺はすぐにニコルとの間に割って入り、

「させねぇよ! ティアマト」

黒刀にて、その魔力の玉を断ち切る。

やっぱり、切れ味やべぇなこれ……。

ほぼ力入れてねえよ今。

「主どの、ありがとうございます。おかげで詠唱が終わりました」

そう言ってニコルは、自らの胸の前で、両手を合わせ呟く。

「木の行よ、その爪を穿て」

瞬間、ティアマトの足元に、魔法陣が出現し、その強力な前足に光の釘が現れ、ティアマトは拘束された。

「ギャオオオ!」

つんざく悲鳴が部屋中に響く。

ティアマトは、その光の釘に抵抗するが、抜ける気配はない。

ニコルは毎度お馴染みの微笑みで、

「いっちょ上がりです。主どの」

なんて、イケメンぶりをアピールしてきた。

「…………」

マジ強ぇなこいつ。

こんな強ぇならなんでさっき殺すとか言ったんだ?

てか、こいつ原作では一体何してたんだよ。

逆に気になるわ。

アトはニコルの魔法陣を見て、

「凄ーい! さすがニコル! いかにも人間が使う魔法って感じ!」

アトは嬉しそうに、ニコルのそばに近づいていく。

「アト様にお褒め頂き光栄です。アト様も火の行の魔法、お見事でしたよ」

「私、あれしか出来ないんだよねー、人間と違って魔力のコントロールがあんまり上手くないからさー」

「あれだけ強力でしたら、十分ですよ」

ニコルとアトが楽しげに会話をしている。

「…………」

何故だろう。

妙な胸騒ぎがする。

いや、胸騒ぎではない。

嫌な予感だ。

護衛獣ティアマトが、いやミネルヴァがこんな簡単に終わる訳がない。

簡単過ぎる。

簡単過ぎるのだ。

何か忘れている。

ティアマト……。

ミネルヴァ……。

ミネルヴァの能力……。

……………。

しまったーー

「避けろっ! 二人とも!」

【ラグナロク】

鼓膜に直接響く声。

頭上が光輝く。

俺はアトとニコルの前へと急ぐ。

間に合えっ!

【ほう、わらわの罰を防ぐとは中々じゃのお】

俺は頭上から打ち込まれた光の波動を黒刀で防いでいた。

「っ……っっ!」

危なかった、マジで……。

危うく二人が死ぬ所だった。

「お兄ちゃん……」

「主どの……」

【だが、詰めが甘いの、お主】

「ガルルルっ!」

ティアマトの足音が聞こえる。

「いやっ!」

「主どのっ!」

迂闊だった。

がら空きだった俺の背中をティアマトの爪が、いとも簡単に貫いていた。

「お兄ちゃん……」

光の波動を防ぎつつ、俺は二人の方を見ると、二人とも俺の血飛沫で顔が汚れていた。

「主どの……」

二人が悲壮な顔で、俺を見つめている。

はは……。

次第に頭上の光の波動が消失していく。

自然と遠ざかる意識。

あの雷のような耳鳴りが鼓膜の奥深くで鳴り響く。

「ガルルルっ!」

ティアマトは俺の体を貫いた、爪を乱暴に引き抜く。

俺は崩れるようにその場に倒れた。

消えかける意識の中で俺は言った。

「ミスった……、殺したくなかったんだけどな……」

俺の言葉に、ニコルとアトが何か呟いているが、もうそれは聞こえなかった。

聞こえる音はこんな瑣末な、

雷のような耳鳴りだけであった。

そしてーー

俺は定石通りにこう念じた。

ティアマトよ、死返ししてやるーー


その瞬間。

やかましい雷の様な耳鳴りがぴたっとおさまる。

前回と同じの、不気味な程の静寂はなんだか今度は小っ恥ずかしく感じた。

生きかえるって事は、恥ずかしく思う事なのだろうかなんて、詩人みたいな事を考えていた矢先、ついさっき見た、アトとニコルの顔が浮かんできた。

「ギャオオオ! ガルルル!」

ティアマトのつんざく悲鳴が早速聞こえる。

あー、本当は殺したくはなかったんだけどな。

二度目ともあり、蘇生した後の体の扱いは慣れていた。

蘇生した後の体の扱いってあんまり良く意味が分からんけど、なんかこないだよりはすぐに身体が動かせたのだ。

そして、俺は言った。

「これが俺の能力だよ、おふたりさん」

アトとニコルがキョトンとした顔で、俺を見下ろしている。

俺は間髪入れずに起き上がった。

「ギャオオオ!」

面前で、ティアマトが悶え苦しんでいる。

死の苦痛なのだろう。

俺の死返しによるものだ。

「主どの……体が何事もなかったかのようですが……」

さすがだ。ニコルはこの状況でもしっかりと頭を働かせている。

「あぁ、死返しを使ったからな」

「シカエシとは……? 幻術の一種でしょうか……? すいません、正直ついていけておりません」

初めてニコルの困惑した表情を見た気がした。

「もおぉ……また、死んじゃったかと思ったぁ…………」

アトが背後から俺に抱きついてきた。

「悪いなアト、また驚かしちまってさ」

アトは俺の言葉には、答えなかった。

その代わりにずっと強く俺の身体を抱きしめていた。

そして、ティアマトがその大きな背中を地に付け倒れる。

絶命したようだ。

俺は改めて、ニコルに言った。

「ほら、こういう事だよ、ニコル」

「申し訳ございません主どの……ご説明頂きたく。私の見た限りでは主どのは確実に死んだはずですが……」

「まあ、端的に言うならば、俺を殺した相手を殺すのが俺の能力ってところかな」

ニコルは俺の言葉に、思案を隠せない様子だった。

「想像を超えていました。異行の魔法どころではなく、まさか世界の理に反しているだなんて……」

「まぁ、厳密にいうとさ俺の中に生まれた死をそれを与えた者に返すっていう行為らしい。だから俺はこの能力を死返しって呼んでるんだ」

「死返しですか、なるほど……ではサイファーの時もこの力で?」

「あぁ、そうだよ。俺はあの時サイファーに殺されて、この力を発動させた。そしてサイファーは死に俺は生き返ったんだ」

「左様ですか、もはやこれは英知の力ですね。主どの私は本当に、主どのの様な方にお仕えでき誇らしく思います」

そう言ってニコルは頭を下げた。

「え? いやいや、ニコル。ある程度は俺の能力気付いてたんでしょ?」

「いえ、さすがに生き返れるまでは予想しておりませんでした」

「あっ、そうなんだ……まぁそうか……、そりゃ死んでも生き返るなんて普通思わないもんね」

なんてやり取りをしていたら、アトが後ろから割り込んできた。

「って事は、お兄ちゃんは戦いでは死なないって事?」

「あぁ、そうだよアト。今後は安心してくれ。俺はこれからもこの先も、ずっとお前のお兄ちゃんだからな」

「うん……」

アトは再び俺の背中に顔を埋めた。

【ほぉ、お主……そんな力を持っておるのか】

鼓膜に直接響く声。

ニコルが途端に顔色を変える。

アトも俺から離れ、身構える。

【まぁ待て、そう構えるな。わらわもそれを聞いて気が変わったのじゃ。今、姿を現そう】

その言葉の後、

ゆっくりと俺たちの目の前に霞が立ち込める。

そして、霞が晴れるとそこにはーー

水の賢者、ミネルヴァの姿がそこにはあった。

ここまで読んで頂き誠にありがとうございます!


ブクマや評価や感想など貰えたら嬉しいです!


次回もお楽しみに!

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