前編
董子の浴衣。の巻
課長と花火大会に行くことになった。
浴衣を出しておいてほしいと実家に電話をしたとき、母は驚きながらも承諾してくれた。あっさり終わった電話を前に、こりゃ直接話を聞く気だな・・・と悟った。
「ただいま」
「おかえり、董子。浴衣と小物一式出しておいたわよ。とりあえずあわせてみたら」
顔を出した母が、和室に私を誘った。
母と行った呉服屋から勧められて購入した浴衣は紺色の生地にしずくのような絞りの模様と、水玉のような大きめの絞りがところどころについている控えめなデザインだ。その分、一生着られますよと言われたんだっけ。
あとは、リバーシブルのエンジ色の帯とカゴバッグ、下駄・・・。どれも流行に左右されないものだから、新しく買わなくて済みそうだ。
「あんた浴衣つくったものの、一度しか着ないんだもの。せっかくいい浴衣なんだから、結婚するときは持って行きなさいよ。ところで、董子」
母がにやにやしている。
「なに?」
「不精なあんたが浴衣を着るってことは・・・・デートでしょう?」
「そ、そんなことなんでお母さんに言わなきゃいけないのよっ」
「あんたの考えなんてお見通しよう。」
なんか、どっかで聞いたセリフ・・・・私、そんなに考えダダ漏れなんだろうか。
「ねえねえ、どんな人なのよ。一度実家に連れてきなさいよ」
「そういうのじゃないわよっ。」
「・・・ふーん。ムキになってるのがますます怪しいけど、あんたがヘソまげると長いから、これ以上は聞かないけど」
仮に課長を連れてきたら、うちの母は舞い上がって「そちらのご両親にも挨拶に行ったほうがいいかしら」とか口走りそうで怖い。比較的落ち着いた性格の父にも同席してもらおう、絶対。
「董子、浴衣の着付けはどうするのよ」
「んー、ネットに載ってるみたいだから自分でなんとか着るわよ。」
「おかーさん、そっち行ってあげようか?」
「やめて」
「そう?残念ね~。娘の久しぶりのデート相手が見られるかと思ったのに」
そういうと、母はつまんなそうに肩をすくめた。
月曜日、真生は専務と同行していて不在だったけど響子先輩に誘われて社食でお昼を食べる。雑談の流れで、実家に行って浴衣を持ってきた話をした。
「へ~、浴衣持って来たの。」
「今日本屋で着付けの本買って帰ろうと思ってるんです。」
「だったら、私が着付けてあげるよ。その花火大会の会場、うちと同じ沿線だしさ。宮本くんとどこで待ち合わせ?」
「あ、課長がうちまで迎えに来てくれるって」
「宮本くんには、浴衣で行くって言ったの~?」
「へ?いいえ」
「そっかあ・・・内緒なのね~・・・へ~」響子先輩、笑顔が黒い・・・。
「響子先輩、何考えてます?」
「べっつにぃ~。宮本くんに迎えに来てもらう場所、うちに変更してもらってよ。ダンナに駅まで迎えに行ってもらうからさ。ね?そうしなって。理由?大丈夫、宮本くんと会う前に私と会う用事があるって言えば。ね?」
まあ、響子先輩のダンナさんである秋山さんと課長は同期のなかでも仲がいいと聞いてるから、いいか・・・それに、やっぱり1人で着付けるのってやったことないから、ちょっと不安なんだよね。
「わかりました。ほんとうにお願いしてもいいんですか?」
「遠慮しないの。賢もひさしぶりに“とーこちゃん”に会えるって喜ぶし。ね?」
響子先輩の黒い笑顔は気になるけど、ま、いいか。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
短いですが、季節ネタをUPします。
前後編になります。




