第九十八話 「異世界転移の真実」
黒いフードの怪しい男、ローラント・ハルトマンは転生者だと名乗った。
更に俺が異世界に来た理由を知っていると言う。
俺が元の身体に戻れるまで時間が掛かるそうなので、こいつの話を聞いている訳だが……。
『その後、怒り狂った親父はカードに火を付け、俺は家を追い出された。
失望感で頭がいっぱいだった俺は赤信号に気付かず、トラックに跳ねられて人生の幕を閉ざしたのだ』
このように自分語りが話の中心で、異世界召喚にどう関係するのか、さっぱり分からない。
それにしても、ものすごく情けない最後だな。
こんな死に方だけは絶対にしたくないぞ。
『俺がこの世界で新たな人生のスタートを切ったのは、今から三十八年前の事だ。
俺は北カトリアのとある貴族の家に産まれ、二歳で魔術を操り、天才児と持て囃された』
「待った」
『何だ?』
「その話、めっちゃ長くなりそうだからカットしてくれ」
『俺の武勇伝を聞きたくないのか?』
俺が知りたいのは、異世界召喚に関する話だけだ。
おそらく無関係であろう、こいつの武勇伝など聞きたくもない。
「ますたー、このおじちゃんのお話、つまんない」
「ほら、ミスティもこう言っている」
『むぅ……仕方がない。
五歳の時、家庭教師の先生の手引きにより、初めてカードに触れる機会を得たのだ。
そして、カードに触れた時、俺は前世の記憶を取り戻した。
符術士となった俺は、魔術と前世の知識を使い、瞬く間に名声を得た。
史上最年少の十三歳で北カトリア軍の特殊部隊に入隊し、エリート街道を駆け登る。
そうそう、こんな物も作ったぞ』
幾分かダイジェスト気味にはなったが、武勇伝を語っているだけじゃないか。
と呆れつつも話を聞き流していると、ハルトマンは懐から意外な物を取り出した。
「おいっ! それって!?」
『以前、3Dプリンタで作ったことがあってな。
記憶を頼りに再現してみたのだ』
「3Dプリンタすげぇ……。
でも、それって犯罪じゃね?」
『言うな。既に時効だろう』
それはハンドガンであった。
少し前まで、この世界には存在しないと思っていた殺傷兵器。
南カトリアでは普及していないが、北カトリアでは軍隊で使用されていると聞いた。
それがまさか、地球人が記憶を頼りに作った物だったなんて……。
「それってエボルタが持っていた銃だよな。
地球の技術を再現した物が、どうして符術士に通用するんだ?」
『こいつは弾に仕掛けがあってな。
弾の周囲において、異世界との繋がりを遮断する性質を持っている。
範囲は狭いが、弾が体内に残れば治癒魔術すら無効化される』
「うげっ!」
俺はあの銃に一度撃たれた事があるけど、結構やばかったんだな。
あの時は腕をかすめただけだったから助かった。
この世界じゃ銃弾の摘出手術なんて不可能だ。
、当たりどころ次第では死んでいたに違いない。
『銃の開発により北カトリア帝国軍は━━』
「おい、また話が逸れてないか?」
『む……そうだな。なら、この話も飛ばすか。
時を進め、今から十年前。南北カトリア戦争について話そう』
マリアの両親が命を落としたマウルの惨劇に繋がる戦争の事か。
北カトリア側の最重要人物が、目の前に居るこいつだったな。
『今では戦争と呼ばれているが、それは世間を欺く為の嘘だ』
「その話は少しだけ聞いた事がある。
確か、最強のカードを求めてやって来たとか?」
『話が早いな。その通りだ。
俺たちは皇帝陛下の勅命を受け、マウルに眠る最強のカードを取り戻しにやって来た。
人数は六人。少人数だが、最強のチームだった』
「取り戻しに? 奪い取りに来たの間違いじゃないのか?」
『カトリアが元々ひとつの国であった事は知っているか?』
「一応……歴史の本で読んだ」
『では、現在の南カトリアの国王が初代国王の血を引いていない事も知っているな』
「えっ? そうなのか?」
『勉強不足だな。名前で分かるだろう。
初代国王の性はカトリア、現国王の性はシュヴァインフルト。
途中で入れ替わっているのだよ』
「マジかよ!?」
知らなかった……と言うか、気付かなかった。
そもそも、王族の名前なんてロッテ以外に知らない。
『マウルに眠る最強のカードは初代カトリア国王に関係する物らしい。
ならば、正当な後継者である北カトリアが所有するべきだと主張した。
もちろん、それなりの対価は支払うつもりであった。
だが、南カトリアは申し出を拒否。
その結果、力ずくで取り戻す事になったのだ』
「なぁ、そのカードって……」
北カトリア帝国が狙っていた最強のカード。
エボルタは《霊騎士ガイスト》の事だと言っていたが、俺の考えはそうじゃない。
『おそらく、お前の予想通りだ。
そのカードの恐ろしさを知らぬまま、俺たちは計画を実行に移した。
まずはマウルの町にスパイを潜り込ませる事にした。
スパイは野生動物に襲われた怪我人を装う事であっさりと受け入れられた。
この町の住民は皆お人好しだったのだな』
「他人の良心を利用しておいて、そんな言い方は無いだろう」
『すまんな……話を続けるぞ。
その後は魔術士の幻術などを駆使し、嘘の情報を流す事にした。
実り豊かな地方を侵略する為、千人以上の兵が南カトリアを目指しているとな』
「それが戦争と呼ばれている理由か」
実際の人数と百倍もの差があるが、よく騙せたものだな。
それ程までに、こいつらのチームは優秀だったと言う事か。
それとも誇張が混じっているだけなのか。
『俺たちが行動を移したのは、スパイを潜入させてから二ヶ月程経った日の事だ。
まずは北カトリアの軍隊がマウルのすぐ近くまでやって来ていると偽の情報を流し、この町の騎士をおびき寄せた。
そして、警備が手薄になったところで町に侵入。
目的のカードはスパイからの情報があった為、あっさりと見つける事が出来た。
そのカードの名は━━』
「《虚無の魔王》だな」
『正解だ』
思ったとおりだ。
昨日、俺と召喚戦闘を行った顔のないバケモノであり、俺の知らない未来のカード。
それがエボルタの言う最強のカードだったんだな。
ん? だったら何故、エボルタは最強のカードを探していたんだ?
『カードに触れた時、俺は見知らぬ空間で虚無の魔王と召喚戦闘を開始していた。
符術士の直感で、このカードを手に入れる為には勝つしか無いと思った。
だが……俺は負けてしまった。
そして次に意識を取り戻した時には、九年半もの月日が流れていたのだ』
「は? どういう意味だよ? 何が起こったんだ!?」
負けたら、未来に飛んでいた?
意味が分からない。
ただ、昨日の召喚戦闘で俺も危うく負ける所だった。
危うく、こいつと同じ運命を辿る所だったって事か。
『これは後ほど調べて分かった事だが……。
虚無の魔王は俺の身体を乗っ取り、マウルの惨劇と呼ばれる虐殺事件を起こしたようだ。
巨大なスプーンで抉られたような建物は、奴の能力である消去によるものだと推測出来る』
「身体を乗っ取る!?」
『この身体は神の依代と呼ばれる特殊な物らしくてな』
ジャスティスもそんな話をしていたような気がする。
俺の事をカードのユニットだとか言ってたっけ。
『どうやら、南カトリア軍の作った結界により、奴の干渉力が弱まったようでな。
お陰で、再び戻って来られた。
その間に皇帝陛下は代替わりしており、俺はバケモノ扱いだ。
だが、そのまま賞金首として討たれる訳にもいかない。
俺は虚無の魔王を倒し、身の潔白を証明しようと考えた。
そこで地球から強力なデッキを召喚する事にしたのだ』
「そんな魔術、魔導研究所でも聞いた事がないぞ。本当に出来るのか!?」
『魔術士や符術士には無理だ。
しかし、俺の相棒《光の魔女ライラ》なら出来る』
「マジかよ!」
地球からカードを召喚出来るのなら、苦労して迷宮探索とかしなくてもいいじゃん!
もっと早く知りたかったぜ。
『だが、中々狙い通りに召喚するのは難しくてな。
バランスの悪い《紅竜王フィアンマ》デッキとか、アジア版の《蒼竜王コンゲラート》デッキとか……。
これではとても虚無の魔王を倒す事は出来ない』
「どこかで見たようなデッキだな……」
『持っていても嵩張るだけなのでな。
そういうデッキは人気のない森や古代迷宮に転移させて処分した。
そして、何個目かのデッキを召喚した時、俺は再び意識を失った。
次に目覚めた時には、何故かエドヴァルトと召喚戦闘をしている最中だった』
「エボルタと? 次はエボルタに身体を乗っ取られたとか言わないよな」
『まだ気付かないのか?
俺の身体を支配していたのは……和泉裕也、お前だ』
「えっ?」
『お前はデッキと一緒にこの世界に召喚されたのだ。
そして、俺の身体に乗り移り支配した。
虚無の魔王のようにな』
こいつが……俺を召喚した?
いや、デッキだけを召喚しようとしたが、俺も一緒に召喚されたのか。
じゃあ、あの時の謎の爆発事故もこいつの仕業?
「マスター、お待たせっ!
ガイストって言うおじさん、お家に帰ったよ」
『ご苦労だった』
ハルトマンの隣に中学生くらいの美少女が姿を現す。
白い麦わら帽子に夏服セーラー、肩まで伸びた綺麗なストレートの金髪。
奴が相棒と言っていたユニット《光の魔女ライラ》だ。
『あの時は取り戻せなかったが、今度こそ俺の身体を返してもらうぞ』
「えっ!? それって、どう言う意味?」
ライラとハルトマンの身体が金色の光に包まれた。
その光の中、二人の隣にもう一人の人物の姿がぼんやりと見える。
それは黒いローブに包まれた金髪の青年……俺の身体か!?
『これから死ぬまで、その豚まんじゅうに入っているが良い』
「ちょっ、待っ……待てよ!」
『中々、似合っているぞ。さらばだ』




