第九十三話 「最強のメイドたち」
何故だ? リックは軍を除隊され、実家へ帰った筈……。
いや、彼と一緒にいるメイドには見覚えがある。
ひとりは桃色の髪、もうひとりは銀色の髪。
銀髪の方は風呂で俺の童貞を狙ってきたロリビッチだ。
桃色の方もあの時リックと……これ以上、思い出すのはやめよう。
ともかく、彼女たちが同行しているのは、リックが実家からここまでやってきた証だ。
「あなたもユーヤを助けに?
でも、どうして?
私も今朝知ったばかりなのよ」
「これからユーシャをたすけに行くところなのじゃ」
「助けに? やはり、ユーヤくんに何かあったようだね」
「ますたーはね、ダイフクになっちゃったの?」
ミスティ……それはもういい。
どうせリックにも信じてもらえないだろう。
「何!? これがユーヤくんだと言うのか!
なるほど、この姿なら二十四時間ミスティちゃんに抱きつかれる事が可能か。
流石はユーヤくん。考えたな!」
あれ? 意外と信じてるっぽい?
でも、好きでこんな身体になったわけじゃないぞ。
「ミスティ様。
少しだけ、そのお饅頭をお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ダイフクはおまんじゅうじゃなくて、うさぎさんだよ」
いやいや、饅頭と思ってないならダイフクって名付けるなよ。
「ごめんなさい。
じゃあ、そのうさぎさん? 少しだけよく見せて頂けますか?」
「ん。ミスティのたからものだから、やさしくしてね」
「はい。存じ上げておりますわ」
ミスティは俺を銀髪のメイドに手渡した。
メイドはそれを持ち上げ……って、何をするつもりだ!?
「ありがとうございます。
お返し致しますわ」
「うん。おかえり、ますたー」
急に持ち上げられて驚いたが、すぐにミスティの元に戻された。
俺とした事が焦っちまったぜ。
あの銀髪メイドにはトラウマがあるからな……。
「若様、こちらの方は若様のご友人ではありませんわ。
何故なら、おちんちんがありません!」
「うえぇっ! お、おちん……なっ、何言ってるのよ、この人!」
さっき持ち上げたのは股間を確認してたのかよっ!
ぬいぐるみに付いてる訳ないだろっ!
「あのお方なら、未使用ながらも立派なモノが付いている筈です!」
「立派!? 付いている!?」
「そのくらいにしなさい。
そちらの初なお姉さんが真っ赤になってますよ」
「悪かったわね!
どうせ私はまだ経験ないわよ!」
「あら? じゃあ初めて同士ですのね。
それはいけませんわ」
「よろしければ、色々と教えて差し上げますわよ」
「初めて同士? い、色々!?」
ピンク髪の方まで加わってマリアが思考停止している。
誰かこのロリビッチたちを止めてくれ……。
「なんの話なのじゃ?」
「うーん……ミスティもよくわかんない」
「な、なんでもないのよ。
それより、どうやってここまで来たの?
今、王都は中から出られない筈なのに」
「王都の中から出られないと言うのは初耳だが……答えは簡単だよ。
僕たちは王都ではなく、グレーナーから来たんだ」
グレーナーと言うのはリックの実家がある町だ。
リックはそこの領主の一人息子で、ラブホテルのようなお城に住んでいる。
俺たちも一晩だけお世話になった。
「グレーナーからって、遠いじゃない!?」
「実は今朝、僕の町の符術士のもとに軍からの勧誘が来てね。
後から詳しい話を聞いたら、不死の静寂の討伐に誘われたとの話だった。
これはユーヤくんに何かあったに違いないと思って、馬を飛ばして来たんだ。
まさか、マリアちゃんに会うとは思わなかったけれどね」
「私のところにも来たわよ。
しかも、あのジャスティス・ササキが」
「それはおかしいよ。
彼はユーヤくんと一緒にこの先に居る筈」
「それがね……時間がないわ。
歩きながらで良いかしら?」
「わかった。
ただし、この先は野生動物が出ると聞く。
くれぐれも気を抜かないように」
メイドが一撃で破壊した部分を通り、壁の内部へと入った。
進みながら、マリアがリックへ説明を続ける。
「なるほど、大体分かったよ。
にわかには信じられないけど、ユーヤくんなら有り得る話か」
「引き返してもいいのよ。
あなたにも立場ってものがあるでしょう」
「いや、一緒に行くよ。彼は友達だからね。
それに僕は幼女と合法ロリの味方なんだ」
「ありがとう。でも、最後の一言は要らないわ」
あんな突拍子もない話を聞いても、信じてくれるなんて良い奴だな。
最後の台詞がなければカッコ良かったのに。
だが、今の状況は彼にとってはハーレムみたいなものだし、ああいう台詞が出てくるのも仕方がないか。
「しかし、どうしてお姫様が一緒に居るんだい?」
「お姫様? 何の事?」
「わらわもユーシャをたすけたいから、ついてきたのじゃ!」
「ロッテちゃんはね、おひめさまなんだよ!」
「シャルロッテ・フォン・シュヴァインフルト。
一言で言うと南カトリアの王女様だよ」
「えっ? なにそれ! 初めて聞いたわよ!」
あっ……そう言えば伝えてなかったわ。
しまったな。
ミスティを通して教えておくべきだった。
「そうは言われても、きかれなかったからのう」
「訊かないわよ!
だって、そんな事考えもしないもの」
「知らなかったのか……でも今から引き返す訳にもいかない。
大丈夫だ。彼女にはかすり傷ひとつ負わせないと誓おう」
「さすがはショーイ! たのもしいのじゃ!」
「でも、この娘、家族に無断で外に出ちゃったのよ」
「きにするでない。父上にはかえってから話そう。
父上はわらわにあまいからダイジョーブなのじゃ」
「やれやれ……これで僕らは王女を誘拐した犯罪者と言う訳だ」
「ええぇっ!?」
静かな平原にマリアの悲鳴が響き渡る。
どちらかと言うと、ロッテの方がついて来た感じなのに誘拐だなんて……冗談だよな?
「不死の静寂を助けようとしてる時点で、僕たちは国家反逆罪に問われるだろう。
これに王女誘拐が加わった所で大差はないよ」
「ユーヤの事を不死の静寂って呼ぶのはやめて」
「おっと、失礼した」
なんか罪がどんどん大きくなって怖いんですけど!?
「若様、お話の時間は終わりのようです」
「右前方の草むらが揺れましたわ。来ます!」
しばらく歩き続けていると、実体化したカードのユニットが襲い掛かって来た。
草むらに隠れていたのが、不思議なくらい巨大な熊だ。
確か、緑のコモンカードだった筈だが、実体化すると凶暴に見える。
「おぉっ! あれがモンスターか! はじめてみたのじゃ」
「ロッテちゃん。あぶないからミスティのそばにいてね」
「ここは私たちにお任せ下さい!」
「危ないから、お嬢様方はそこを動かないで下さいね」
「行きますわよ!」
符術士と同等の耐性を持つバケモノだが、メイドたちはこれをあっさりと撃退した。
熊を皮切りに、巨大なカエルやサソリなど、多種多様なユニットが襲ってくる。
だが、いずれも彼女たちの敵ではない。
ちなみにピンク髪のメイドの武器は鉈、銀髪のメイドはなんと素手だ。
魔装武術と言う身体強化系の魔術らしいが、インチキ臭い強さだな。
動きやすさを重視してか、彼女のスカートはかなり短い。
おかげで純白の布地がチラチラと視界に入る。
きっと視線が低い位置に有るせいだな。
「はぁはぁ……もう我慢できませんわ。
若様、服を脱いでもよろしいでしょうか?」
「どうして脱ぐのよっ!?」
「魔装武術は肉体の能力を向上させる魔術。
動きを阻害する布地が少ないほど、その威力は増します」
なんだよ、その露出狂専用魔術は……。
変態ロリビッチな銀髪メイドに似合っていて、反論する気も起きない。
「場をわきまえたまえ。今は幼女たちが居るんだぞ」
「も、申し訳ございません。失礼致しました」
「だが、そのような体裁よりも優先するべきものはある。
強敵が現れた場合は、迷わず全裸になってくれ!」
「かしこまりました!
流石は若様! 理解がありますわ」
「何なのこの会話……意味が分からないわ」
凶悪な魔物に全裸で襲い掛かる少女……あまり見たくないな。
いろんな意味で、強敵が現れない事を祈ろう。
奥に進むにつれ、敵との遭遇率も高くなるが、その全てが二人のメイドに瞬殺されてゆく。
露出狂も強いが、ピンク髪がぶん回している鉈も大概だな。
とても堅そうな甲虫型のユニットが、バターのように切れていく。
まるでジャスティスが作った剣のようだ。
「むっ! 左前方に幼女を発見!」
「こんな場所で何言っ……あれはユーヤの!?」
「ハナコちゃんだ!」
進行方向の左側に、赤いランドセルを背負ったおかっぱの少女が立っていた。
流石はリックだ。
幼女に関しては鼻が利く。
普段は役に立たない能力だが、今回だけは感謝するぜ。
「あの子ならユーヤの場所を知ってるかも……追うわよ!」
「あっ、まって!」
ハナコは俺たちの方をチラッと見た後、逃げるように走りだした。
俺たちは全速力でそれを追うが、距離は縮まらない。
小学生とは思えない速さだ。
ハナコは門を潜ってマウルの町へと入り、俺たちも後へと続く。
だが、それが迂闊だった。
「な、なんじゃコレは!?
このヨロイはわが国のヘイシではないのか?」
「ロッテちゃん!?」
「しまった! 見ちゃダメよ!」
「な、なぜじゃ……なぜ、うわああぁっ!」
俺たちの目の前には夕日に染められ、赤色に輝く小さな丘。
それは高く積み上げられた傭兵たちの遺体の山であった。
温室育ちのお姫様に見せられるようなものではない。
ここの惨状を、俺は知っていた筈なのに……。
「王女様、失礼致します。ハッ!」
「とりあえず気を失わせましたが……」
「ミスティがあとで、こわいのこわいのとんでけー、してあげるね」
「あら? 記憶を消すことも出来るのですか? 流石ですわ」
露出狂の攻撃で気を失わせ、ミスティの魔法で記憶を消すことになったようだ。
かなり荒業だが、ロッテに関してはこれで一応解決か。
こいつら、なんでもありだな。
しかし、ハナコを見失ってしまい、探索は振り出しに戻ってしまった。
「待って! 上に誰か居るわ!」
辺りを探索しようと動き出したメイドたちをマリアが静止する。
彼女が指さしたのは遺体の山の上。
真っ黒な鎧を纏った騎士が、静かにこちらの様子を伺っていた。




