第二十四話 「骨董品屋」
薪拾いを終えた俺は、昼食を摂った後、ラルフの店にやって来た。
「お、兄ちゃんじゃないか。久しぶりだな。
色々と噂は聞いてるぜ」
「三日ぶりですね」
「はじめまして。わたしミスティ。
ますたーのお嫁さんです」
「何だ、少し会わない間に結婚したのか!
そいつはめでたい」
「ミスティ、その自己紹介は止めてくれ。
このおじさん本気で信じちゃうから」
「はーい」
ミスティは時々、自己紹介で俺の嫁を自称する。
符術士と相棒の関係は、ある意味では夫婦に近いのかも知れないが、嫁宣言が原因でからかわれる事も多いので勘弁して欲しい。
「で、今日は何の用だい?
新しい彼女を自慢しに来た訳じゃなさそうだが」
「どうしたらミスティが俺の彼女に見えるんだよ」
「そりゃ、兄ちゃんはロリコンだからな」
「ねぇ、ますたー。ロリコンってなぁに?」
「ミスティは知らなくていい」
「えー、ますたーのいじわる」
キリがなさそうなので、話の流れを無視して本題に移る事にする。
「ところで、ここは武器の買い取りもやってますか?」
「そいつは状態によるな。
修復して使えそうな物なら買い取らせてもらうぜ」
「じゃあ、このチートカッターを買い取って下さい。
どうも俺には合わないようで……」
「チートカッターって何だ?」
「あっ……」
思わず俺が勝手に決めた名称で呼んでしまった。
チートカッターとは、先日ラルフに売ってもらった魔法道具の短剣の事だ。
威力だけ見ればチートなのだが、如何せんコントロールが難しく、俺には使いこなせなかった。
俺はウリブー戦や、今朝のトレント戦での出来事を交え、ラルフに説明をする。
「ふむ。こいつにそんな威力があるとはな。
俺が使っても、せいぜい人間一人を吹き飛ばすのが関の山なんだが……」
「それも十分凄いと思う」
「いいぜ。目立つ傷もないし、一万で引き取ろう」
「え? それって買った時と同じ値段じゃ」
「いいんだよ。たったの三日だ。
貸してやったと思えばなんともねぇ。
それに兄ちゃんはこいつのお陰で借金を背負っちまったんだろ?」
「それはそうだけど……」
「だったら遠慮するな」
「ありがとうございます」
短剣をラルフに渡し、購入時と同じ一万ガルドを受け取る。
今の俺にとっては非常に大きい金額だ。
ラルフの心遣いが有り難かった。
「これで武器がなくなっちまったけど、どうするんだ?」
「ますたーはミスティがまもるの!」
ミスティが俺の左腕を掴み、意気込みを見せる。
「ありがとう。こいつは頼もしいや」
「尻に敷かれてるな、兄ちゃん」
そう言うのじゃない、と突っ込もうかと思ったが、実際の所ミスティが居ないと、俺は何も出来ないに等しいので台詞を飲み込む。
「とりあえず、ダメ元で骨董品屋を覗いてみようと思う」
「あそこならヘンなモノがいっぱいあるな。
ただ、あそこの店主気まぐれだからな」
「急いでないし、閉まってたら別の日にするだけですよ」
「それもそうだ。
兄ちゃんに相応しい魔法道具が見つかる事を祈ってるぜ」
「ありがとうございます。
ミスティ、次のお店に行くぞ」
「はーい。おじちゃん、またねー」
ラルフの店を後にして、骨董品屋を目指す。
この町の商店の営業日は不定期だ。
日本のように年中無休なんて事はなく、七曜の概念も無い為、週休二日ですらない。
店主の休みたい日に休み、働きたい時に店を開けるのだ。
マリアから聞いた話では、食料品店は比較的営業している日が多く、娯楽品等を扱う店は、たまにしか開店していない傾向があるそうだ。
俺が向かっている骨董品屋は後者に当たる。
「お、今日は開いてるみたいだな。
ごめんくださーい」
入り口に架けられた札に営業中と書かれているのを確認し、これ幸いと扉を開ける。
小さな店内には所狭しと、壺や絵画が展示されている。
そのどれもが古めかしく、価値は分からないが風格を感じる。
「ますたー、このお店つまんない」
「しーっ。良い子はそんな事言うもんじゃありません」
人差し指を立ててミスティを優しく叱りつけるが、時すでに遅し、背の低い老婆がこちらを睨みつけていた。
「若造がつまらない店に何の用かの?」
「すみません。
何か武器になる魔法道具があると聞いて来ました。
そこそこの威力で命中精度の高い物が欲しいのですが……」
「なんじゃ。あんた魔術師かい。
だったら、あっちの棚に色々あるわい」
「いや、魔術師じゃなくて符術士ですよ」
「符術士? そんなもん、この町には一人しか居らんわ。
そもそも符術士なら魔符があれば、他に武器なぞ要らんはずじゃ」
「最近、符術士になったばかりなんです。
武器が必要なのは、この娘に頼りすぎるのは良くないと言う、俺なりの考えによるものですよ」
「そのお嬢ちゃんが魔符の英霊だって言うのかい?
もうええ、付き合ってられんわい。
奥に居るから、買いたい物が見つかったら呼びなされ」
「じゃあ、適当に拝見させて頂きます」
店主らしき老婆は、俺の話を全く信じてくれなかった。
少し哀しいが、これが普通の反応なのだろう。
店の奥へと消えて行く老婆を横目に、俺は魔法道具の並べられている棚へと移動する。
棚には杖や水晶玉と言った、いかにもな物から、何に使うのか分からない木の板のような物まで、様々な魔法道具が展示されていた。
「うーん、見ただけじゃさっぱり分からないな」
「ますたー、こっちはおもしろいね」
「そうか? 俺にはさっきの壺と対して変わらないように見えるが」
「ますたーの武器をさがすんだよね?」
「あぁ。だけど、この量は悩むな」
「これ、ますたーにピッタリだと思うよ」
「ん? どれどれ」
ミスティが背伸びをしながら、棚の上の方にある魔法道具を指差す。
そこにあるのは拳大の小さな四角い箱。
長期間、放置されていたのか、箱の上には埃が積もっていた。
埃を払い、箱の中身を確認すると、数十枚のカードが入っていた。
「これはウィザクリ!?
しかも、日本語版じゃないか!」
それは俺が小学生の頃に遊んでいたカードゲーム、【ウィザード アンド クリーチャーズ】のカードであった。
【ウィザード アンド クリーチャーズ】、通称ウィザクリはクリーチャーを召喚し戦わせたり、魔法カードでそれをサポートをして、お互いのライフを削り合う対戦型TCGだ。
俺が小学生の頃にブームとなり、男子なら誰もが遊んでいる人気ゲームだった。
しかし、このゲームはバランス調整に難があった。
強いテーマのカードが出ると、半年以上は、そのデッキ以外では勝てないと言う、クソゲー環境が続く。
そして新しいテーマのカードが出ると、同時期に今まで最強であったテーマのキーカードを、ルール上使用禁止にするのだ。
それから暫くは新しいテーマのデッキが、最強デッキとして環境を支配する。
だが、それも一年後には禁止カード指定により没落し、新たなテーマが王者の座に君臨する。
十周年を迎える頃には、禁止制限カードの種類は三桁の大台に乗り、世界一禁止カードの多いTCGとしてギネスに申請したと言う噂まである。
そんな大味なバランス調整を繰り返している内に、プレイヤー数は年々減少していった。
俺も『このカード以外のフィールド上のカードを全て破壊し、破壊した枚数と同じ枚数を山札からドローする』と言うぶっ壊れ能力を持ったカードが流行った時期に、嫌気が差して辞めたクチだ。
これも【フェアトラーク】のカードと同じく、日本から転移したきたものだろうか?
クソゲーに泣かされた記憶も多いが、それでも久しぶりに触れるウィザクリのカードは懐かしく感じた。
「緑一色……しかもバーンデッキかよ」
パラパラとカードを流し見ると、クリーチャーカードは一枚もなく、全てが魔法カードだった。
こう言った魔法カードのみで構築されたデッキは緑一色と呼ばれている。
魔法カードの枠が緑色である事から、麻雀の役になぞらえて付けられた名称である。
デッキの内訳は、相手のライフに直接ダメージを与えるカードが大半で、残りにクリーチャーを破壊するカードや、ドロー補助のカードが少々。
随分前に引退した俺が見ても、一目で弱いと断言出来る内容だった。
「これが役に立つとは思えないな」
「まって!」
カードを棚に戻そうとすると、ミスティが俺の腕をつかみ、それを阻止する。
「ますたーはそれの使い方わかるよね。
ここで使ってみて。おねがい」
「これの使い方と言われても……」
ウィザクリで遊んでいた頃の記憶を辿ってみる。
山札をシャッフルし、五枚を引いて手札にする。
初期手札の枚数の違いこそあれ、この辺りはほとんどのTCGで共通だ。
ジャンケンで先行後攻を決め、ゲーム開始。
これも開始時に言う台詞があった筈だ。
「確かこんなだったはず……呪文詠唱!」
俺の台詞にカードが反応し、空中で自動的にシャッフルされる。
その様子は召喚戦闘の開始時にそっくりだった。
やがてシャッフルが終了し、俺の左手に山札から五枚のカードが飛んでくる。
相手のライフに直接ダメージを与える《火の玉》と《針千本》。
攻撃クリーチャーを破壊する《地雷》。
クリーチャーを手札に戻す《突風》。
そして最後の一枚は《手札交換》。
「これは!?」
「だから、ミスティが言ったでしょ。
これがますたーにピッタリだよ」
「なるほど。試してみるか」




