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第十一話 「魔力」

「ここで買える物はこのくらいかしら?」

「そうだな、後はそれが欲しいな」


 俺はマリアの腰を指差す。


「な、何言ってんのよ! 変態!

 わ、私のパ……パンツが欲しいだなんて!」

「お、兄ちゃんの得意技のセクハラか」

「ちげーよ! 俺が欲しいのは、そのデッキホルダー!」


 顔を真っ赤に染めながらスカートを押さえるマリアに、全力で突っ込みをいれる。

 俺が欲しがっているのは、彼女がベルトに着けているデッキホルダーだ。

 昨日の召喚戦闘で、彼女がデッキを取り出す姿はカッコよかった。


「そいつは符術士専用だからな。

 在庫があるかどうか、ちょっと待っててくれ」


 ラルフが奥の部屋へと消える。


「紛らわしいのよ!

 普通に考えて、私の物であなたが欲しがる物なんて、下着くらいしかないじゃない」

「俺の扱い、酷くね!?」


 昨日の行いが悪かったのは認めるが、あまりにも酷い自分の印象に悲しくなる。


 程なくして、ラルフが奥の部屋から戻って来る。

 幸い、ラルフの店に同じ物の在庫が有った為、俺は念願のカッコいいデッキホルダー(仮)を手に入れる事ができた。


 試しにデッキを入れてみたが、二重スリーブだと厚みがある為、五十枚全ては入らなかった。

 仕方がない。

 後でオーバースリーブを外すか。


「符術士でもないのに、そんな物買ってどうするのよ」

「いいんだよ」


 マリアは呆れていたが、俺は満足していた。

 これも男のロマンってやつだな。



 ◆◆◆◆



 休業日なのにも関わらず、対応してくれたラルフに礼を言い店を出た。


 続いて、服屋で着回し用の普段着を何着か購入する。

 男性下着コーナーに向かう時に、マリアに罵られたが無視した。

 こっちに来てから、変態扱いされるのに慣れた気がする。

 って慣れちゃダメだろ。

 このレッテルを剥がすために頑張ろう。


 一時間程で生活必需品の買い物を終え、寮へ帰宅する。

 幸い、生活必需品に関しては日本に近い物がひと通り揃った。

 残念ながら、魔法道具(マジックアイテム)を取り扱っていると言う骨董品屋は休業だったが、場所は覚えたので後日改めて伺おうと思う。


「こんな短時間で買い物が終わったのは、マリアのお陰だな。ありがとう」

「別に、大した事じゃないわよ」



 ◆◆◆◆



 寮の入り口でマリアと別れ、自室に戻る。

 色々と雑用はあるが、まずは着替えだ。

 こっちに来てから丸一日同じ服を着ているからな。

 ローブは一点物なので今日は我慢して着続けるが、インナーは着替えておこう。

 ついでに屋上にあるという全自動洗濯機も使ってみよう。


 着替えを済ませた後、洗濯物を抱えて屋上へ上がる。


「あら、イズミさん。おかえりなさい。

 デートはどうでした?」

「お陰で色々と助かりましたよ。

 それと、デートじゃないです」


 屋上で洗濯物を干していたアリスに声をかけられた。

 物干し竿には、彼女のエプロンや下着が掛けられている。

 それにしてもマリアのものとは凄い違いだ。

 まるで煎餅とメロンだな。


「あらあら、一応言っておきますけど、下着泥棒は土下座程度の罰じゃ済みませんからね」

「そんな事しませんよ」


 洗濯物をじっくり見すぎてしまった。

 変態のレッテルを剥がすために、頑張ろうと誓ったばかりだと言うのに迂闊だった。


「そうよね。イズミさんはマリアちゃんのような慎ましい胸が好みですものね」

「それも違います」


 昨夜の出来事のせいで、俺の地位は最底辺まで下落しているようだ。

 せめて貧乳好きと言う誤解だけは解きたい。

 とにかく、話の流れを変えよう。


「すみません。この洗濯機ってどうやって使うんですか?」


 寮の全自動洗濯機は、形こそ日本の物にそっくりだが、ボタンやダイヤルのようなスイッチの類が付いていない。

 とりあえず、洗濯槽に洗濯物を放り込んで蓋をしてみたが、ピクリとも動かなかった。


「右上の宝石の部分に指をあてて、魔力を注げば動きますよ」


 よく見ると、確かに蓋の右上の辺りに宝石のような物が露出している。

 言われた通り指をあててみた。

 しかし、魔力を注ぐ方法がさっぱり分からない。


「指先に意識を集中して、動けと念じてください」

「ほう」


 ダメ元でやってみるか。


 動け……動け……動け動け動け!


 すると、洗濯機がゴゴゴゴと音を立てて動き出した。


「これが魔力を注ぐ……か」


 やれば出来るもんだ。

 部屋の鍵も同じ要領で出来そうな気がする。

 感涙に浸っていると数分で洗濯機は静かになった。


「あれ? やっぱり失敗か」

「もう終わってると思いますよ」

「え?」


 洗濯機の蓋を開けてみると、洗濯物の汚れは綺麗さっぱりなくなり、脱水も終わっていた。

 思えば洗剤を入れてない気がする。

 異世界のハイテクに驚きを隠せない。


「あちらの物干し竿が空いてますから、どうぞ」

「ありがとうございます」



 洗濯物を干した後、部屋へ戻り地道な作業を行う。

 デッキを取り出し、五十枚全てのカードからオーバースリーブを外すと、腰のデッキホルダーにピッタリと収まった。

 ホルダーの底のボタンを押すと蓋が開きデッキが飛び出してくる仕組みだ。

 この無駄なギミックが溜まらなくカッコいい。


 ふと時計を見ると正午を回っていた。

 寮で食事が提供されるのは朝と夜だけ。

 昼は外で食べなくてはならない。

 しかし、俺は冒険者ギルドの食堂以外に外食出来る店を知らない。

 どうせギルドカードを受け取りに行くのだから、ついでに昼食を摂るとするか。



 ◆◆◆◆



 冒険者ギルドに入り、真っ直ぐに三階の食堂を目指す。


「いらっしゃいませ。

 本日はお一人様ですかニャ?」

「ああ、今日は一人だ」


 昨日と同じく、本物と見間違うほどリアルなネコミミをした店員に応対され、座席へと案内される。

 その途中、奥の席にもう一つの白いネコミミを発見して立ち止まる。

 間違いない。

 あのネコミミはニコだ。

 ハンスと何故かマリアの姿も見える。


「すみません。奥に知り合いが居るみたいなので相席いいですか?」

「分かりましたニャ。

 ほう、彼らと知り合いと言う事は、イズミさんは冒険者寮に住んでるのかニャ?」

「察しがいいな」


 寮には俺を含めて五人しか住んでいないから、簡単に推測出来ることか。

 シンディにデパティとウリブーサンドを注文し、三人に声を掛けた。


「よ、お疲れさん」

「あ、ユーヤお兄ちゃん」

「何だ、イズミか」

「隣座っていいか?」

「うん……」


 ニコの隣の座席に腰を落ち着ける。

 二人とも何だか元気がないように感じる。

 いや、ハンスはいつもこんな感じか?


「どうした? 仕事見つからなかったのか?」

「いや、良さそうな依頼を見つけはしたんだが……」


 美味しい仕事を見つけたが面接で落とされたとか、そう言う類だろうか?

 俺も何件かバイトの面接で落とされた事があるから、落ち込む気持ちは分かる。


「お待たせしましたニャ。

 ウリブーサンドとデパティになりますニャ」

「お、来た来た。いっただきまーす」


 ウリブーサンドを頬張りながら、ハンスの話を聞く。 


「農業組合からの依頼で畑を荒らす野生動物(モンスター)の討伐なんだが……」

「俺だったらもっと危険の少ない仕事がいいけどな。

 コンビニの店員とか」

「コンビニってなぁに?」

「一言で言うと、色んな物を売ってるお店だな」


 こっちにはコンビニは存在しないのか。

 ボロを出さないように気を付けよう。 


「残念だけど商店は商人ギルドの管轄だし、殆どが世襲制だから無理よ。

 商人と冒険者を兼業してるのはラルフのような物好きだけよ」


 今まで黙って食事をしていたマリアが口を開いた。

 出来れば安全な仕事に就きたいが、小売業が無理となると選択肢は少なそうだな。

 昨日、依頼書の写しをチラ見した時も討伐系の仕事が多かったと記憶している。


「畑を荒らす野生動物(モンスター)の討伐は良い選択だと思うわ。

 畑をターゲットにしてるという事は草食動物の可能性が高いから、他の討伐依頼に比べると危険度が低いはずよ」

「なるほど」


 一概に野生動物(モンスター)討伐と言っても、ターゲットによって難易度に幅がある。

 特に俺のような雑魚は、なるべく弱いターゲットを選ぶ事が重要だろう。


「報酬は一万ガルド。

 条件の良い仕事だと思ったんだが、依頼者の要望で成人を含む三人以上のパーティじゃないとダメなんだ」

「一人足りないって訳か。

 成人ってのは二十歳以上か?」

「十七歳からよ」


 十七歳で成人か。

 意外と若いな。

 って事は、マリアも成人扱いになるのか。


「なによ」

「いや、マリアが同行すれば良いんじゃないかと思って」


 マリアを見つめていたら反応されたので、適当にはぐらかす。

 女子中学生にしか見えないのに成人扱いか、と思っていたのは内緒だ。


「んー、お姉ちゃんが一緒だと嬉しいけどダメ?」

「同行してあげたいけど、昨日の豚が王都の監獄に送られるまでは町で待機しなきゃならないのよ」


 昨日の豚と言うのは盗賊に味方していた小太りの符術士の事だろう。

 この町には符術士に対抗出来るのがマリアしか居ないから、万が一の事態に備えて待機命令が下されているそうだ。


「そっかぁ。じゃあユーヤお兄ちゃんは?」

「え? 俺?」


 俺は十八歳だから成人してる事になるが、正直いきなり野生動物(モンスター)討伐は怖い。

 ここは一旦答えを保留にしたい。


「とりあえずギルドカードを受け取ってから考えさせてくれ。

 ところで二人は何歳なんだ?」

「ボクは十二歳!」

「十六歳と……九ヶ月だ」


 九ヶ月と言う単語が強調されていた。

 たったの三ヶ月の差で弾かれるのが悔しかったのだろう。

 エロ本が欲しくても買えなかった数ヶ月前を思い出す。


「ごちそうさま。

 じゃ、俺は下で用があるから」

「ありがとうございましたニャ。

 またのお越しをお待ちしておりますニャ」

「ここのトンカツ……じゃない、ウリブーサンドは美味いから、また来るよ」


 雑談を交えながらも昼食を完食し、一階へと降りる。

 そろそろ、俺のギルドカードが出来上がっているはずだ。

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