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約束

テオフィルが預かってきた、ガイラル師達からのお祝い品をステファンに渡す。ステファンが包みを開くと、中からは複雑な術式を組み込まれた魔石やら護符やらがざくざくと出てきた。テオフィルが術式を読み解いて、二人に教える。


「どれも、防御系の術式ですね。防御力強化とか、身体強化とか、生命力向上とか」

「流石は魔術師の卵だねぇ。オレ、こんな模様みたいなの意味分からないよ」

「どれも子供の怪我防止には役立ちそうだよ。有難い。どうやら、この子はかなりやんちゃな感じだからな」


魔術師らしいお祝い品の数々に、ステファンもヴィルヘルムも目を丸くした。こんな品は、一般庶民がおいそれとは手に入れられないだろう。


「これは、ボク達からだよ!」


エルネスタが包みを差し出す。受け取ったステファンが包みを開いて、中から取り出した毛織物をヴィルヘルムの膝に広げた。ヴィルヘルムはそれを手に取って、目を細める。


「いい色合いだ。柔らかくて手触りもいいし、暖かいね。この子のおくるみに使わせて貰うよ」

「嬉しい!」


ヴィルヘルムが抱いている子に、膝の毛織物を羽織らせて被う。織物の鮮やかな色合いが、目鼻立ちのはっきりしたこの子にはよく似合っていた。


「名前は決めた?」

「ステフと俺で意見が分かれてね。エルはどちらがいいと思う? 『ウルリヒ』と『ユリウス』」

「ボクなら『ウルリヒ』かなー」

「よし! 俺の案が支持されたぞ!」


常になく(はしゃ)ぐヴィルヘルムの様子に、皆は珍しいものを見た気分になった。ステファンが笑って、ヴィルヘルムの肩に手を置く。


「なら、ヴィルの案にしよう。この子は、今日からウルリヒだ」

「ウル、よろしくねー」


エルネスタは、眠るウルリヒの頬を指でちょんと(つつ)く。テオフィルも傍に寄って、ウルリヒの顔を覗き込んだ。


「小さいな、赤ん坊って」

「見てると、幸せな気分になるね」

「ああ、そうだな」


小さなウルリヒを見詰めるテオフィルの顔が、少し歪む。泣き出しそうな雰囲気を感じて、エルネスタはテオフィルを引き寄せた。テオフィルは、ソファに座るヴィルヘルムとエルネスタの間で、足元に蹲る。エルネスタが宥めるようにテオフィルの頭や背を撫でると、テオフィルがぽつりぽつりと話し始めた。


「俺がこんな小さかった時、俺の親もこんな風に眺めてたのかな……」

「きっと、そうだよ」

「……今まで、話した事なかったけど……俺、親いなくて」

「そう……」

「村が魔獣の群れに襲われて、俺の親は小さかった俺を連れて逃げて、雪崩に巻き込まれたらしいんだ……駆け付けた隣の村の衆に助け出された時、俺を庇って、もう……」

「うん……」


俯くテオフィルに、ヴィルヘルムやステファンからも手が伸び、肩や背を撫でる。そして、忍び泣くテオフィルが落ち着くまで、三人の手はその震える躰を撫で続けた。


暫くして、落ち着いたテオフィルが照れ臭そうに言った。


「済みません。お目出度い席で」

「いや、構わないよ」

「オレ達、皆、親無しなんだな」

「ボク、テオもそうだなんて、知らなかったよ」


ヴィルヘルムやステファン、エルネスタが口々に言う。テオフィルがぽかんとしていると、それぞれ自身の身の上を掻い摘まんで説明した。


「俺は親の顔も知らない。村の長老に育てられた」

「オレの村は、流行病(はやりやまい)で全滅したよ」

「ボクははっきりとは覚えてないなー両親の顔って。小さい時、死に別れて、養父母の所で育ったから」


テオフィルが順々に顔を見回すと、皆笑顔を見せる。独りではないと、笑いかけた。テオフィルもぎこちなく笑顔を返す。エルネスタが、殊更明るい声で言った。


「殆ど両親の記憶ないけど、覚えてる事があってね、それが光る森の風景を両親と一緒に見ているところなの」

「光る森?」

「森の中が、ボクの精霊魔法みたいな光でいっぱいなの。それをまた見たくて、東部大森林地帯に行ってみたいんだ」

「そういうことか」

「だから、躰を鍛えなきゃ、なんだよ! また鍛練に付き合ってね、テオ」

「ああ、任しとけ」


笑い合うエルネスタとテオフィルに、ヴィルヘルムが言い添える。


「ウルが大きくなったら、護衛に着いて行ってやるからな」

「約束だよ!」

「その頃には、もう一人増えてたりして」


ステファンが(おど)けて言い、ヴィルヘルムから小突かれていた。


「誰も、オレ達のって言ってないだろう? な?」


ステファンが意味深な目でテオフィルの方を見遣ると、ヴィルヘルムもニヤリと笑い頷く。


「そうだな。まあ、頑張れ、テオ」

「……」

「テオが何を頑張るの?」

「……先は長そうだ」


ヴィルヘルムやステファンからポンと肩を叩かれて、テオフィルは項垂れた。エルネスタだけが、訳が分からずに首を捻る。


家の中で、笑い声が響くのを横目に、裏庭で寛ぐ翼犬のヒューイがくわっと大口を開けて欠伸(あくび)した。

ここで一旦、完結とします(^^)


続きは、「行き倒れを拾ったら何だか知らないが懐かれた件」の子育て編の後、再開予定です(;^_^A


先は長そうだ……(°∇°;)

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