こんにちは赤ちゃん
そして、一ヶ月後の休日、エルネスタはヴィルヘルム達の所へお祝い品を届けに行く。魔力タンク兼荷物持ちのテオフィルとは、王宮前広場で待ち合わせた。エルネスタがお祝い品の包みを三つ抱えて行くと、もう既に来ていたテオフィルの手にも箱がある。
「おはよう、テオ。それもお祝い品?」
「そう。ガイラル師達から預かった。それ半分持つよ」
「ありがとう。じゃあ、これお願い」
エルネスタは、自分たちの分とトールから預かった箱を残し、インゲからの派手な包みを手渡す。テオフィルはそれを受け取ると、エルネスタを転移出来そうな人気の少ない場所へ促した。
「ここからじゃ、転移し辛いから、あっちの奥まった所から跳ぼう」
「分かったー」
エルネスタは訓練の成果で、手を組まなくても魔力を循環させることが出来る。片手に荷物を持ち、反対側の手をテオフィルと繋いで、エルネスタは精霊の近道を使った。路地を歩く二人を色とりどりの光が包み込み、周りに見えていた王都の街並みが遠ざかる。次の瞬間、エルネスタにはお馴染みとなった、ヴィルヘルム達の家の裏庭へ転移していた。
以前来た時、エルネスタの魔力は殆ど空になった。今回は魔力量の多いテオフィルが繋いだ手から魔力を流し続けていてくれた為、一人増えて使用魔力が増えているにも関わらず、魔力残量にまだ余裕があるのを感じる。
「テオのおかげで、移動が楽だよ。まだ余裕あるみたい」
「そりゃ、何よりだ」
二人で話しながら表に周り、扉を叩く。
「おはようございます。エルです」
「よく来たねぇ。お入りよ」
ステファンが扉を開けて、二人を迎え入れてくれた。家の中では、従魔達に囲まれてソファに座るヴィルヘルムが微笑む。
「いらっしゃい、エル、荷物持ち君」
「おめでとうございます、ヴィルさん、ステフさん」
「おめでとう……で、その荷物持ち君って、何です?」
お祝い品をステファンに預け、ヴィルヘルムに駆け寄るエルネスタと、可笑しな呼ばれ方に首を捻るテオフィルに、ヴィルヘルム達はクスクスと忍び笑いが止まらない。
「何、ほんの冗談だよ。ようこそ、テオ」
「何か引っかかるけど、まぁ、いいや」
エルネスタは、ヴィルヘルムの膝に抱かれた子供に夢中だ。
「わぁーこんな小っちゃい時から美形ー流石はヴィルさんの子だぁー」
「今は寝ているから分からないけど、目はステフと同じ水色なんだよ」
「見たーい」
「後でね」
その様子を見守るステファンに、テオフィルが怖ず怖ずと問い掛けた。
「あの、凄い素朴な疑問なんですけど……その……どうして同性同士の二人の間で子供が出来るんです?」
「あははっ、それな!」
「エルはそこんとこ全くスルーなんで、それも不思議なんだけど……ステフさん、本当の処、教えて貰えませんか?」
「知りたい?」
「出来れば」
「ふふふ……秘密だよ」
「……ですよね」
ヴィルヘルムの性別を秘匿したいステファンが口を割る筈もなく、テオフィルは諦めて疑問を棚上げにした。
「そういえば、預かったお祝い品、中身は何ですか?」
「開けて見ようか。ステフ、お願い」
ヴィルヘルムに促されて、ステファンが包みを開く。まず一番目立つ派手な包みを開けた。中から、二人のペア衣装と同じ色合いのベビードレスが出てきた。インゲ渾身の作だ。他にも数枚のベビー服が入っていた。
「凄い! 綺麗!」
「インゲ女史らしいな」
ステファンが次に開けたのは、洒落た意匠の箱だ。レフが知り合いの魔道具職人に頼んで作って貰った一点物だと聞いている。箱の中から、凝った細工の宝石箱のようなものが出てきた。蓋を開けると、中から映像が浮かび上がり、音楽が鳴る。映像と音楽の記録魔石を使ったオルゴールだ。
映像は、街で行われたイベントでヴィルヘルム達が出演した人前結婚式の模様を写したものだ。街の商人同盟の関係者が写したのだろう。それを伝手を辿って手に入れ、オルゴールに加工したらしい。流石は上級冒険者達だ、顔が広いとみえる。
「わあっ、これ、結婚式の時のですよね? ボク、見に行ったんですよ!」
「そうだったんだね」
「この街起こしイベント、とても盛り上がってましたよねー」
「目まぐるしくて、あまり覚えてないんだ」
エルネスタとヴィルヘルムの会話を聞いていたテオフィルが、思い出したように言う。
「そういえば、初めてヴィルさん達に会った時、エルが二人を街の有名な冒険者達だって言ってたな」
「そうだっけ?」
「あの襤褸邸の四阿で会った時ですよ」
「ああ、思い出した」
テオフィルの言葉に、ステファンが頷いた。この四人は、あの四阿での出会いから始まった付き合いだ。エルネスタとヴィルヘルムも、あの草いきれの凄い荒れた庭での出会いを思い起こす。
羽根竜のルーイがギョエーと鳴いた。
次回で、一旦完結となります(゜∀゜)




