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訪問準備

一日の終わりに、自室でエルネスタは魔力を練る。伝言内容を考えながら魔力を放ち、色とりどりの光に小声で呟き、その声を魔法に乗せて飛ばした。


『ヴィルさん、ステフさん、あちこちからお祝いを預かることになってるの。何時、持って行ったらいい?』


暫くすると、ふわりと暖かみのある光が降りて来て、懐かしい声を伝えた。ステファンの声だ。


『一ヶ月位したら、ヴィルの体調が戻るだろうから、その頃に。子供と待っているよ。エル一人で大丈夫か?』


ステファンの問いに、エルネスタはにまにまと頬が緩む。返事を送る為に、改めて魔力を練り、伝言魔法を飛ばした。


『魔力タンク兼荷物持ちと一緒に行きます』


折り返し来た伝言は、含み笑いのステファンが話す声と一緒に、ヴィルヘルムのクスクス笑う声が被さって来た。


『楽しみにしているからね。荷物持ち君によろしく』


エルネスタは、何故そんなに笑われるのか分からないまま、ほんわかと幸せな気分で眠りについた。


エルネスタは翌日、テオフィルに伝言内容を報告しておいた。


「ヴィルさんの所に、二人で行くって伝えておいたよ」

「ヴィルさんは何て?」

「ヴィルさんは、クスクス笑ってた。ステフさんから、よろしくって」

「クスクス笑……エル、何て言って伝言飛ばした?」

「え? 魔力タンク兼荷物持ちと一緒に行きますって言っただけだよ? 悪かった?」

「……いや、いい」


テオフィルは居たたまれない思いで、ぐったりと項垂れた。エルネスタの言い草と、それに対するヴィルヘルム達の反応に、今の自分の立ち位置を見透かされた気分だった。その様子を、エルネスタは不思議そうに眺める。


「エル、余裕だな。鍛錬メニュー、もう少し増やそうか?」

「ええー!? もう充分だよー」


エルネスタについ八つ当たり気味の対応をしてしまい、テオフィルは後でこっそり落ち込んだ。


休日になり、エルネスタはいつもの通り、クリストフの下宿に行った。すると、下宿の共用リビングには上級冒険者達が勢揃いしている。エルネスタは面食らった。周りに居る、クリストフを始め初心者クランの面々も、緊張した面持ちをしている。聞けば、いくら『黒槌(こくつい)』トールの家とはいっても、こんな錚々たる顔触れが一堂に会する所など見たことはないという。


「皆さんお揃いで、どうしたんですか?」

「やあ、エル。待っていたよ」

「サイラスさん、ヴィルさん達へのお祝いの件ですか?」

「そうだよ。皆がバラバラに贈るより、いっそのこと一纏めにしようかってね」


エルネスタがサイラスと話していると、ラインハルトが派手な包装の箱を抱えて近付いて、エルネスタに持たせる。


「エル、インゲばーさんの所から、これ預かって来た」

「クリューガー・ブランドの服ですか?」

「俺も見てないが、ばーさん気合い入りまくりだったから、そうだろうな」

「一流ブランドの気合い入りまくり服! なんか凄そう」


トールからも、洒落た意匠の箱を渡された。


「これが、俺たち四人から」

「俺の知り合いの魔道具職人に頼んで作って貰った一点物だよ」


隣から、レフが言い添える。この箱の中は魔道具らしい。箱を二つ抱えたエルネスタは、思ったよりも大荷物になり、苦笑いした。傍で見ていたクリストフが、心配そうに聞く。


「エルは転移で街まで行くんだろう? そんなに大荷物で大丈夫か?」

「ボクの使う精霊の近道は、ボク一人なら然程魔力は使わないで済むよ」

「どうせ他にもお祝い品を持って行くんじゃないか?」

「そうだけど、今回は荷物持ちも一緒に行くから平気!」

「荷物持ち?」

「テオが荷物持ちしてくれるって。魔力譲渡して貰えるし、丁度いいよ」

「……そう」


クリストフがどんよりと落ち込んでしまい、エルネスタは困惑した。周りの上級冒険者達は、声に出さずニヤニヤと笑って見ている。 エルネスタは恨みがましい目で、上級冒険者達を見回した。サイラスがそっとエルネスタに耳打ちする。


「クリスは、エルと一緒に行くテオに嫉妬しているんだよ」

「え、クリスが? テオに?」

「逆の場合を考えてごらん。クリスがエル以外の女の子と、何処かに出掛ける所とか」


エルネスタは考えてみる。クリストフと、誰か他の女の子──適当に思い付かないので、セレンディアを思い浮かべた──が出掛けている。別に、何とも思わない。せいぜい、セレンディアが暴走しなければいいな、と思う位だ。首を捻っているエルネスタを見て、サイラスは更に言葉を重ねた。


「じゃあ、テオがエル以外の女の子と出掛けているとしたら、どう?」

「うーん……」


再びセレンディアにご登場願って、考えてみる。テオフィルと並んで歩くセレンディアの姿、媚びてしな垂れ掛かる様子まで想像してしまい、エルネスタの内にカッと火が灯った。


「想像出来たみたいだね。それが嫉妬だよ」

「これが……嫉妬……」


エルネスタは、自分の中にある未知な感情を持て余し、途方に暮れた。

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