買い物デート?
エルネスタが里帰りする前に、テオフィルと共謀してお節介を焼いたセレンディアの件は、無事に武闘派の一人との付き合いに発展したようだ。幸せそうなセレンディアと、鼻の下を伸ばす武闘派見習いとを見ていると、つい生温かい目になる。
「これで、セレンディアからのとばっちりはもう来ないよねぇ?」
「多分な」
話しながら、二人で王都の賑やかな通りを歩く。昼の休憩時間を使って、ヴィルヘルム達への出産祝いを見繕いに来たのだ。結局、事前に相談してみても、これといった案は浮かばなかった。実際に物を見て判断しようと、ここまで出向いて来たのだった。
「服なんかは、有名ブランドのマネキンをしているくらいだもの、沢山貰うよねぇ?」
「料理上手らしいし、下手な菓子とか口に合わないと困るな」
「何がいいんだろー」
「エルの気持ちが籠もったものなら、何でもいいんじゃないか?」
「それが一番困るんだよー!」
エルネスタ達が雑貨屋の店先で商品を眺めていると、声を掛けられた。振り返ると、白髪で赤目の細身な人が微笑んで立っている。
「エル、買い物デートかい?」
「サイラスさん、お久しぶりです」
挨拶を交わすエルネスタとサイラスの親し気な雰囲気に、隣に並ぶテオフィルから鋭い視線が飛ぶ。人見知りしなくてもいいのにとエルネスタは苦笑しながら、テオフィルにサイラスを紹介した。
「テオ、この人は上級冒険者の『白爪』のサイラスさんだよー! 前に、トールさんとこのクランで騎獣狩りに行った時にご一緒したのー」
「その前に、迷子のエルを拾っただろう?」
「そうだった! サイラスさん、こちらはテオっていって、魔術師見習いなんだよーボクの兄弟子ー」
「どーも」
柔らかく笑むサイラスに対し、テオフィルの表情は固い。ちゃんと紹介しても警戒の解けないテオフィルに、エルネスタは内心で首を捻りながらサイラスと話した。
「ヴィルさんのとこのお祝いを探しているんだよー」
「ヴィルが何か目出度いことでもあるの?」
「もうすぐ、子供が産まれるの」
「誰の?」
「ヴィルさんとステフさんの」
「はぁ!?」
エルネスタの話に、サイラスは目を剥いた。唖然として目を見開くサイラスを見て、エルネスタは困惑した。
「言っちゃいけなかった?」
「いや、そう言う訳じゃなくて、有り得るのか? それ」
「だって、ボク、実際にお腹の赤ちゃんに挨拶されちゃったし」
「挨拶って、どうやって」
「ヴィルさんのお腹に触ったら、中から蹴られたのー」
「……そう」
サイラスは、かなり困惑の度を深めていたが、エルネスタにヴィルヘルム達への言付けを頼み、立ち去った。
「じゃ、ヴィル達によろしく言っといてくれ。またな」
「はぁい」
二人と別れたサイラスは、上級冒険者仲間に伝言魔法を飛ばしていた。
『重大事案有り。至急、集合すべし!』
彼らの集まりが紛糾するのは、火を見るより明らかだが、エルネスタはそれを知る由もない。
結局、その日はこれといった物が見付からずに、二人はそれぞれ外宮と魔術師団塔へ帰った。
午後の仕事を終えて魔術師団塔へ来たエルネスタは、セレンディアと顔を合わせた。付き合い始めた相手と順調なセレンディアは、上機嫌でエルネスタに言う。
「アンタ達、デートしてたんだって? やっぱり色目使って落としてたんじゃない。やるわねぇ」
「え、誰が、誰と?」
「アンタとテオフィルさんよ」
「はぁ!?」
エルネスタはセレンディアの発想に着いて行けなかったが、端から見たらそう見えるものかも知れないと青ざめた。そう言えば、サイラスと会った時にも、開口一番で買い物デートかと問われたのだった。
「今日、出掛けたのは、共通の知り合いへ贈り物を探しにだよ」
「充分、デートじゃない」
「え、そうなるの?」
「アンタねぇ、その気が無いなら、思わせ振りな態度はダメでしょ? 相手が気の毒よ」
「ボク、思わせ振り?」
「アンタは相手の顔見て、何とも思わないの?」
「うーん……」
エルネスタは、テオフィルの顔を思い返す。自分に向ける顔は笑っている事が多く、出会った頃からそれは変わらない。他の人へはどうだろうか。セレンディアを始め、魔術師見習い達へは、無表情なのが大半だ。先程、初対面のサイラスへは、明らかに威嚇を込めた視線を投げていた。基本、テオフィルは無愛想な部類かも知れない。
「テオって、無愛想?」
「優しくはないわねぇ、アンタ以外」
「そっかぁ……あれ? 何だか、セレンディアが優しい」
「女同士なんて、男が被らなきゃ揉めること無いでしょ」
「うわぁ、そんなの初めて知ったよ」
目を丸くして驚くエルネスタに、セレンディアはカラカラと笑った。
エルネスタに、待望の女友達が出来た。




