夏祭り
使用お題ふたつ
「俺はお前らとは違うからな」
遠く祭り囃子を聞きながら赤い髪を躍らせた狐面の男はふぅと火のついた枝を地面にこすりつける。
狐面の男。赤狐と言い、もう一人いる髪を背で結わえた男、蒼笠の友人だった。
「そうかい? 気が向いたらいつでも来るといいよ」
蒼笠は銀杏色の派手な羽織の袖をふらりと揺らして手を差し出す。赤狐はちらと視線を向けたようだが、断りを入れるかのように木の枝を手折った。
「俺はあくまで剥製作りだよ。あんたらみたいな繰り手じゃないさ」
人里は苦手だと自嘲するかのような声音に蒼笠は軽く赤狐を見やる。
「似たようなものさ。やれ。紅飛沫。帰るからご挨拶おし」
良い反応を引き出すことは無理と判じた蒼笠は足元に佇む人形に声をかける。
漆黒の髪は濡れたように艶艶しく真っ直ぐ腰のあたりまで。白く染め上げられた木地に彫り描かれた顔。紅をひいたぷくりとした唇。
赤い着物の人形だった。
ひょこりと頭を下げると人形は蒼笠を見てから赤狐に微笑みを向ける。
「あい。ぬしさま。赤狐さま。此度はぬしさまの案、おことわりありがとうござんます」
「……紅飛沫」
「わちは『消沈』する心の動きをくろうて動きよるゆえ、今もぬしさまより力を分けていただいたんす」
蒼笠が落ち込んでいるとしゃあしゃあと言う人形に赤狐と蒼笠は乾いた笑いをこぼしあう。
「生意気な人形だ」
「あれ。そう造られたんはぬしさまで」
ころころと人形は笑う。
「赤狐。繰り手には作り手も必要だ。ぬしがなにから逃げようと構わん。ただ、いつでも訪ねてこい。それに、今宵は祭りの夜。存分に楽しんでいけよ」
黙りこくる赤狐に蒼笠は好きに言い放つと、人形娘を肩へと抱え上げる。
「そら。闇幕に花が開くぞ」
三対の目が見上げる樹々の合間には闇が広がる。
いつの間にやら祭りの灯りが減り、囃子も静まっていた。
広がる闇とざわつく静けさ。
ひぅうううと空を切るような音だけが世界をしめた。
どーん。
大きな音が空気をつんざき震わせる。
闇の中光の矢が走り、カッと花開く。
ばらばらと火の粉が弾ける音。
息を呑む静寂。感嘆の吐息。
そして、歓声が広がる。
祭りに紛れ、人形を抱え上げた男も狐面の男も雑踏に紛れ確認はできない。
夏の終わりの最後の祭り。
夜空に広がった火の花が世界の広がりを締めるように華やかに舞っていく。
ただ、その朝に枯れた静寂が残るのだ。
一本の折れ枝が転がる。
【消沈】を源に動く日本人形を操る男傀儡師。派閥は『翠月』。性格は傲岸不遜、気だるげな目が特徴です。 #懐来町 http://shindanmaker.com/535276
夏の終わりは世界が小さくなる
#1titles2U http://shindanmaker.com/535078




