アンティーク
使用お題ひとつ
有線の電話機がチェストの上にぽつんとのっている。数字の上に穴があいたまるい円盤。アンティークの電話機で使えるなんて考えてもいなかった私にあなたは笑って「まだ現役なのよ」と教えてくれた。「不便じゃないか?」と聞けば「適度な不便さが良いし、最新機器って苦手で」とやはり笑っていた。すこし困ったように。
穴に指をかけて教わったように回す。離す。
次の穴にかけてまた回す。そしてはなす。
すこし重い気のする受話器片手に慣れない機器を使う。
じー、ころころ。
不思議な音が数度繰り返される。
あなたの出先にある電話機は古いとはいえプッシュなのに。うまくつながるのかすらほんのり不安になりながら受話器を持ち直す。
どの番号まで回したかしら?
ぷつっと音がして『もしもし?』あなたの声が聞こえてほっとする。
「つながったぁー」
ついこぼれた言葉と声にあなたが笑ったのが伝わってくる。笑われたのが悔しくて不安を言いつのりたい思いがわきあがる。
『どうしたの?』
「あ、大根!」
『大根?』
「ないから買ってきてね」
だって今日は秋刀魚を焼くの。
大根おろしをつくらなきゃ。
『いいけど、大根?』
「大根おろしをつくるの。よろしくね」
お題は【秋】の季語である「秋刀魚」を使った「電話を掛ける」お話です
#季節しばりのお題 #shindanmaker
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