束縛のおわり
使用お題ふたつ
「まだこんな場所があったのか」
ついこぼれた言葉には安堵が含まれていることを認識して自嘲する。壊してきたのは私なのだから。ああ。それでも破壊の痕跡の見えない静かな場所は美しい。
「天使!?」
足元からの声で人の接近に気がついていなかったことに自己の反省を促す。注意力散漫はダメだ。ついはためかせた翼の風が樹々の枝を折り石を巻きあげる。この風で人を傷つけてしまっただろうか?
加減の効かない我が身が口惜しい。
できる限り慎重にまだ幸いにしてカタチを留めている人の子のそばに降りてみた。まさかの困った事態なんて考えもしていなかった。だって、人の子は儚い生き物なのだから!
「天使の羽根ゲット!」
人の子は元気だった。
握られた翼のはしっこ。天使の翼はエーテルであり物質ではない。天使の羽根は天使自身が望んで人に与える奇跡のひとつ。それを掴めるということはなんらかの意味がある。
ああ、神の声が聞こえるようだ。人と共にあり力を制御せよという呪いのように思える言葉が。手の中から消え失せた翼に人の子が目を幾度も瞬かせ私とその手を見比べる。
「詐欺だ!」
あんまりな叫び声に耳が痛い。破壊天使と言われても詐称天使と呼ばれる覚えのない私は怒りの感情を覚える。
「ああ、天使の羽根で一獲千金泡銭フィーバーがぁああ。この悪魔!」
身勝手に喚き叫ぶ。これが人という種族だろうか?
私は自らが姿を消す力もないことを確認しつつ制約を計らねばならない。苛立たしい喚き声が思考の集中を乱してしかたがない。
「誰が悪魔だ! 私はまごうことなく天使だ!」
乱れる集中判断力の中、わかったことは手を伸ばせばお互いの手が触れることができる距離がはなれることのできる限界だった。
一つ言おう「私のせいではない」
人の子も「俺のせーじゃねぇよ。羽根だけ素直によこしてりゃよかったんだ」
などと嘆くが諸々の行動私への対応がなかなかに罰当たりでこの手で制裁を加えられないことが苛立たしい。
お互いに解放されることを望んだ私達は赦しの天使が住うという場所を目指す事にした。
私は人の生き方を知らないし、人の子は人ならざるもののことわりを知らない。
ただ、腹立たしく苛立ちを感じてもこの人の子だけは私の力を持ってして滅びないのだ。
うとましい。
それなのにああ、私は手放したくない。
お互いに嫌悪しあいつつもなお共にある生涯を選んだ時、私ははじめて本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った。
解放される喜びさいごまで愚かな言葉を選ぶ軽口に。
「鬱陶しかったけど、まぁけっこう出し抜けたし、悪くなかったぜ」
人の命は過ぎてしまえば瞬きの夢。
間違いだらけの愚かな人の子で、私もまた愚かな行為に手を染めた。私を怒らせてはけらけら笑っていた。
「おまえの望みなぞ叶わないよ」
らしくない言葉で傷つけたかったのか。私は私がわからない。
人の子は咽せる勢いで笑う。
ひぃひぃ泣き笑いながら「またな。アンジー」と旅立つのだ。
呪縛は解け私の背にエーテルの翼が蘇る。
ああ、私は嬉しいのだ。この解放を喜んでいるのだ。
『またな』
本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った。
互いにいがみ合う、大陸一の怪力をもつ天使と、ギネス級バカのスパイが呪いのせいでお互いから離れられなくなり、解呪のためにドタバタ騒動を起こすコメディー
#こんな二人のファンタジー物語
shindanmaker.com/720702
お話は
「まだこんな場所があったのか」で始まり「本当に嬉しいとき、言葉よりも涙が出るのだと知った」で終わります。
#こんなお話いかがですか
shindanmaker.com/804548
コメディーどこいった?
あと人の子は俺っ娘っす




