光るしるべ
使用お題ひとつ
「まだ、こんな場所があったのか」
うっとりと陶酔した声が少し先をいく父からこぼれた。僕は足元を注意していた視線を起こし、その父の背越しに見えたのは一見ただの洞窟だった。
ただ、その床も壁も天井にすら明らかに人の手による加工、線による壁画がひろがっていた。その上を覆う砂埃を払えば触れた部分がなぜか淡く光り薄い光を線上に伸ばしていく。
美しい光でつい見惚れる。懐中電灯の灯りを反射している?
触れた部分以外からも伸びてるのに気がついて足元を見れば父の足元からも僕の足元からも光りが気味悪く伸びていく。
まさか僕らから伸びてる?
興奮している父は気がついていないのだろうか?
「素晴らしい。どんなイキモノがこれを描いたのだろう!?」
「ヒトじゃないの?」
興奮している父は時々常識をぶち捨てる。
「確かに人間の発想力想像力そしてその発揮力は同じ種族とは思いきれないほどの多様性を誇る。これほどまでに理解し難い美を描くならもう別種と言えるな」
感動で声が大きくなっている。父のその発想力も大概な気がする。
「世の伝承には吸血鬼やニンフ、人に近い異種も存在している。彼らは確かに同じ種だとは思えない」
父の夢みる言葉にお話だよねと突っ込める姉ほど強くない僕はただ大人しく聞いている。その間も光りはどんどんひろがっていく。光源のモトはいったいなんだろう。命じゃない保証がない分ひどくこわい。
「どこまで続いているんだろうか。灯りを整えて潜りなおすか」
そう言った父の言葉に目を見張る。こんなにも明るいのに!?
ただ驚いて父を見ていた僕に気がついたのか父の手が僕の肩を叩く。
「暗い場所は苦手だったか?」
帰ってベースで休んでいてもいいぞ。と。洞窟内は明るく父の手は冷たく感じた。
「一度、ベースに戻ろ。おなかすいたし」
ああ。僕は他に言葉を選べなかったのか?
ひどくつまらない言い方だった。まるでここに興味がないかのようにも聞こえるだろう。
それでも、父は軽く笑い数枚洞窟内を撮り「出るか」と僕の肩を押してベースに戻ることを選んでくれた。
歩くとすでに光っていた線上は違う色の光を放つ。そうだ。父に見えていたならば父はステップを踏んで楽しむだろう。
つまり父と僕は違う景色を見ているのだと思えた。
出入り口までの通路に線はなかったはずでただの岩と土砂の洞窟だった。それなのに今僕の目には岩の隙間、土砂の下からほんのりと光りがもれている。
その光がぞわぞわとこわくてしかたがない。無意識に注意力を散らし急ぐ僕に父は注意を促す。イノチを吸い取られていたらどうしよう。一度思いついた思考が止まらない。
僕はおびえていたんだ。
「おかえりなさい」
姉が洞窟の入り口で手を振ってくれる。
待っていてくれたんだ。
足元の光る線が不自然に消えていく。僕は安心すると同時に首をかしげる。
なんで?
姉も首を傾げて「どうしたの?」と聞いてくる。僕は何か言いたかったけれど、言葉がうまく出なかった。
「まだこんな場所があったのか」で始まり「何か言いたかったけれど、言葉がうまく出なかった」で終わります。
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