いらない愛
使用お題ひとつ
君に出会ったのは仕事帰りでふらつく夜。
君はそっと物陰から僕を見つめていた。
いるな。
僕はただそれだけを認識し、家路へ急ぐ。
次も同じ場所で君は僕を見つめていた。
疲れ果てていた僕はやっぱりいることをちらりと認識して忘れていった。
雨が、降る夜だった。
君がふらつく僕のそばに寄ってきたのは。
連れていけとばかりに君は僕をじっと見上げていた。
少しばかり先の道路で急ブレーキの音が聞こえた気がした。
濡れそぼる君に僕は手を伸ばす。
君はひどく大人しく僕に身を任せた。
じっとりと濡れた君に僕の心は帰路へと意識が飛ぶ。
目の前にある光景に足がとまった。
雨でスリップしたのか不自然に止まった車。鳴り止まないクラクション。
窺うような灯りはついても誰も出てこない雨の夜。
君が、僕を引き止めなければ、僕は、と呼吸が早くなる。
ああ。ここはどこだろう。
そんなことを考えながら携帯電話をポケットから取り出し緊急番号をタップする。
車の窓を叩く頃、人の声に灯りが増える。
気遣わしげな声が混じる。
だれかが君と僕用にとタオルをくれた。
君と、君たちと出会ったのは仕事帰りのふらつく夜。
なぜか僕の家に馴染んだ君たちは僕の生き方を変えてしまった。
膝の上の君と帰る場所を忘れてしまった君。
もしかしたらいつか消えてしまうのかな。
きっといつか、気がつけば。きっと。
甘い鳴き声は消えてしまう。
お題は〔いらない愛〕です。
〔句読点以外の記号禁止〕かつ〔キーワード「猫」必須〕で書いてみましょう。
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