君に似合う花
使用お題ひとつ
オレンジの髪が砂まじりの乾いた風に舞っている。壁の外で狩りをする彼女は異形の体液にまみれ、僅かに発光している。僕はそれに見惚れながら息を吸う。
「ナグ!」
呼び声にパッとこちらを向く君は笑顔で異形の腕をひき抜く。ぶつぶつとちぎれた肉から発光する血液が地面に振り撒かれる。
血が落ちた場所から芽が出るのだ。ただ、それが育つという状況を僕らは知らない。壁の外で生きる生き物が芽吹いたものを根こそぎ食い尽くすからだ。そしてその生き物を壁の内側に住む僕らが食用として狩る。
荒れた土地は荒れたまま蘇ることを知らない。
「アト、美味い部位をつまみ食いしよう」
ぶんぶんと大きく手を振って南雲が僕を招き呼ぶ。
獲物の最良部位を得るのは狩り手の権利だ。
随分と持ちきれず放置された異形やいきものの残骸が散乱している。必要な部位だけを選んで持ち帰っているせいもあるだろう。
「ナグ、最近異形が多くないか?」
こわい気がした僕は問う。
「喰いにきてるのも狩ってるからな。食い尽くす前に狩ればそれをまた喰いにきた奴を狩れる。どーせなら強いのが来ればいいけどなぁ」
僕は大丈夫だと思いつつも万が一を思って不安になる。僕は南雲をうしないたくない。危なさは上げてほしくない。だけど、弱いものしかこなければ、君は遠出するだろう。そんなことになったら迎えにこれない。
「アトが不安がることはないぞ。ナグが全部狩ってやる」
南雲が鮮やかに笑う。
不安なのは異形でなく南雲が遠く離れた手の届かない場所に消えること。
南雲は僕の不安がわからない。
ナグはひまわりの花みたいだ。
そう言って笑ったのはツネだった。僕らの知らないひまわりの花。南雲みたいな花。
「土地が異形の体液でよみがえればこんな赤茶けた砂っぽさが消えて緑になるんだろ?菜園みたく」
ツネが言ってた。そう南雲が異形を叩く。
「草が増えれば、アトに似合う花が育つって。花ってうまいのかな?」
それに素材にもなるんだろ。と笑っている。
僕に似合う花?
「うれしいのか。アト?」
どうやら僕は笑っていたみたいで。
だってうれしいだろう。お互いに考えていたのは『君に似合う花』『君のような花』を見たいという同じ想いなんだから。
「ああ。とてもうれしい」
「そうか! ナグもだ!」
きっとツネが教えてくれたひまわりという花はきっとどこまでも明るい花なんだろうな。
いつか見てみたい。
南雲と一緒に。
お題は『君に似合う花』です。
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