迷い子
使用お題ひとつ
新年に神の社に詣でることは誰しもが許された権利であった。国守の兵士である男にももちろん許されていた。
男は今、右手の指を掴む幼女の存在に途方にくれたいた。
初詣でに迷子一人を押しつけられたのだ。
制服を着ていたこともあったろうし、休みと知っていたはずの同僚は慌ただしく手に負えていなかった。
「私の警備担当日は明日なのだが」
往生際悪く呟きを漏らせばきゅっと不安げに幼女が力を強める。
男は頭を軽く振り意識を切り替える。不安になっている幼な子を怯えさせるのは本意ではなかった。
男は定められた兵役ではなく、自らの意志で国の兵士についた。薄暗い社の影でそれはそんなに大切なものでしょうかと幼なじみの少女がすがるのを振り返らずに。
もはや、会う資格など己にないと知る男は故郷近くの任地にあることを思う。
かつてこの神の社に詣でたのだ。社の影で別れた少女と出会う恐れと希望。あの頃は若く、いや幼く無謀だったと男は知る。
男は幼女を肩に担ぎ、幼女を探す親を求める。
幼な子は少女に似ていた。
気のせいかもしれない。けれど血より濃いものはなし、可能性は高かった。
かつての少女は一人娘であったはずだ。
人妻となった少女にそれでも逢いたいのは愚かな未練だと男はわかっている。
幼な子がもてあそぶ帽子を幼な子にかぶらせ、男は「落としてくれるなよ」と笑う。
肩の幼な子も嬉しげに「あーぃ」と笑う。
「たづ、たづ」
「あー、おばぁ!」
男の振り返った先にいたのは老女。
視線が絡んだ時、時すら止まったかのようだった。
「小母さん」
男の一日はまだはじまったばかりだった。
「ほんにあんさん、兵隊さんになりはったんやねぇ」
お題は『それはそんなに大切なものでしょうか・兵隊さんの1日・けれど血より濃いものは無し・それでも逢いたい・初詣でに迷子一人』です
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