あたたかなひと
使用お題ひとつ
金属を叩く澄んだ音が反響する暗闇にあの人はおりました。
音に魅せられたあの人はいつだって怒ったような表情で金属を叩いておりました。
私は痛む耳を伏せながらただあの人のそばにおりました。
望む音色が出ずに癇癪を起こしたあの人に蹴飛ばされたこともありました。
それでもあの人のそばを離れ難かったのはその後の慌てたような優しさがあったからでしょうか。
私が望んだのはあの人だけで、あの人が望んだものが金属を叩くことだっただけ。
あの人が私に意識を向ければ、私はあの人を引いて暗闇の外、食事を促すのです。
わざとあの人の邪魔をした日もありました。
怒りのままにふるわれた力に私は無力です。それでもあの人がくれるぬくもりが私には必要なものでした。
いつしか私の耳は音を拾わなくなりました。
音を拾わないのに金属を叩くあの人の音が届くのです。
パキリ
あの人が踏んだ軽い音。
金属が叩かれて鳴る音とは違う音。
私が拾わないはずの音。
『…………!!』
あの人が声を発しています。
私は拾えないのです。
あの人が私に声をかけてくれているのに聞こえないのです。
きっと私が悪いのでしょう。
私は、気がついてしまったのです。
あなたが踏んだ私の骨。
私は変わらずそばに居たかった。
あなたのそばに在りたかったのです。
お題は〔あたたかなひと〕です。
〔格言、名文の引用禁止〕かつ〔音の描写必須〕で書いてみましょう。
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