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自縄遊戯  作者: とにあ
306/419

サンドフィッシュ

使用お題ふたつ

 


「サンドフィッシュって呼ぶんだよ。あいつらぁ素早くっていけねぇ。いいか。砂が崩れる音が聞こえたら耳を塞いで砂から逃げるんだ。いいか。舟に乗って耳を塞いで目を閉じて揺れが過ぎ去るのをただ待つことだけが生き抜くすべだ」

 酒場で老人がやんちゃそうな若者に苦笑いされながらも繰り返す繰り言。

 砂の崩れる音が聞こえたら砂から逃げろ。

 この砂漠のただなかにある街でなにを言っているのかと誰もとりあわない。

 時間が逆転する。

「リバースできたら楽ですね」なんて言って笑った日がうとましい。

 砂が崩れる音が聞こえたら命を大事にしたいなら。

 凄まじい速さで砂漠の砂を泳ぎゆく。彼女らは水源を知っている。

 彼女らは砂を泳ぎ狩りをする。

 獲物は俺たち陸のいきもの。

「ごきげんよう。そしてサヨウナラ」

 言葉がわからなければ、きっと、ただのバケモノだったろう。

 それなのに理解がおりてくる。

 水が渇いた熱い鉄に落ちて蒸発していくような衝撃だった。

 目を開けて、俺は彼女を見上げた。

 膝部分から上を砂から乗り出し俺を見下ろしていた砂に生きる女。

 飛びかかられて視界は暗転した。

 騒めきに目を開ければおぞましい光景が広がっていた。

 血にまみれたサンドフィッシュたちが力なく横たわり漂うは死臭。どれほどの戦闘のあとなのか。敗者がぐずりと積まれている。

 そんな中で、ひとり笑っている。

「かってあげる」

 人でないサンドフィッシュが人語を操る。

 差し出される鮮度のいい肉。

 癒される喉の渇きと飢え。

「かってあげる。何度でも」

 ぎゅいっと彼女の顔が近かった。


「最近はサンドフィッシュ連中もめっきり数ぅ減らしてなぁ。水が遠のいたぁなぁ」

 酒場で出される干物のような実を噛んで唾液で喉を潤す。

 爺さんが物欲しげに見るからひとつ譲った。

 あの女はサンドフィッシュを殺しその肉を俺に与えて笑う。そして、俺を殺して、また迎えにくる。

 俺は、水の在り処を知っている。

 サンドフィッシュから滴り落ちる水。

 俺は死ぬ。記憶はいつだってこの酒場からはじまる。

 爺さんの言葉もじんわり変わっていった。

 俺はいつだって流されるだけのピエロ。

 きっと、砂漠に会いに行く。

 終わりのない繰り返しの海に。

 金砂の上でにゃあんとネコの声。貪るはサンドフィッシュの肉だろうか。

 お義理なサービス精神で鳴いた猫が媚びることなく伸びをする。

 世界は砂に包まれる。

 砂が崩れる音が聞こえる。


「リバースできたら楽ですね」、「サービス精神で鳴いた猫」、「ごきげんよう、そしてサヨウナラ」の宝石を取りました。とってもお似合いですね!

#宝石箱から気まぐれに

https://shindanmaker.com/719260

与えられたお題は

「戦闘」「人魚」「ピエロ」

です。頑張って混ぜてください。

#3つのお題で創作

https://shindanmaker.com/716352

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