うみのこども
使用お題6つ
私の世界は硝子の仕切りのこちら側。
外が明るくなる時間、夜がくるのがいつだって怖い。
外で跳ねるのは眠りを導く光り羊たち。
おとーさんがいなくなるこの時間は嫌い。
ころりころりとほっぺたを転がり落ちるのは私の涙。
さびしいと訴えればおとーさんは困るだろう。
私はなんにももってない。
それでもおとーさんにありがとうを伝えたくて、大好きを伝えたくてなにかを贈りたいのになんにももってない。
ころりころり落ちていく小さな貝殻が沈んでく。
絵本のようにおとーさんと手を繋いでどーぶつえんに行きたいよ。
どーして私の足はひとつなんだろう。
おとーさんとお揃いならきっとどこまでも一緒に行けるのに。
おとーさんは時々さびしそう。
泣かないで、笑ってよ。
いくら考えても私にあげれるものはなんにもなくて、ただただおとーさんに笑顔を向ける。
だって、おとーさんに笑って欲しいから。
だから、なんにももってない事実は見ない振り。
歩けない事実は知らんぷり。
ねぇ、おとーさん。
私だけを見て。
私を愛して。
遠い誰かのところに歩いていかないで。
俺が愛を注ぐ子供。
人魚幽閉場で生まれた小さな子供。
透きとおった真っ赤な尾鰭が水槽の中で揺れている。
尾鰭をもって生まれる海のこども。
「おとーさん」
水槽の中から頭を出して俺の帰りを出迎える。
きっと一人じゃ寂しかっただろうにそんなことを感じさせない笑顔が痛い。
水槽の底には小さな貝殻が沈殿している。
「おかえりなさい」
俺は幽閉場からこの子を連れ出したんだ。
もちろん母親を愛していたからさ。
光り羊たちが最後の行進をはじめる雄叫びが聞こえる。
奴らは夜の眠りを数える役目を果たしこの墓場へと眠りにくるのだ。
朝に眠りの光をばら撒かないように俺は鍵をかけて羊たちを眠らせる。
すると俺の眠気もどこかへと去っていく。
一緒に夢も消えていく。
俺が昔眠ったのはいつのことだっただろうか?
「愛してやると言ったのに」
おまえは俺から離れていった。
「うん。おとーさん、大好き」
夢は消える。おまえみたいに。
「ああ。大好きだ。欲しいものはないか?お留守番のご褒美だ」
ぱぁっと子供は笑顔を見せる。
熟れた頬にきらきら輝く瞳。物欲しげな欲望にまみれた子供じゃないか。
「あのね、狐さんに会ってみたいの」
狐。
本当の父親に会いたいのか?
おまえも、俺を選ばないのか?
「おとーさんと一緒に手を繋いでお出かけできるの?」
ひらりと尾鰭がひらめく。子供が抱く絵本には仲の良さそうな親子の絵。
今日も羊たちを墓場にいれて瓶詰めお化け館と呼ばれる我が家に帰る。
瓶詰め水槽の中で笑う子供は一人だけ。
「俺が愛してやると言ったのにおまえもそれじゃ足りなかったんだな」
狐のぬいぐるみを貝殻涙の沈殿する水槽に沈め笑わない子供のひたいに唇をそえる。
「愛してるのに届かないんだな」
歩く足取りは重い。
愛してる。
届かない。
ドアを開ければ水槽の水が跳ねる。
「おとーさんおかえりなさい」
透きとおった尾鰭がはしゃいで水を打つ。
とにあさんは
☆1.愛してやると言ったのに
2.静かに、静かに
3.燻る恋心
4.泣かないで、笑ってよ
の中で一番多かったお題を書いてください。
#お題アンケ
https://shindanmaker.com/601337
育てはじめたのはミノカサゴの独り言から生まれた海の子です。透き通った赤色の尾びれを持ち、この子が流す涙は小さな貝殻に変わります。いつかキツネに会ってみたい様です。
https://shindanmaker.com/678819
キスをして傷つけた
https://shindanmaker.com/678810
とにあへのお題は〔永遠の知らんぷり〕です。
〔カタカナ語禁止〕かつ〔「歩く」描写必須〕で書いてみましょう。
https://shindanmaker.com/467090
とにあさんが描く世界は
人魚幽閉場、瓶詰めお化け館、光り羊の墓場。
素敵な世界が生まれますように。
#世界描き
https://shindanmaker.com/678713
貴方は暇だったら『相手へのプレゼント選びに頭を悩ませている主人公』をかいてみましょう。幸せにしてあげてください。
https://shindanmaker.com/524738




