堕ちる
使用お題ふたつ
恋はするものじゃなくて落ちるもの。
そんな言葉に出会ったのはいつだったか。
私は桜舞う日に恋に堕ちた。
古藤菜沙。
同性の女の子。
おかしいんじゃないか、彼女の人生の邪魔になるんじゃないかと悩む私をよそに菜沙は私に懐いてきた。
菜沙はちっちゃくてかわいい。
私のようにひょろっと身長ばかりあるとその小柄さは羨ましくてたまらない。
黒くしっかりした髪も楽しそうに周囲を見回すその瞳も健康的に日焼けた肌も好ましい。
「モデルさんみたいでカッコいい」
そんなふうな羨望を含ませた視線で見つめられて悪い気はしない。
コンプレックスな高身長。モデルのように凹凸のない身体。女性ホルモン働いて。
「運動部に引っ張りだこになりそうだよね」
菜沙が笑う。
とてつもなく甘い。体育測定から何も言わなくなったけど。
万が一、大きな災害が起きたら運動能力では逃げられないだろうからしっかり避難経路だけは把握しておきたいと考えてる。
菜沙はちっちゃいくてやわらかい。コンパスサイズを補うようにバネみたいに跳ねている印象。その体のどこにエンジン隠してるんだろう?
見てるだけでよかった。
そばにいて笑ってるだけでよかった。
私は菜沙の一番だと自覚していた。
耳打ちされた「恋人ができたの」恥ずかしそうに蕩けるように微笑む菜沙。平然と冷静を保つその裏で私はどろりとした沼に足を踏み入れる。
私の欲しい好きとは違う好き。
私が欲しかった好きを受け取った相手なんて見たくもない。
帰り道、寄せてきた車に菜沙が笑った。
いやな予感しかなくて私は急用がと逃げた。相手なんて見たくない。
公園に逃げ込んで、なんで、って段差に転んだ。
「……大丈夫ですか?」
聞き覚えのない男の声。じわり制服に広がる濡れた感覚。
地面には激突しなかった。そこにいた彼にぶつかったから。濡れた感覚は彼が手にしていた紙コップ。
「ごめんなさい。……大丈夫ですか?」
「……大丈夫に見えるか? なら大丈夫なんだろう」
立つように静かに促されて頭に血が上る。恥ずかしい。
「ごめんなさい」
ずきりと痛む足。羞恥に顔をあげられない。
「君は大丈夫ではないようだね」
気がつけば車に乗せられて見知らぬ館の見知らぬ部屋で医師らしき人に足の治療をされて女性の介助付きでお風呂に入れられていた。
ふわりとしたワンピース。足に巻かれた湿布とサポーター。
「制服が乾くまで寛ぐといいよ」
初対面の男性宅に連れ込まれた気まずさ。
なんだか現実味が薄かった。痛む足だけが現実だという信号を送っている。
「奇跡は存在する。望みは願うなら届くかもしれない」
お茶を飲みながら聞いた彼の言葉。
もらったのはキラキラしたキャンディ。
「好き……なの」
イヤだって、幸せに笑っている菜沙をイヤだって思った。
悔しい。せつない。
見捨てられた気分に責められるのは間違いなのに。
心の暴走が止まらない。
私に楽な奇跡を望む。
それはきっと菜沙の心を踏みにじること。
奇跡のおまじないキャンディ。
叶わないってわかってたはずの私なのに。
キャンディの包みに手を伸ばす。
とにあへのお題は→二人の関係が【初対面】で、キーワードは【お風呂】でお願いします。
https://shindanmaker.com/338406
とにあはRTされたら「…大丈夫ですか」「…大丈夫に見えるか」という会話の入った話を書いてください
https://shindanmaker.com/538051
奇跡の種関連




