かわりもの
使用お題みっつ
ウチの神社の狛犬は変わってる。
木刀咥えた狛犬なんて他に見たことがない。
おじいは『世界は広いんだからかまわないだろう』ってお茶をすすりながら空を見上げる。
子供のころからおじいはそんな感じ。
だから私は結局のところそれをあたりまえに生きてきた。
「すえ! 遊びに行くぞ!」
バタバタとあらわれて私の手を引く少年刀士。
くるんと丸まって跳ねるくせっ毛にのびやかな手足。その足はどこまでも速い。
「コマ、私は用事があるのよ」
自室の掃除っていう用事が。
「おれと遊ぶより大事な用事なのか? 違うだろ」
にこぱと笑うコマを見たおじいが「いっておいで」とコマの味方をする。
後押しを受けてコマが得意げに笑みを濃くする。
おじい、コマが調子にのるからやめて!
好奇心旺盛なコマはどこまでもアウトドア派の『狛犬』だ。
いつの間にかコマの伸長をこえたのか、コマが私を見上げて笑ってる。
「すえにおれより大事なことなんかあるわけないからな」
自信満々無垢に見える笑顔はむしろ腹黒い。
じりり焦れる私の気持ちになんか気がつかない。
学校から帰った私を質問攻めにしたあの日々。
いつだって私を待ってるコマを待たせたくない私は学校の友達と遊ぶことはなかった。
だって、コマは学校の友達が遊びに誘いに来たりするともの凄くさびしそうにするのだ。あの無言の圧力に子供だった私は耐えられなかった。
そう思うと、コマを調子づかせたのは私なんだろうか?
気がついても違う選択を考えられないと頭を抱えている私の腕をひくコマは、行くのならどこがいいかと候補地をぶつぶつ呟いている。
なんだかどんなに否定しようとしても気がつくと、コマのことばかり考えてる。
なんで君のこと考えてるんだろうって、思ってしまう。
「すえ! 河原にいこう!」
目的地を決め、私の腕をひき石段を駆けおりるコマを、私をおじいがのんびりと見送る。
「陽が落ちるまでには帰っておいで」といつもの言葉にコマが振り返りもせず「おー」と返事をしてる。
いらいらする。
どうして、振り回されなきゃいけないの?
どうしてどうしてと湧き上がる不満の黒さが心を苛む。
空からの日差しは眩しいのに。
陽の光を反射させる川の水は煌めきながら川沿いの木々の緑と空の青を映すのに。
私の心はただただ黒い。
「すえ?」
河原で水の中に駆けいって何の変哲もない石を拾ってきたコマが不思議そうに立ち止まり、眉間にしわを寄せた。
機嫌が悪いのはコマじゃなくて、私なのに、なんでコマが怒るの?
私だって少しくらい機嫌が悪くなる時だってあるわ。
「すえからはなれろ」
低くひねり出された声は唸り声を帯びてるようでぞくりと背中が泡立つ。
「自ら滅びろ! 逝き先を誤らぬよう介錯してやる!」
木刀を咥え、手をつく勢いで速度を上げコマが私の方に向かってくる。
『キィ』と甲高い悲鳴が遠くで聞こえた気がした。
「すえ、すえ! ごめん大丈夫?」
暗闇の中コマの声。
揺すられて開かれる視界にはコマの不安そうな表情。
ああ、やっぱり。
「きらいよ」
私の拒否、否定の言葉にコマは笑う。
「すえは、おれが好きだよ。おれに夢中になるのが怖いだけ。本当は好きって知ってるよ」
きらいだ。
きらいだ。
それって私ばっかり振り回されてるじゃない。
どうしてコマは不安にならないの?
コマにとっては当たり前でとるに足りないから?
「おれは、すえが好きだよ。すえが生まれた時から愛してる」
コ、マ?
「すえはいつか、おれを置いていく。おれとすえは違う。それでもおれは、誰かにすえを奪われるつもりはない」
負けず嫌いなコマに泣きたくなる。
「私は束縛も、押しつけも嫌い。私だけ、老いていくなんて嫌よ」
コマはにんまりと笑ってる。
「うるんだ瞳が君の本心。いつだってすえはこわいだけ。おれはずっとすえが好きだよすえだけが好きだよ」
ウチの神社の狛犬は変わってる。
元気いっぱい自信満々アクティブに。
「大丈夫。すえはおれが一番好きだから!」
どこから出てくるかわからないその自信が腹立たしい。
それをおじいがのんびり掃除しながら見守っている。
「ばぁか」
「すえはツンデレってやつだな!」
本当に、自信満々無垢に見える笑顔はむしろ腹黒いと思うんだ。
「コマが好きだよ」
「ああ!」
とにあの素直じゃない恋で3番勝負!
1【うるんだ瞳が君の本心】
2【なんで君のこと考えてるんだろう】
3【本当は好きって知ってるよ】
#3banshoubu
https://shindanmaker.com/582064
今日のお題 「介錯」 「木刀」 「狛犬」
https://shindanmaker.com/231855
◆負けず嫌い
◆好奇心旺盛
◆アウトドア派
以上の条件を参考にキャラクターを作ってみてはどうでしょう?
https://shindanmaker.com/448658




