あたたかなひと
使用お題ひとつ
「出航は出逢いと繋がる」続編
新しいお父さんに連れられて新しい私の家へ帰ります。
スッと差し出された手を取るとお父さんはどこかひきつったように頬をひくつかせています。
お父さんに呼ばれた私はただ頷いてそのまま手を引かれ歩きました。ゆるりと握られた手はあたたかくかたいなと思いました。
新しい家は塀に囲まれたお屋敷でした。
あぜんと見上げる私をお父さんは軽々と抱き上げます。高い視点から見ても新しい家は大きくて圧倒されます。
大きなおうち。
新しいおとうさん。
知っている人の誰もいない場所での生活です。
もう、帰る場所がないのはわかっていても不安で仕方がないのです。
お父さんがまあたらしい木の門扉を押し開ければ、視界に広がるのはきれいに整えられたお庭と白い壁のおうち。
その圧倒感にどう反応していいのかわからず、ただただ見上げていた私と、私を抱き上げたまま黙っているお父さんに向けてかけられた声がありました。
その声に驚いてそちらを見れば黒い装いに身を包んだお兄さんが軟らかい笑みを浮かべ立っていました。
お父さんはそのお兄さんを私に紹介し、そのまま部屋や食事の都合を確認してくれましたが、執事だと言うカノッサお兄さんに早く部屋に入れとやんわり叱られているようすはおかあさんに叱られるおじいちゃまや、おとうさんを思い出してほっと安堵を覚えたのです。
お兄さんの言葉にお父さんは私を軽くなでてくれました。
二階の一室が私に与えられた部屋でした。
ふかふかの大きなベッドには大きなぬいぐるみのウサギ。きれいなピカピカしたタンスの上にはレースの敷物が引かれて熊のぬいぐるみが飾られています。
机と椅子。
大きな窓にはやわらかなカーテンが揺れています。
かわいらしい壁紙に私は言葉を失って立ち尽くしました。
お父さんはここが私用の部屋だと突き放すように言ってまっすぐ前を見ています。
自分一人の部屋なんて持ったことのない私はただただ圧倒され反応ができずに泣きそうでした。
見かねたのか、カノッサお兄さんが私に視線を合わせて意識を逸らせようといくつか何かを聞いてくれましたが、対応できません。
固まる私に優しく笑って事前に確認できればよかったのですがと。
情報量の多さに処理困難になって、うまく言葉の出ない私をお父さんは軽くなでてカノッサお兄さんを二人きりにして部屋を出ていってしまいました。
せっかく用意してくれた部屋もぬいぐるみも、嬉しかったのにありがとうひとつ言えなかった私は良い子になれなかったのではと不安にかられます。
新しい家での生活はこうして始まりました。
私がまず覚えさせられたのはカノッサお兄さんをカノッサと名前のみで呼ぶことでした。
お城に勤めているというお父さんとはすれ違いが多く、基本共に過ごすのはカノッサと。
それは確かに温かい家庭でした。
習い事に教会での奉仕活動、カノッサと並んで家事手伝い。
一年、二年とたつうちにお父さんがとても緊張して私に接してくれていることに気がつくようになりました。
とても強いお父さんは子供と過ごしたことがなく、どう接していいのかわからないのですよとカノッサがいたずらっぽく笑って教えてくれます。
お友達ができそうだと報告したら喜んでくれるでしょうか。
風に紛れて私のその思いを肯定してくれる声が聞こえた気がします。
遠く遠く幸せで、その面差しすら忘れそうでとても悲しくもあります。
おかあさん、おとうさん、おじいちゃま。
エディンは新しい家族と今、生きてます。
お題は〔あたたかなひと〕です。
〔句読点以外の記号禁止〕かつ〔「声」の描写必須〕で書いてみましょう。
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