産声
使用お題ひとつ
「死にたいんだ」
ぽたぽたと赤い液体で手を染めて彼は微笑む。
「生きていてもしかたないだろう?」
彼の手が僕の上で広げられる。
赤い液体が降り注ぐ。
「ゼロを赤に染めよう」
彼は歌う。壊れた歌を。
「死にたいんだ」
赤の海は生ぬるい鉄錆。
コレは呪いだ。
赤い髪が揺れる。
「君のとなりで死にたいんだ」
生まれる前から聞こえる声は祖父のもの。
「生きて。幸せになって」
赤い濡れた指先で彼は僕から赤をなくそうとする。
抱きしめられて赤に染まりたい。
その燃える指先ならどんなに赤に染まった汚い天使でも白く浄化されるのだろうか?
「汚れてるの」
「どうでもいい。お前は幸せになればいい」
「……いっしょ?」
見上げた彼はその広げた腕で僕を包む。
そのあたたかさは僕にとってはじめての外。
にやにや笑う祖父が遠くない位置から見てる。
彼は気がつかない。
祖父が彼の上で手を広げる。
彼は弾かれたように上を見て手をかざす。
「きっと、いい日がくるよ」
見えていないんだ。
それでも彼の手は祖父の手に触れる。
「……おとうさん?」
僕は彼の視線を取り戻したくて呼びかける。
違うなんて知っている。
僕を見る彼の瞳には困惑。
「お父さんじゃないけど、家族にはなれると思うんだ」
「……いっしょ?」
「そうだね。いっしょに家族になろう」
気がつけば、あたたかな約束に僕は吼えていた。
あとから思えば、きっとアレは僕の僕としての産声だったんだ。
「死にたいんだ」
祖父の声が聞こえる。
「なにがしたい。欲しいものは?」
彼が明るく問う。
祖父の声が遠ざかる。
お父さんって呼びたい。
あなたのとなりで生きて、
あなたのとなりで死にたい。
【燃える指先】【汚い天使】【君のとなりで死にたい】のお話を綴ってください。
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