ハッピーエンドに限らない③
使用お題ひとつ
「友人が来るんだ。すまんが迎えを頼んだ」
先輩の言葉に俺はモニターから顔を上げた。
「え。タマちゃんは私達をレイトショーまでに会場に連れて行ってくれるんだよっ!?」
「こっちの予定はその後で間に合うさ」
マユと先輩が俺の知らないトコで交渉してる。
「すみません。タマキさん」
その様子を呆然と見ていると横に来ていたイッセイがそっと頭を下げる。
「クリスマスデートなの」
嬉しそうに笑うマユを見つめるイッセイの眼差しは柔らかい。
「マユさんは嫌いじゃないですから」
俺の視線に照れたように顔を逸らす。
わぁお。
初々しいな。
「私はこれから仕事だからな。頼んだぞ。タマキ」
「任せて、オネーサマ!」
なんで、そこでマユが……。
「おにーちゃんをよろしくお願いしまーす」
あ、先輩が転びかけた。
「カッコイイおねえさまができるんだわ〜」
マユが嬉しそうにその場で回ってみせる。
先輩とタカノブは少なくとも妹その二に公認か。
「マユさん。困らせちゃだめですよ」
「はーい。イッセイくん」
あの、空気がリア充デスよ?
嬉しそうなマユとそれを見てるイッセイを友人が勤めてる水族館において指定された空港に向かう。
そうだ。
先輩は彼女の先輩だったんだ。
「ハリー」
「会えて嬉しいわ。タマキ」
柔らかい淡い色合いを好んだ彼女の姿は漆黒の装い。
「無力だよな」
車に案内して話を振る。
「いきなり迷惑だったわよね。返事もくれなかったし」
ツンとした口調。
助手席を見て首を傾げる。
「嫌がる方いらっしゃる?」
「いないよ」
彼女が表情なく頷く。
嬉しい?
俺はまだ君に囚われてる。
草原を駆ける風も湖を渡る風も貴方の笑いを届けてはくれない。
何処か神経質な貴方を私ははじめ苦手だった。
普段の私はそんなトゲトゲした女の子じゃなくて、大人しくて従順なの。
貴方は鼻で笑うけどね。
怪我をした動物をどうしていいかわかってなかった私を押しのけて、貴方は獣医さんの場所を私に問うた。
私はしばらくその後の貴方を探した。
お礼を言いたかったから。
知らなかったの。
貴方がひどいアレルギーを持ってるって。
貴方はそんなこと何も言わなかったし、私を怒らせてひどい事を言わせようといつだって頑張っていたから。
貴方は意地悪だわ。
恋人になって友人伝でアレルギーを知った私が怒り狂った様子すら貴方は笑ってた。
自分のために感情を爆発させる私が可愛いって。
いつまでも怒っている私がばかばかしくなるの。
どこまですすんだ?
そんな友人達の言葉にどきりとする。
貴方はそういうところは厳しくて、必要そうな時に手を繋いだり、肩を抱いてくるだけだったから。
決して、踏み込んできたりしなかった。
「恋人でしょう?」
そう見上げたら彼は困ったように笑った。
「白いドレスの君を見たいから」
ねぇ。貴方は本当にヒドイ人だわ。
私は貴方に摘み取られたかったのに。
貴方の存在を知った家族は激怒して私を閉じ込めた。
奪われた通信手段。
告げられる嫁ぎ先。
貴方が手切れ金を受け取ったと。
傷物でも受け入れてくれる夫に感謝して尽くせと家族に言い含められた。
抱きしめられたことは傷物ですか。
どうせ責められるなら口付けぐらい交わしていたかった。
夫と家族は私が白いドレスを着る事を認めなかった。
ええ。かまわない。
私は貴方にだけ染まりたい。それ以外は不本意だわ。
その夜まで私は貴方の迎えを待っていた。
貴方のものでない私が辛くて死にたかった。
もう、貴方に会えないと思ったわ。
私は貴方のために白いドレスを着れないのだもの。
心沿わない夫のために私は嬉々として黒いドレスを身につける。
ようやく手に入れた貴方のアドレス。
異国の地にいる貴方に私は想いを馳せる。
助けてくれなくても、貴方こそが私のただ一人の騎士様。
力ない私には貴方を守れない。
私に出来たのは貴方を信じることだけ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
きっと貴方は私の謝罪なんて求めていない。
死にたかった。死ねなかった。
貴方の声をもう一度聞きたかった。
私は狡いのね。
貴方が許してくれると甘えているの。
「俺は騎士様じゃないよ」
「私にとってはそうだったの」
ハリーの独白はとても痛くて辛い。
諦められるほど割り切りが良くなかった自分が悔しい。
笑って他人として会うには時間が足りてない。
「貴方は手切れ金を受け取ったの?」
「君が安心出来るなら」
即募金箱に放り込んだがな。
「彼らはそう言ったのね」
悲しそうな表情をさせてる自分には嫌気がさす。
「割り切りが悪い俺で悪かったな」
ぎゅっと抱きつかれる。
「嬉しい。割り切りが悪いタマキで嬉しい」
なぁ、なんで気の利いた言葉のひとつも出てこない?
「ハリエット」
「綺麗じゃない私はダメ?」
「ハリーはキレイだよ」
人妻でも、なんでも、ハリエットはキレイだ。
「嬉しい。ねぇ。もう死んでもいい」
「死んじゃダメだよ」
泊まるのは先輩の家な予定だというハリエットを家に入れる。
夕食はクリスマス用のメニュー。
エビとマカロニのグラタン。ドライフルーツのパウンドケーキ。ポテトサラダは少々作り過ぎ。スモークサーモンを盛り付けて米粉スパゲティは極細麺。
ハリエットはそっとキッチンを覗き込む。
「お手伝いしてかまわないかしら?」
ああ、きっと俺はトチ狂ってる。
「俺のために白いドレス着てくれるんならかまわないよ」
男性騎士と草食系女性のカップルで、遠距離のシーンを入れたハピエン小説を書いて下さい。
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