こんなにも、遠い
使用お題ふたつ
「あのね、私の手に落ちることが一番幸福で不幸よ」
少女の声に青年は手を抑える。
イグサの香りたつ和室。
薄暗い間接照明の中、敷かれた布団の上で少女は笑ってる。
「あのね。私のために生きて」
青年は布団の横に正座して少女を見ている。
「私のために音を棄てて」
びくんと青年の肩が揺れる。
「どちらにしても、この手では音楽はむりだ」
諦めたような青年の手には大きな傷痕が広がっていた。
「だーめ。私のために棄てて生きるのよ?」
ぎゅっと少女は青年の手を握る。
「だから」
「違うわ。私より音楽を取ってはダメなのよ」
青年の反論を少女は認めない。
少女に飼われている事実に青年は諦めの息を吐く。
幼い時に家族はバラバラになり、好きだった音楽だけが救いだった人生を青年は送ってきた。
その音楽で生きることも不可能になった。
道ばたで腕を壊され呻いていた青年を少女が拾ったのだ。
奏でる手段を失い、絶望の淵にいた青年にそこ以外生きる場所は無い。
青年はそれを知っていたし、少女が許さないことも知っていた。
「だから、私のために音を奏でることは許すわ」
少女の黒髪が揺れる。
傲慢に告げられる言葉。
紡ぐその唇は赤く艶やかに。
「綺麗な音が出せるはずがない」
青年の指の動きはぎこちない。
「そんなこと興味無いわ」
少女が笑う。
「私が聴きたいから奏でなさいと言ってるの」
青年はゆっくりと歌ったり、音を奏でる手法を少女のために模索する。
障子のむこうで風鈴がしゃらりしゃらりと音楽を奏でる秋の日に少女は和室で静かに眠る。
「どうやって、生きていけと言うんだ」
青年の体は音楽を奏でて生きていくことはできない。
それでも、他にできることなど無いのだ。
赤い唇に青年は己が唇を重ねる。
応えなど無い。
「言った通りだ。いつの間に堕ちていたんだろう」
青年は眠る少女の横にただ座る。
薄く開いた障子の向こうからしゃらりしゃらりと風鈴の鳴き声だけが過ぎていく。
ねーとにあ、歩く不運のような音楽家と前向きなヤンデレが、期間限定の恋人として振る舞う話書いてー。
https://shindanmaker.com/151526
とにあへのお題は〔こんなにも、遠い〕です。
〔二人称(君、あなた等)の使用禁止〕かつ〔音の描写必須〕で書いてみましょう。
https://shindanmaker.com/467090




