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自縄遊戯  作者: とにあ
103/419

こんなにも、遠い

使用お題五つ

 


 その事象は本に埋もれている先生を掘り起こした事から始まった。

「み、見たまえ、これを!」

 そう言って咳き込む先生の指す先には本の山。

「片付けが必要ですね」

 すぐ、散らかると言っても本が傷む環境はあまり好ましくないでしょう。

「違う。此奴だよ。こーれ」

 埃に咳き込みつつ主張するのは崩れた本の山から引きずり出した料理本だった。

「食べたいものでもあったんですか?」

 期待を込めて問うてみる。

 先生は面倒くさがりの気が強く、食事の手間を厭うのだから、食べたいものがあるなら用意してさしあげたい。

「そんなものはない!」

 威張らないでください先生……。

 がっくりと肩が落ちる。

「甘かろうが辛かろうが如何でもいいわい。この食事の記事が気になったのだ!」

 どうでもよくはないんですけどね。

 それは古い本だった。何度も再編集されたらしく、後世の人々の意志と改変が加えられているようだった。正確に第何改稿版なのかは読み取れない。

「天翔ける甘味の素材を見に行くぞ!」

 天翔ける甘味!?

 なんですか、そのわけわからなさは!

 説明によると立ち入り禁止の異星の植物らしいと言う。つまり、その異星に行きたいというわけだが面倒くさがりの先生が宇宙船の整備をしているわけもなく、調整整備を進める間に食事を頑張っていただくことにした。

 不法侵入?

 発覚しなければ、ごまかせます。

 不時着です。と。



 透明樹脂に包まれた駆動機構の中心は高温を発して高速の回転を続けている金属の動翼と歯車に金属輪。樹脂管の中を液体と気体が勢いよく回っている。

 一度、螺子を巻き、遮断板を落として溶剤投入口の真空率を下げる。

 空気の膨張音と共に開いた扉。馴染みの熱気と異臭が溢れるなか、隙間材の状態確認をして、主剤と加合剤の分量と混合具合を確認しながら溶剤を足す。最初から化合剤を使わないのは設備の材質を長く使い続けるために微妙な調整をするため。判断基準は噴き出す蒸気の匂いと温度。樹脂に対する着色からとなる。

 樹脂は綺麗な透明で幸いに劣化は見当たらなかった。そんな安心をしながら蝶番や留め金具をしっかりと留めて遮断板を開放する。歯車の上を滑る鎖が音をたてる。歯車同士が噛み合う音が響く。

 ぐんぐんと酸素が抜かれ、混合剤が泡立ちだす。駆動機構の中で蠢く気体は無色ゆえに見えはしないが凄まじい勢いをもって配管を走り、その蒸気機関から駆動力を得る。動翼の勢いが増したように感じる。

 その様子を確認していると、金属の伝達管が靴音を拾う。

 急に食事中のはずな先生が心配になった。その靴音は複数で、草履を好む先生のものではありえなかったから。蒸気機関の排気音とはあきらかに異なる靴音。慎重に伝達管から音を拾う。その靴音は先生が食事中の書庫に向かっているようだった。駆動室から居住区までは遠い。気体のように伝達管を通って先生の元へ行きたい。

『む!? 貴様らは!?』

 とうとう、書庫にやつらは入ったらしい。

 遅いと知りつつも、慌てて書庫へと走った。

 先生を一人にした後悔が焦燥感を駆り立てる。

 荒れた書庫は無人だった。

「先生……? 先生!」





「先生が、先生が……」

「あー、はいはい。落ち着こーう」

 目の前の綿を詰めた布張りの椅子にだらしなくもたれ、煙管を燻らす女性。

 がっつり開いた襟ぐりが盛り上がる胸元を際だたせている。

「だって、先生が!」

 彼女は先生の弟子でもう自立して何処かで仕事をしている。

 今回、先生を訪ねてきた事情は例の料理本だった。料理本は先生と共に行方不明だけど。

「血痕はなかったんろう?」

「ありませんでした」

「じゃあ、当座は大丈夫ろ」

 ふぅと吐き出される紫煙は煙い。

「先生は外に出たらぽちっと死んでしまうんですよ? ちゃんと安全確認してさしあげないと!」

「あうん?」

 彼女が間の抜けた声をあげる。

「宇宙空間で数分も生きられないんですよ!?」

「ぁあん?」

 ああ、なんて物わかりの悪い!

 どうしてそんなことも理解できないんですか?

 先生ならすぐに『うむ。そうだな。その通りだ』と言ってくれるのに!

「生物として、宇宙空間で生きていけるわけがないろ? 何をあたりまえのことを……」

 はい?

「波形を拾ったりは?」

 そのくらいできますよね?

「そのための探査機があろ。空気中ならともかく、真空宇宙の波形は生身では拾えんわ」

 煙管に詰まった燃え滓を叩き落とすとじっと見つめてくる。

「あたは純人でなく、混合種」

 そう言って手の平を自身の方に向け、自らの姿に注視を集める。

 彼女と特徴は豊満かつ引き締まった肉体美。艶やかな黒髪、多分、化粧品で増量はしていないであろうまつげは長い。

 そして、その黒髪に紛れるようにそれでいて主張している黒い耳。

「主成分は蝙蝠。あとは犬科の特徴が出ているろ」

 純人とは他の生物の遺伝子の混合が認められない人間のこと。

 混合種とはそれ以外の人間のことだ。

 かつては人の手によって造られた存在として隷属種とされていたが、純人との混血が進んだことと、高い環境適応能力により、同等の人権を認められている。それでも得ることのできる職種に偏りがあるのも事実だった。

 彼女はその姿で油断させ、その間に周囲の情報を、音で、においで、震動で探るのだろうと思えた。

「それでもあたは空気のないところの音や波長は拾えん」

 空気中の方が雑音多くないですか?

 不思議そうな表情に気がついたのか彼女は生温い笑みを浮かべた。

「どちらにしろ、どうしようもなかろ。先生が連れ去られたであろう場所も、可能性のある立ち入り禁止の星も座標がわからなかろ」

 そんなことはありませんよ。

「探します。見つけます。先生が見つからなければあなたも困るんじゃないんですか?」

 苛立たし気に煙管が揺れる。

 もふりと椅子の肘置きに溢れる毛玉。そして彼女の長尾が不服気に揺れる。

「天翔ける甘味は混合種の現獣化を鎮める成分を含んでいるとされているろ」

 音がするんじゃないかと思わせるほどのまつげが揺れる。

「遺伝子調整受ければいいんじゃないんですか?」

 確か、先生がそう言う対処療法があるとおっしゃってました。

 ああ、そんなことよりも先生を探しに行かなくては!

「先生! 大先生の連れ去られた船が転移し、検索範囲から消えました!」

 駆け込んできた彼女の弟子が叫ぶ。

 しまったと言うように額を抑える彼女の姿。もう、留まる理由はなくなったのだ。彼女らからは何の手立ても得られない。

 始動準備の終わった駆動部は稼働音を抑えることなく震動を周囲に伝えている。駆動力の充填量も問題はない。居住部との係留綱を分離させる。

 排気音がすべての音を掻き消す。

 誰の声も何の声も聞き取れない。






 座標を割り出すなんて簡単だ。

 先生を見つければいい。

 宇宙のどこにいても先生を見つけるなんて簡単だ。

 だって先生は先生なのだから。

 そっと耳を澄ます。

 そっと心を澄ます。

 宇宙うみに漂う音を、光を拾う。

 宇宙は息してる。その鼓動を捕まえればいい。

 世界はいくつもの命を内包した大きな命。

 僕は宇宙そらの歌を聴く。


 ねぇ、教えて。

 先生はどこ?

 なぞなぞのような星々の囁き。

 金属糸のような触手を伸ばして傍受したそれを分析・解析。




「やれやれ、面倒だねぇ」

 それは先生の声。

 ぱっと目を開けるとどこまでも続く曇天と先生の黒い髪。

 起き上がろうとして体がじわとも動かないことに気がつく。

宇宙そらからの浸透率が自意識を飛ばしたんだろうさ。ただの酸素酔い状態だ」

「だって、先生がいないんです」

 横たわる下は甘い土の感触。

「天翔ける甘味の素材は盗られてしまった」

 脳裏によぎったのはあの狐女。敵だった? だまされた?

「まぁ、見れたから構わないのだけどね」

 先生の軽い笑い声。

 僕はやはり良くないと思うのです。

 先生は先生なのですから、すべてを得るべきじゃないかとおもうんです。

「僕は見てません」

 先生が笑う。

「なら、しばらくこの星を探検しようじゃないか。ああ、そうだ。未開惑星行脚の旅もいいと思わないかい?」

「先生はぽろっと死んじゃう純人なんですよ? 危ないです」

 僕はようやく動くようになった体をゆっくりと起こす。

「君がいるなら大丈夫さ。それ以外は、まぁ、しかたがない」

 どうしてそんなに簡単に言い放つのか。

 先生は立ち上がり周囲を見回している。

 僕はそんな先生の周囲に危険がないか見まわしている。

「車のための燃料も手に入れれたしね。さぁ、行こうか」

 気まぐれに差し出される手を僕はそっと握る。

 車のための燃料すら準備済みとは先生流石です。

 僕が先生の高みにたどり着くにはまだまだで、そこまでは生きていてもらうべきで、それにはやはりおいしい栄養のある食事をとなる。

「食べられるものを探さなきゃですよね!」




 先生と僕は宇宙の片隅。

 きっとどんな遠いところにも行ける。

「先生、たどりつくまでの話を聞いてくれますか?」

「ああ。時間はあるからな。できればわかりやすく訳しながら話しておくれ」

 先生は優しく僕の髪を撫でる。

「僕の説明がわかりにくいかのようじゃありませんか!」

 先生はふてくされる僕を変わらずに撫でる。

「星の歌を聴くお前と聞けぬ者では同じ言葉を使っていても遠いのだよ」

 先生はいつも難しい。

 僕は先生の近くにいたいのに。

「こんなにも近いのに、遠いのですね」

「それが命の距離だとも」

 空を仰ぐ先生の声は静か。

 いつか、先生に置いていかれる。

「もし、分かり合えると思えたなら、一緒に生きてくれますか?」

「その時は決別の時だろう」

 わかりません。

「その勝負にはのれんなぁ。のった瞬間に終わるからな」

 意味がわかりません。

「さぁ、今は行こう。久々の冒険だ」



とにあさん、お願いです:

ジーンパンク要素:28% 【必須】

詩要素:30%

スペオペ要素:31%

恋愛要素:11%

という、長編スチームパンクものを書いていただけませんか?

#novfct

http://shindanmaker.com/564028

長編は保留 ジーンパンク(遺伝子操作系の造語だとか)


とにあへのお題は〔こんなにも、遠い〕です。

〔カタカナ語禁止〕かつ〔味の描写必須〕で書いてみましょう。

http://shindanmaker.com/467090


ねーとにあ、生きることすら面倒な考古学者と忠犬のように付き纏う人物の、決して勝ってはいけない勝負の話書いてー。 http://shindanmaker.com/151526

とにあさんへのお題:

ジャンル:SciFi

1.予兆:調査依頼

2.発端:本や記録を/が調査依頼

3.事件・試練:盗難

4.援助者:弟子筋の人

5.闘い:謎々をとく

6.結末:偽物が横取り

#novflw

http://shindanmaker.com/563911

ジャンルは似非で


触手の生えた獣人(お好きな獣人でどうぞ)でモフモフされる話を書きます。 http://shindanmaker.com/483657


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