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水玉返し

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 感謝の捧げ方。

 いつの時代も求められる作法でありながら、きちんと受け取ってもらえているかの、絶対的な答えは生まれずにいる。一時的にはよくても、時代や支配している者たちにより最適な解が変わっていくためだろうな。

 それでいて、感謝がちゃんと相手に伝わっているかの判断も難しい。

 あからさまに機嫌を悪くしてくれるなら一目瞭然だが、人同士だとそうもならないこともある。場合によっては、知らぬままに嫌悪感を持たれていることもあるだろうな。

 けれど、判断材料はいろいろとある。よく聞く、空気を読むという所作もそのひとつ。特に日本は屏風など、見る目はさえぎっても音や空気まではさえぎらない。

 湿度の高い日本の気候に合わせたのだろうが、こいつもまた空気を読み取るセンスを育むための教育だったのかもしれない。

 私が昔に聞いた話なのだけど、耳に入れてみないかい?


 私の友達と酒の席で昔話をした時のことだ。

 友達の祖父母の家はとある離島に存在し、夏休みと年末年始に里帰りをするらしい。

 暑いところらしいからね。風通しがよいつくりの家が多く、今も屏風やすだれが現役なのだという。

 どれほど家電のたぐいが発達したとしても、これは外すことができない。なぜなら、恩返しの機会を逃さないようにするためだという。

 その島だと「水玉返し」の名で知られているものだとか。


 晴れた日に、この恩返しの機会はやってくるときがある。

 そのような天気のときは、できる限り外の空気が室内へ入るように換気をよくする。この際、各家で用意している屏風を用意して風の通り道へ設置するんだ。

 そして時間を見つけて、あえてその屏風の影へ移動し、そっとあぐらをかいて神経を集中させる。何事もなければ、いつも通りの空気が過ぎていくばかりなのだとか。

 しかし、そのタイミングが来ると、分かる。

 吹き込み、通り抜けていく風がいやにぬくもりと、湿り気を帯びている。汗が全身から噴き出すかと思う心地がするも、実際には全然汗をかいていない奇妙な感覚。

 これを感じるときは、水玉返しの準備をしなくてはならないといった合図なんだ。


 恩返し、と聞いてかなり肩ひじを張った準備がいるのでは? と考えるかもしれないが、用意するものはごくシンプルだ。

 水玉模様をあしらった風ぐるま。手で持てる大きさで構わないけれど、柄の部分にも塗料で水玉をあしらったものだ。

 それを玄関先に立てかけておく。そのままだと風で飛んでいってしまう恐れがあるから、深めの籠なりに入れておくのが主流らしいね。

 風を感じ取ったどの家も、同じようなことをし始める。そうして一週間はどのような天気だろうとそこへ置かれ続けるのさ。


 かの島だと、もたらされるあらゆる恵みは子供の姿をした自然の神様のおかげとされているそうだ。

 人間などから見ると災害にとれるようなことも、島全体およびその近辺の海にしてみればプラスにつながることであるとし、その苦労をねぎらうためなのだという。

 ときに雨や湿気の関係か、出していた風車の水玉が流れたり、消えたりしている場合があると神様が持っていかれたのだと、喜ぶのだとか。


 ――もし、水玉返しをしないとどうなるのか?


 うん、必ずしもバチがあたるとも限らない。しかし、それはたまたま気まぐれで許されるもの、と受け取るみたい。


 友達が聞いた話だと、バチのひとつは多雨だという。

 その水玉の風車を用意していない家は、しばらくして雨に見舞われることになった。最初は天気が悪いのかと思ったが、よそへ出かけると空はからりと晴れてしまい、なんともない。

 ただその人の家のまわりに来ると雨が降る。雲を必要としない天気雨が、延々とだ。

 それが何日も続くとなれば、当然雨漏りをはじめとしたトラブルが家じゅうを苛むようになる。

 こうなってはもはや手遅れ。たとえこれから水玉返しをしようとも、雨は決しておさまることはなく、かの家は降り続く雨の影響で傷み、やがては押しつぶされてしまい、それからもなおしばらく雨は降り続け、でっかい水たまりをその一帯にこしらえてしまったとか。

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