もみ☆おじ 男の娘が最強という理論に異論は認めない
男の娘とはすなわち最強である。
我が身をもって体感し続けたこの論理には寸分の狂いもあるはずがない。
どのあたりが最強かって? そんなの考えずとも理解できるだろう? 息を吸って吐くのと同じようなものだ。
まず、一見しただけでは性別を判断しがたい謎めきと男だと言われてもまるでそう見えない疑心によって生まれる背徳感。その上どんな服装をしてもファッションという名のもとに収められる万能性。異性にとっては保護欲をかきたてられる狂おしいほどに可愛い存在であり、同姓にとっては美少女のような風貌でありながら女子よりも圧倒的に近い距離感で接してくれる天使のような存在である。まぁまだまだ語り尽くせていないこともたくさんあるが簡潔に言うなら、神聖で美しく儚くて手の届きそうにない存在。
それゆえに銀杏きゅんはみんなの嫁と呼ばれ続けたあの時間が俺はとても嫌いだ!
期待を裏切らないように身に染み付けた僕という一人称も、男女それぞれに対応した萌え行動も、周囲に見せてるものがほぼほぼ嘘なのだ! 同姓なのをいいことにセクハラまがいな接触をしてくる男子のせいや親のせいで芽生えた人間不信に拍車がかかり、いつ何時でも現れては可愛い可愛いともてはやしては俺を人形のように扱う女子たちのせいでJK女子高生恐怖症が発症したのだ!
三十路へと足を突っ込んだ今となっては昔の話ではあるが、未だに女性を見るだけで悪寒が走るものだ。特にJKなんぞを見かけた日には吐き気とともにダッシュで撤退である。
みんなこの苦労を一度は味わってもらいたいものだ。世の中全員男の娘になっちまえ。……待てよ? それ、平和じゃね?
そうだ! みんな男の娘になっちまえば世界丸ごと平和だな。経験上、人は男の娘のために支援は惜しまないから格差社会にある程度節目がつくな。男の娘を戦争に行かせるわけにはいかないから戦争もなくなる。パッと見では性別の区別がつかないから性犯罪も(言及はしないけど)減るし、そもそもどこを見ても見苦しくない! 種の存続? 知ったことか、平和が一番だろ。
よーし、そうと決まればまずは世界各国の男の娘を探す作業からだ。あわよくばその全てを我が手中に納めてやる。そういえば我が屋敷にはメイドが不足していたな。ついでにメイド募集も兼ねられるな。我が計画は完璧だ。もう今から楽しみだな。
わーはっはっはっ!
「ふふふっ、楽しみだなぁ。早く会いたいよ、幸洋もみじくん!」
まず目をつけた子は近所の栂の木小学校に通う幸洋もみじくん。栂の木小学校五年生二組。ボーイッシュなタイプの男の娘でだぼっとした私服をよく着ているので首元にどことなくエロスを感じる。素晴らしい!
その辺りの情報はトリッターさんによってリサーチ済み。既にダイレクトなメッセージでやり取りもしている。完璧だ……。ちなみに俺のトリッターのアカウント名は「もみ☆おじ」で一応小学生ということになっている。
「この見た目が役に立つのは久しぶりだな」
基本的に大人になった今では幼く見られるだけで役に立たない風貌もある程度の権力と併用してしまえば架空の人物を生み出すことが容易なのだ。
既に栂の木小学校に潜入し、職員室で全力で男の娘していた時代に身に付けた演技力で完璧な小学生のフリをしているところだ。
やがて優しげな女教師に連れられ五年二組の教室へと向かった。
「はーい、みんな座って~」
楽しそうに会話をしていた子供達は教師の一言でザワザワとしながらも席に戻っていった。
みなさんが静かになるまで何分かかりましたってやつは今ではやってないのかな? うん、懐かしき謎の風習。
「今日は転校生が来ています。自己紹介をお願いします」
「はい」
待ち時間の間に窓側最後列に座っているもみじくんの姿を確認した。いつも通りだぼっとした私服。うん、素晴らしい。隣の女と話しているのがどうにも気にくわないが、まぁそんなことはいい。どうせ俺が奪うのだから!
そんなことを考えていたので少し気が抜けていたが、ちゃんと少し語尾が伸びるくらいの返事をする。小さい頃は語尾が伸びるよね。
「銀杏加古です。よろしくお願いします」
自己紹介をしながら視線は常にもみじくんの方へ。ひたすら男子の気を惹く女の子モードだ。まずはもみじくんを悪い女達から引き剥がさなければ……。
「みんな仲良くしてあげてくださいね。銀杏さんの席は桐ノ字さんの後ろね」
「はーい」
むぅ、もみじくんとは近いけどあの女の後ろか……まぁ一番もみじくんと近いところだからいいんだけど。
にこやかに歩いて行くと桐ノ字が、私桐ノ字疾風よろしくね。と話し掛けてきた。うん、よろしく。と返して席に座ると教師の話はそっちのけでもみじくんに話し掛けてみる。
「よろしくね。名前は?」
今のにこやかな笑顔は本物だ。もみじくん超可愛い。
「僕は幸洋もみじ。よろしく」
返事をにこやかに返してくれるもみじくんに私の……あ、いや俺のハートは瞬く間に撃ち抜かれた。実物もみじくん最高!
やっぱり君は私の側にいるに相応しい!
それ以降放課後まで私は……あぁ久しぶりにやると精神が引っ張られる……俺は可愛さゆえに子供達に大人気になってしまい対応に追われ、もみじくんと話すことができなかった。
趣味とかその辺りはトリッターでリサーチ完了してるけど、やはり何よりも生もみじくんを堪能したい!
終わりの会の挨拶が終わって放課後になると、みんな一目散に荷物をまとめ近所の子と遊ぶ約束をしながら帰っていくようだ。
懐かしの集団登校について教師に言われたのは同じ方向の家の子はもみじくんと桐ノ字しかいないらしい。
邪魔物がいるけど、もみじくんと帰れるなら万事オッケー。
「もみじくん一緒に帰ろ!」
「同じ方向?」
「そうみたい」
「うん。じゃあ帰ろうか」
私がもみじくんと親しげに話すからか、桐ノ字は顔を真っ赤にしてむくれている。若いな少女よ。
それから学校を出て会話をしながら歩くこと十数分。屋敷が見える辺りへとたどり着いた。
「あれが私のおうちなの!」
二人は言葉を失って立ち尽くしている。勿論ここら一帯で最もでかい家だし、誰もがここには誰が住んでるんだろうと気にしていたであろうから、二人が驚愕するのも無理はない。
「少し遊んでいく?」
「「いいの?」」
「大丈夫、大丈夫」
門の前まで行くと執事のセバスチャンが開門して私を待っていた。
「おかえりなさいませ。加古様」
「セバスチャン。お客様が来てるわ。部屋に通すわよ?」
「かしこまりました」
生執事に緊張した様子の二人をセバスチャンが誘導する。二人が門を通ったところで閉門し、あとは私が先導して二階の片隅に存在する私が女の子を演じる際のみ使用する部屋へと案内する。
「どうぞ」
お邪魔します。と部屋に二人が入ったところで後ろ手でドアを勢いよく閉めた。と同時にさりげなく鍵をかける。
滅多に使ってない部屋といっても掃除はされており、確か私が小さいときに母がデコレートした部屋なので女の子感は完璧だ。
流石セバスチャンというべきかテーブルの上には既にお菓子とお茶が用意されている。
「さて、じゃあまずはコスプレ大会しましょ?」
屋敷の鍵は瞳なり指紋なり登録していないと開けられないので、現状ここは密室へと変わっている。
「「え?」」
クローゼットから魔法少女服とかメイド服とかを取り出し順々に着せ替えしていく。最初は逃げようとしていたみたいだけど、鍵がかかっていることを悟って諦めたようだ。
やばい! 楽しい!
もみじくんに女装させるのすんごく楽しい!
残念ながら限られた空間内のクローゼットなので(私の変装のために屋敷中のそこかしこに様々な衣装がある)もうネタが切れてしまった。
最終的に三人揃ってメイド服になっていて、二人はどうやら疲弊しきっているようだ。
やばい。もみじくん激カワ。やばい。ボーイッシュなメイドすごいいい! 抵抗のせいか少しやさぐれてる感じがいい!
ついでのはずだった桐ノ字もなんだか悪くない。
そして私は当初の計画……というか野望? を思い出す。
「ねぇもみじくん、とついでに桐ノ字」
「……なに?」
「桐ノ字……!?」
「あなたたち、私のメイドになりなさい!」




