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引きこもり魔王とくたびれおっさん勇者ののんびりグルメ旅  作者: 遊野 優矢


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9/9

■9話 タメック草でつくる干し肉とチーズ入り極上パン(9)

「はあああああ!」


 オレが気合を入れると、剣の刀身が真っ白に輝き出した。


「今生きてるってことはオレと会ったことはなさそうだ……なあ!」


 オレが無理やり剣を振り抜くと、爪ごとお姉さんの体が上下に真っ二つになった。

 お姉さんの上半身と下半身がどさりと地面に倒れた。


「ぐあああああ! こんなくだびれたおっさんになぜこんな力が……」


 くたびれたは余計だよ! 事実だけどさあ!


「次元爪を切り裂くとはむちゃくちゃをしおる」


 フェリオスがオレの剣を苦い顔で見つめている。

 光を失った剣の刀身は、ぼろぼろと崩れ、柄だけになってしまった。

 この技は、使うたびに剣が壊れるのが難点なんだよなあ。

 金がかかってしょうがない。


「なんでも斬り裂く技だからな」


 理屈はさっぱりわからんが、気合と魔力をこめるとなんでも斬れるのだ。


「さて……貴様一人で動いていたわけではあるまい? 仲間の名を言え」

「ふ、ふん……なぜ私がそんなことを……」

「我が問うておってもか?」

「はぁ? なぁに言ってんだい……ごふっ……」


 お姉さんが口から血を吐いた。

 真っ二つになって生きてるだけでも不思議だが、魔族とはそういうものだ。

 断面からは出血はしていない。

 すぐにくっつければ再生できるらしい。

 もっとも、長時間このままでいれば死んでしまうが。


「やれやれ、こんなにもにぶいようでは使い捨ての手駒として一生を終えるのもしかたのないことか」

「生意気な……この傷さえなければ……」


 そう言うお姉さんの傷口からは、じゅるじゅると触手のようなものが生え、互いにつながろうとしている。


「これでもか?」


 そう言ってフェリオスが魔力を開放した。


 それだけで、全身の肉と魔力が警報を鳴らしまくる。


「ひっ……」


 お姉さんは言葉を失い、触手の動きもぴたりと止まる。

 ガチガチと歯を鳴らし、目からは涙が溢れている。


 普通の人間ならこれだけで失神必死だろう。


「この魔力……ベールを通してお目通りしたことが……ま……魔王様!?」


 お姉さんは上半身だけの体をなんとか動かし、地面に這いつくばる。


「いやあ部下もビビるとは、やっぱりすげえ魔力だなあ」


 のほほんとしたオレの言葉を、お姉さんはぽかんとした顔で見上げてくる。


「人間がなぜこの魔力を浴びて無事でいられ……まさか……勇者!?」

「どうも、勇者やらしてもらってます」

「バカなバカな! なぜ魔王様と勇者が一緒に!」

「そりゃあ、オレが勝負に勝ったからさ」


 フェリオスが横で舌打ちをしている。


「そ、そんな……。魔王様は生き延びて反撃の機会を伺っていると聞いていたのに……」


 お姉さんの顔が絶望に染まる。


「そう言った者が貴様に魔王像を売らせたのだな?」

「は、はい!」

「名は?」

「ジュダス様です」

「魔王城の近くで倒したはずの四天王だな」


 四天王を名乗るだけあって、そこそこ強かったので覚えている。


「ヤツのことだ。肉体を捨てて精神だけ逃げたのだろう。逃げるあれを捕らえるのは、我でも骨が折れる」


 まじかよ。

 きっちりトドメをさしたつもりだったが、人間に知覚できない逃亡方法をされちゃあどうしょうもない。


「そいつも薄情だよな。生きてたんなら、オレとフェリオスが戦ってる時に加勢したってよかったろ」

「ジュダスめ……最初から裏切るつもりだったのか?」


 部下が魔王の座を狙っていたなんて、あってもおかしくない話だ。


「そんな……」


 これにはお姉さんも驚きである。


「どうやら旅の目的が一つ増えたようだな」


 美味いものを食う。

 裏切り者を殺す。

 なんとも落差のある目標だ。


「さて、コイツの処分だが……」


 フェリオスがじろりとお姉さんも見た後、視線をオレに移した。


「オレとしちゃあ、世界平和のためには生かしておく理由がないぞ」

「だろうな」

「そんな! 魔王様! お願いします! 騙されていただけなんです!」


 お姉さんの上半身が、フェリオスにすがりつこうとずるずる這いずる。


「我がこういうやり方が嫌いなのは知っておろう?」


 フェリオスが冷たく言い放つ。


 そういやコイツが魔王をしている間、魔王軍は卑怯な手段をとることは殆どなかったんだよな。

 何か協定があるわけでもないのに、いつも正面からの力押しだった。

 もちろん狡猾な戦略はたててくるが、街に毒を流したり、人間を魔力爆弾にしたりなどはなかった。


 過去の人間と魔族の戦争ではそういった例はいくらでもあったはずなのにだ。


「魔王さぐえっ」


 フェリオスが手のひらをお姉さんに向けると、お姉さんの体が一瞬にして血溜まりに変わり、地面に染み込んでいった。


「我はもう魔王ではない。だいたい、像の見た目が気に入らん」


 そう言ってフェリオスは肩をすくめた。


「それじゃあ次の美味い飯を食いにいくか」

「次も美味いんだろうな?」

「保証するよ」

「うむ、そいつは楽しみだ」


 このちょろ魔王との旅はまだまだ続きそうだ。


お読みいただきありがとうございました!

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今後の励みになります。


いったん今回で完結ですが、好評いただけたら続きを書きます!

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