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引きこもり魔王とくたびれおっさん勇者ののんびりグルメ旅  作者: 遊野 優矢


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■6話 タメック草でつくる干し肉とチーズ入り極上パン(6)

 領主の屋敷に忍び込むのはとても簡単だった。

 まずフェリオスの魔法でオレ達は透明になった。

 どうやら透明になった者どうしは姿がうっすら見えるらしい。

 なんて便利な魔法なんだ。

 こんな魔法があるなら、人間側の情報が魔族に筒抜けだったのも頷ける。


 そして、オレが領主の部屋まで案内するのだ。


「こっちだ」

「なぜ屋敷の構造を知っている?」

「前にも忍び込んだことがある」

「おい……」


 フェリオスが呆れ声を浴びせてくる。

 そこいらのごろつきより常識的なところがあるのなんなの?

 魔王のくせに。


「泥棒に入ったわけじゃないぞ。ちょっとこの屋敷から盗まないといけないものがあってな」

「何も違わないじゃないか。貴様、本当に勇者か……?」

「魔王を倒したんだから勇者だろ」

「ぐっ……くそ……」


 悔しさで奥歯を噛みしめるイケメンというのもなかなかオツなものである。

 からかうのはこのへんにしといてやろう。


「ここの領主は以前、魔石で出入りの商人に暗示をかけ、商品や奴隷を法外な値段で安く仕入れたりしていてな。スカーレットの宿をはじめとした多くの店が、そのあおりをくって客足が遠のいたのさ。それをなんとかしようと、魔石を盗み出そうとしたわけだ」

「やはり泥棒ではないか」

「いやいやこれは人助け……だけど泥棒だな?」


 当時はスカーレット達を助けなければとばかり考えていたが、普通に泥棒だったわ。

 だがこの国で裁判が行われるのは貴族間の争いだけ。

 庶民を助けようとするならあの方法しかなかったのだ。


「領主はまた懲りずに何かを企んでるということか。しかし、自分の領地で土砂崩れを起こしてどんな得があるのかわからぬな……」


 言われてみれば確かにそうだ。

 難しいことはおいといて、領主の部屋を探ってみればわかるだろう。




 領主の部屋に着くまでの間、何人かのメイドとすれ違ったが誰にも気づかれることはなかった。

 実に高度な魔法だ。


「待て。中に誰かいる」


 ドアの前でオレを制止したフェリオスがドアに向かって魔法陣を展開した。

 部屋の中で、どさりと何かが倒れた音がする。


「おいおい……殺しちゃいないだろうな?」

「眠らせただけだ」


 音をたてないようにそっとドアを開ける。

 室内で倒れていたのはリラだった。

 どうやら領主は留守中で、その隙を狙って金庫を開けたところだったらしい。

 彼女も邪神像が気になっていたのかもしれないし、それ以上の何かをたくらんでいたのかもしれない。


「金庫の鍵を探す手間が省けたな」

「オレより泥棒の才能があるんじゃないか?」

「くだらぬことを言ってないでさっさと調べるぞ」


 金庫の中には山でみたのと同じ邪神像があった。

 フェリオスがそれを手に取る。


「魔力はないな」

「見てくれが同じだけのただの像ってことか?」

「そうなるな」


 なぜそんなものを金庫に?


「そこで何をしている!」


 やってきたのは領主だ。

 かっぷくのいい40超えの男で、他人に不快感を与えるいやらしい目つきは当時と変わっていない。

 一瞬バレたのかと思ったが、声をかけた先はリラのようだ。

 領主は眠るリラへとまっすぐ近づいていく。


「おいリラ!」


 姿を消しているオレ達の前で、眠っているリラを領主が揺する。


「う、うーん……んあ? お、お父様……お父様!? こ、これは……ええと……」


 寝ぼけたリサが父親の顔を見ると、冷や汗とともに覚醒した。

 領主は狼狽するリサを睨みつけた。


「私の金庫に何の用だ?」

「ええと……」


 逡巡したリラだが、覚悟を決めた顔をした。


「お父様、この邪神像はなんですか? 私、山の土砂崩れ跡で同じものを見ましたの」

「これは重要な証拠品だ。国に依頼した調査員に渡すことになっている」

「証拠品……? 土砂崩れを起こした犯人のですの?」

「何を言っている? これは魔王信仰者の集会で使われていたものだ」


 フェリオスに視線をやると、彼は首を横に振った。

 心当たりはないらしい。

 勝手に信仰されてるってことか。


「リラ、お前何か知ってるのか?」

「土砂崩れ跡にあった像からは魔石が見つかったのです」

「なんでそんなところに行ったんだ?」

「領主の娘として、事故の現場を見ておくのは当然のことですわ」


 息をするように嘘をつくなあ。


「う、うむ……? あのわがままだったお前が……?」


 がっつり疑われてるじゃないか。


「まあいい。魔石が出たとなれば、土砂崩れが人為的なものか……。だとすれば一大事だ。調査を進めておく。お前は危ない場所に近づかないように」

「気をつけますわ」


 二人の会話からはそれ以上、たいした情報は得られなかった。

 オレとフェリオスはそっと領主の屋敷を後にした。


「いったいどういうことだ? 邪神像ではなく魔王像だったってことか?」

「我はあんな姿はしておらぬ」

「魔王の姿を見たことのある人間なんてそうそういないだろうから、勝手な想像で作ったんだろ。それより、だれが土砂崩れをおこしたかだな」


 魔王やら邪神やらを信仰する連中が出てくること自体は不思議でもなんでもない。

 神よりも魔の方が楽に願いを叶えてくれるという甘言にコロっと騙されるのだ。

 しかもその殆どは詐欺師による金儲けである。


「ふむ……我に心当たりがある」

「本当か! さすが魔王だな!」

「う、うむまあな……」


 すぐテレる。

 このチョロさでよく魔王なんてやってたなあ。


「その心当たりってのは?」

「まあ待て。まずはタメックパンだ。今のうちに食っておかねば」


 この魔王、ちょっと食いしん坊すぎない?


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