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引きこもり魔王とくたびれおっさん勇者ののんびりグルメ旅  作者: 遊野 優矢


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■4話 タメック草でつくる干し肉とチーズ入り極上パン(4)

 ヘルベアーがリアの頭を鷲掴みにして持ち上げたところでオレが動いた。


 一瞬でリアの横に移動し、剣を鞘から抜き、鞘へと戻す。


 今の動きを目で追えたのはフェリオスだけだろう。

 リアからすれば、オレがすぐとなりに来ただけに見えたはずだ。


「これにこりたら、住民の迷惑になるようなお触れを出したりするな」

「わかった! わかったから! 助けてロドリック! 

「もう助けたぞ」

「え?」


 リアがぽかんとするのと同時に、彼女の頭を掴んでいたヘルベアーの肘から先が、地面にぼとりと落ちた。


「グォ……? グオオオオオオオオ!」


 一瞬呆けたヘルベアーが咆哮を上げると同時に、オレの剣が煌めいた。


 オレがヘルベアー達の背後に切り抜けると同時に、3つの頭が地面にぼとりと落ちた。


「化け物じみた腕だ……」


 フェリオスが苦々しい顔でこちらを見ている。


「それにしてもお優しいことだな。娘の腕の一本も喰わせてやればよかったのだ」

「それじゃあ完全に犯罪者だろ」


 貴族をさらった時点で十分に犯罪者だが。


「治癒魔法で再生くらいはしてやるさ」


 そういう問題じゃないんだよなあ。

 このあたりの発想がとっても魔王。

 ……いや、人間も似たようなもんか。

 各国で見てきた残酷な行為がふと頭をよぎってしまった。


「ふ、ふん! なーによ。たいし――」

「たいしたことないなんて言いませんね?」

「はい……」


 調子にのりかけたリラをいさめ、やっと本題に入る。


「さーてと、本来の目的を果たすかね」

「タメック草だな。だが、どうするのだ? この女に土でも掘らせるか?」

「いやですわ!」

「それはさすがに時間がかかりすぎるだろ」

「時間の問題じゃなくてよ!?」

「貴様以外の人間を認めたつもりはない。使い捨ててもかまわんだろう」

「不敬だわふたりとも! いい加減にしないと牢にぶちこみますわよ!」


 騒ぐリラを睨むフェリオスの目はとても冷たいものだ。

 その目に射抜かれただけで、リラは「ぐっ……」と言葉につまる。


 ここにくる間に考えていたことを試してみるか。


「ちょっと飛行魔法を使うぞ」

「お、おいおいおい!」


 フェリオスが慌てる。


「なにをそんなに驚いているんですの? 空から様子を見るだけでしょう?」

「バカめ! やつの飛行魔法はそんな優しいものではない!」

「リラ様のことは頼むぞ」

「くそっ……」


 オレの周囲に風が渦巻くのと同時に、フェリオスがリラ様を抱えて空へと飛んだ。


「また私を物みたいにいいいいいぃぃぃぃ……」


 二人が離れたのを確認したオレは、飛行魔法を発動する。


 オレの周囲に風がうずまき、体がふわりと浮かぶ。

 魔力を高めていくと、風は渦から竜巻へと変わった。

 竜巻は山の地肌を削り、大量の土砂を巻き上げる。

 土砂は竜巻に絡め取られ、渦巻く黒い柱となっている。


「聞こえているか、フェリオス」


 オレは契約の鎖を通じて、魔力でフェリオスに語りかける。


「なんだ?」

「オレが巻き上げている土砂の中から、タメック草を取り出してくれ」

「貴様……我を草拾いに使うと申すか……」


 声からフェリオスの苛立ちが伝わって来る。


「お前じゃないとダメなんだ。この大量の土砂の中から、たった一種の草を取り出すなんて、普通の魔術師にはできないことだからな」

「ふ、ふん……それはそうだ」


 ちょ、ちょろい!


「だが、タメック草がどんなものかわからぬと、いくら我とて取り出すことはできぬぞ」

「そりゃそうだな……。んーーここだ! ふんっ!」


 オレは竜巻に向かって拳を突き出した。

 その拳圧で竜巻に一瞬横穴が空いた。

 穴の中心付近に、50センチほどの草が浮いている。

 太い根もしっかりついている。

 あれがスパイスの素になるのだ。


 さらに手のひらをぐいっと押し出す動作で掌圧をかけ、タメック草を竜巻の外へと吹き飛ばした。


「そいつがタメック草だ。10束ほど必要なんだ」

「おい、どの口が我でなければできないと……?」

「まあまあ、全部見つけ出すのはオレにはできないからさ。ほれ、契約契約」


 オレが手錠をちらちら見せると、フェリオスは舌打ちをしながらかざした手の前に4つの魔法陣を展開した。

 魔法陣が強い輝きを放ちながら回転すると、竜巻の中からタメック草がどんどん抽出されていく。


 フェリオスの前には、ちょっとした小屋を満杯にできるくらいのタメック草のかたまりができていた。

 名物だけあってかなりの量だ。


 さて、竜巻の中に生物の気配は……ヘルベアーが20頭ほどか。

 巻き上げられたヘルベアー達が、竜巻の中でジタバタと暴れている。

 これが町に出たら大変なことになる。

 かわいそうだが、肥料になってもらおう。


 オレが魔力を高めると、竜巻はその回転を激しくさせ、雷を帯びてきた。

 巻き上げられていたヘルベアーの体がバラバラの肉片へと変わる。


 さらにそこから魔力を制御し、巻き上げられた土砂をもとの山の形になるよう下ろしていく。

 山の中腹に作られた畑の形を再現するのも忘れない。

 ちょっぴり前と山の形が違う気がするが、どうせ土砂崩れで変わってしまった地形なので許してほしい。


 オレは飛行魔法を解除し、山に着地した。


「フェリオス! この畑にタメック草を植えてくれ。キミの魔力制御の腕前があればできるだろう?」

「なぜ我がそんなことまで……」

「来年からタメックパンが食べられなくなったら困るだろう?」

「ちっ……これでたいして美味くなかったら、山ごと吹き飛ばしてくれる」

「あのシチューよりも美味いんだ。楽しみにしておいてくれよ」

「ふん……」


 フェリオスは口をとがらせながらも、天に手をかざした。

 集めてあったタメック草が、空中にずらりと並ぶ。


 フェリオスが手を振り下ろす動作をするのと同時に、空から大量に降ってきたタメック草が地面へと突き刺さっていく。


 以前よりもふかふかになった土に、きれいに整理されたタメック草畑の完成だ。

 これで来年以降も美味しいタメックパンが作れるだろう。


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