■3話 タメック草でつくる干し肉とチーズ入り極上パン(3)
そんなわけでオレは山の麓へとやってきていた。
中腹から麓まで、土砂崩れで土がむき出しになっている。
これでは登ることはおろか、危なくて近づくことすらできないだろう。
だがこの程度、何ら問題ではない。
オレは一度の跳躍で標高500mほどの地点へと跳んだ。
どんっ!
着地の衝撃で土砂崩れがちょっぴり広がった気がするが、後で直すから許してほしい。
それにしてもフェリオスはどこへ行ったのか。
宿の前で別れた時、すぐ合流するとは言っていたが……。
ふと空を見上げると、小脇に女性を抱えたフェリオスがふよふよと飛んできたところだった。
静かにオレのそばに着地したフェリオスは、抱えた女性を地面に放り投げた。
「死罪! 死罪ですわ! ちょっとイケメンだからって絶対許しませんわ!」
泥まみれになったきれいなドレスで立ち上がったのは、二十代半ばのブロンド巨乳美人だ。
問題は彼女……。
「リラ様……おいおい、まさかさらってきたのか?」
「直接見せるのが一番早いだろう」
「わーお……やべえヤツだなおい……」
ヘルベアーを見せるために領主の娘をさらってきたってこと?
クレイジーすぎない?
「魔王城で読んだ本に同じことをしている義賊の話があってな」
そういやコイツ、生まれてから魔王城を出たことがなくて、魔法の修行と読書ばかりしていたらしい。
旅に誘ったのは、戦いの最中にそういう生い立ちを知ってしまったからというのもある。
「あー! 勇者ロドリック! 私にした仕打ち、忘れてませんわよ!」
リラが鬼の形相でオレを指さしてきた。
「いやいや、あれは緊急事態でしたし」
「魔族との交渉材料にするために領主の娘をさらうなんて! まだ許してませんからね!」
「貴様も同じことをやっているではないか」
呆れ顔のフェリオスである。
いやいや、こっちはやむにやまれぬ事情があったんだって。
「あの時の恐怖……今思い出しても震えがきますわぁ……」
なぜそこでちょっと恍惚とした表情をするのか。
「罰として、魔王を倒したら私の伴侶になる約束、覚えていますわよね?」
「約束なんてしてませんて。リラ様が勝手に言ってただけです」
「私の求婚を断るおつもり!?」
「歳も離れていますし」
「貴族ならこれくらい、珍しくありませんわ」
リラ様にはなぜか気に入られてるんだよな……。
わりとひどい扱いをした気がするんだが。
「来たぞ」
フェリオスの視線の先には、体長5メートルを超えるヘルベアーが3頭。
うち1頭はやや小ぶりなので親子連れだろうか。
子どもに狩りを教えようとしているのかもしれない。
ヘルベアー達は10メートルほど離れてこちらをじっと観察している。
当然、オレもフェリオスも接近に気づいていたが黙っていた。
「あれが貴様の言う熊さんだ。一緒に遊んできたらどうだ?」
フェリオスがアゴでくいっとヘルベアー達を指した。
「無理に決まってますでしょ! ちょっとロドリック! この無礼なイケメンは誰ですの!?」
「あー……旅の仲間みたいなもんだ」
「仲間の性格は選んだ方がよろしくてよ。顔だけなら婿にしてあげても良いレベルですのにもったいない」
「嫁の性格も選びたいんだが」
「どういう意味ですの!?」
この年でそんな権利はなちお言われればその通りだが。
それにしても、ヘルベアー3頭を前にしていつものノリを維持できるのには恐れ入る……が、さすがにちょっぴり足が震えている。
「ほら、お友達にでもなってこいよ」
フェリオスがリラの背中をドンと押した。
うーん、さすが元魔王。
「ちょ、ちょっと!?」
たたらを踏みながら前に出たリラに、ヘルベアー達の視線が集まる。
「グオオオオオ!」
一頭のヘルベアーが立ち上がり、吠えた。
「ひゃあっ!?」
びびったリラが尻もちをつく。
「ひっ……わか……わかりましたわ! 危ない! ヘルベアーは危ない! あんなのに襲われたらひとたまりもありませんわ!」
リラが地面をはいながら、オレの後ろに隠れた。
「何をしてる。かわいい熊さんと対話でもしたらどうだ?」
フェリオスが冷たい目でリラを見下ろす。
「いじわる言ってないで助けなさいよ!」
「なぜ我が貴様なぞを助けるのだ?」
「ヘルベアー討伐禁止を解除させればいいんでしょ!? 私だってこれほど凶暴そうなモンスターだと知っていれば、討伐禁止なんて言いませんでしたわ!」
「何を言っている? そんなことではないぞ」
「へ……? は、反省ね!? 反省した! 反省しましたわ! だからほら、ちゃちゃーっと倒しちゃって!」
そのあたりを察せるあたり、頭はいいんだよな。
ヘルベアー達が舌なめずりをしながらじりじりと距離をつめてくる。
「いやああ! 来ます! 来ますわ! きっとまず狙われるのは一番美味しそうな私ですわ!」
オレ達のことをマズそうって言ってる?
「ほら、行けよ」
フェリオスがリラの尻を軽く蹴飛ばした。
「ひゃん! こ、この……イケメンなら何をしても許されると思わないことね!」
騒ぐリラを無視し、フェリオスは彼女の襟をつかむと、ヘルベアーの前へと放り投げた。
「え……うそ……そんな……」
リラは尻もちをついたままぶるぶる震えながら後ずさろうとするも、慌てふためくその手足は緩んだ土をかくばかりだ。
ヘルベアーがリアに顔を近づけ、彼女の鼻をべろりと舐めた。
「ひっ……臭……ちょ、たすけ……たすけてええええ!」
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