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89. 13年と2ヶ月目① 南東の森。

「そういえばおかあさん、今更聞くけど南東の方にある森って探検した事ある?」


 4人でお昼を食べ終えてからそれぞれの時間を過ごしていたミノリ一家。居間でくつろいでいたネメはふと思い出したかのように同じく居間で裁縫をしていたミノリに尋ねた。


「えーっと……そっちには行った事ないかな。この家がある森は私たち以外のモンスターや人間が普通には入れないから安心できるけど、そっちは何がいるかわからないから用心のために……でもなんで急に?」


 その問いに対して記憶を振り返るようにほんの少しだけ考えてからミノリは答えた。


 そもそもこの世界に転生してからのミノリの行動範囲は非常に狭く、我が家のある森と森周辺の狩り場、そしてキテタイハの町ぐらいまでで、それ以上の遠出となるとかつて家族旅行へ出かけたカツマリカウモ周辺とシャルの荷物を取りに行って戻ってきただけの北の大陸ぐらいしかないのだ。


「こないだ買い出しで南東の森の上を飛んでいた時に見つけたんだけど、森の中から湯気っぽいのが立ちこめてた。多分あれ温泉。それを確認しに行ってみたい」

「温泉!? わぁ、いいなぁ……」


 ネメから温泉があるかもしれないと聞いたミノリは幼い子供に戻ったように瞳を輝かせた。何を隠そう前世のミノリは温泉大好き少女だったのだ。

 ミノリが住んでいた地方都市には温泉施設がいくつもあり、地元民なら格安で入ることができたために頻繁に利用していたのだ。この世界では温泉は無縁のものと心のどこかで思っていたのだが、この世界にも温泉があると聞いてはいてもたってもいられない。


(時間的にはお昼を過ぎたばかり……これから行くとしたらいっそ一泊二日のキャンプにした方がいいかも)


「おかあさん、どしたの?」


 温泉があると聞いた途端に童心に返ったような笑顔のまま何も言わないミノリに対して不思議そうな顔をするネメ。


「あ、ごめんねネメ。つい嬉しくなっちゃって。えーっと、それだったらみんなでそれが本当に温泉かどうか確認しに出かけるついでに、そのままキャンプをするのもいいんじゃないかなーって思って。

 本当に温泉だったらそのまま入浴したいし、温泉じゃなくてもたまには家族みんなで遠出するのもいいんじゃないかなって」

「キャンプ! おかあさんナイスあいであ。行こう今すぐこの瞬間無性に突然どうしても」


 ネメもどうやら乗り気なようだ。


「それじゃトーイラとシャルにもキャンプしに行くか聞いてみるね」

「ママ、私も行くー!!」

「私も行きたいです!」

「わっ、2人ともいつの間にいたの!?」


 ミノリが部屋を出て2人にもキャンプに行くか尋ねようとする前に、いつの間に居間へやってきていたのか、トーイラとシャルも賛成するように手をあげた。

 それならば話は早いとミノリたちは南東の森へキャンプをする事になったのであった。



 ******



「あれ、もうみんな準備終わったの? 早かったね」


 急いで準備を終えたミノリが外へ出ると、先に準備を済ませていたらしい3人が既に待ち構えていた。


「うん、ママとの泊まりでお出かけ久しぶりだから楽しみだもん」

「おかあさんとキャンプだほい」


 トーイラもネメもキャンプが非常に楽しみなようでウキウキとした気分となっているのが一目でわかる。確かにミノリが、トーイラとネメと共に泊まりで出かけたのは数年前に南の方にあるカツマリカウモとワンヘマキアの町へ行った時以来だ。2人が楽しみで浮かれるのも無理はない。


「私もこんな風に誰かと泊まりでお出かけするのは初めてなのですごく楽しみです」


 そしてシャルはその頃はまだネメとはふうふとなっていなかった為、こんな風に誰かと一緒に泊まりで出かけるという体験自体が初めてで新鮮な気持ちなのだろう。


「ママ、ちなみにだけど目的地まではどうやって行くの? 飛んでいけばすぐだけど」

「ううん、空を飛ぶ必要がある時以外今回は歩いて行くよ」


 確かにトーイラが言うように、空を飛んで行ってしまえば目的地まであっという間だ。しかし森の中を散策するのも楽しみの一つと考えているミノリは、それではキャンプの醍醐味だいごみが薄れてしまうと判断したのだ。決してミノリが高所恐怖症だからではない。


 そして歩いて目的地まで向かうのはもう一つ理由がある。それはというと……。


「それにキャンプで必要な食料は見かけたモンスターにしようと思っているから飛んで行っちゃったら遭遇しない可能性も高くなっちゃうからね。念のため非常食は持って行くけど」


 食料の現地調達である。持参する荷物はなるべく減らしたいと考えた結果、道中で出現したモンスターを狩ればいいのではとミノリは判断したのだ。だから断じてミノリが高所恐怖症だからではないのだ。絶対に、きっと……多分。


「なるほど地産地消」

「多分それは微妙に違うと思いますよネメお嬢様」


 そしてミノリの言葉を受けて相変わらず謎の言動をするネメとそんなネメに対してツッコミを入れるシャル。いいコンビのようで何より。


「それじゃ、キャンプにしゅっぱーつ」



 家の戸締まりをし終えるとミノリたちは南東の森へ向けて歩き出したのであった。


13年と2ヶ月目は⑥まであります。

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