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85. 13年目② おねだりする娘とシャルの指摘。

R15と捉えられそうな表現があります。苦手な方はご注意ください。


「トーイラ、ネメ、誕生日おめでとう!」

「トーイラお嬢様ネメお嬢様おめでとうございます!」


 早速始まったトーイラとネメの誕生日パーティー。ミノリとシャルはお祝いの言葉をトーイラとネメに投げかけた。


「ママありがとう! 私たちが今日まで元気で過ごしてこられたのも全てママのおかげだよ! シャルさんも祝ってくれてありがとう」

「おかあさんありがとう。私、おかあさんの娘でいられて本当に良かった。おかあさんがいなかったらシャルとも出逢えていなかった。シャルもありがとう。シャルは本当にかわいい私の嫁。今夜は一緒にいてあげられないけれど明日はいっぱい可愛がってあげる」

「はいネメお嬢様。聞いていましたので大丈夫ですよ。……明日、お願いしますね?」


 ネメの言葉に対して、上目遣いでおねだりするように見つめながら返事をするシャル。その姿を確認したネメは優しくシャルの頭をなで始めた。仲良しふうふでなにより。


 そんな仲睦まじい2人の姿を母親として温かく見守るミノリだったが、先程の言葉の中で一つ気になったことがあった。


(あれ? でも、どうして今夜は無理なのかな……?)


 この後ネメかシャルのどちらかが出かけて不在にするというような話も聞いていないミノリは、今夜シャルとは一緒にいられないというネメの発言を不思議に思っていると、その疑問に対する答えをネメの方からミノリに切り出した。


「今日は私たちの誕生日。だから私たちが主役。というわけでおかあさんにお願いがある」

「私からもママにお願い」


 先程までのシャルとイチャイチャしたような雰囲気から一転、急に真面目な表情をするネメとその横で同じような面持ちになるトーイラ。

 愛する娘たちのお願いならなんでも叶えてあげたいミノリだが、その真剣な表情に一体何をお願いされるのかわからなかった為、ミノリまで思わず緊張してしまい座を改めた。


「2人のお願いだったら構わないけれど……何をお願いしたいの?」

「今日は久しぶりにおかあさんとトーイラと一緒に川の字になって寝たい」

「私もー。ネメと一緒に寝たいなー」


 一呼吸置いてからネメとトーイラの口から出てきたのはなんてことはない、娘らしいかわいいお願いだった。


「シャルとの結婚前にもその約束していたもんね。じゃあ今夜は2人とも一緒に寝ようね」

「圧倒的感謝」

「わーい!」


 ということでミノリは数ヶ月ぶりにネメとトーイラの3人で川の字で寝る事になったのであった。


(でもそんなお願いなら別にかしこまらなくてもいいような……。ほんの数ヶ月前まで一緒に寝ていたわけだし……)


 ネメたちのお願いを受け入れながらも不思議な顔をするミノリはネメとトーイラに視線を向けていた為に気がついていなかったのだが、ミノリの脇ではその光景をうらやましそうに眺めながら唇を噛みしめている存在があった。


「お姉様と一緒に寝る……うらやましい。でもここはネメお嬢様たちの親子水入らずのために我慢……」


 それは一人だけ輪の中に入れなかったシャル。昔のシャルならば「ずるい混ざりたい」などと叫びながら混ざろうとしたかもしれないが今のシャルは我慢強い良い子。

 溢れ出そうになる涙をぐっとこらえながら、シャルは親子たちの姿を眺めるのであった。



 *****



 それから暫くすると誕生日パーティーが終わり、最初にお風呂を済ませたミノリは居間でお風呂から上がったばかりのシャルと一緒にくつろいでいた。

 ちなみにネメとトーイラは久しぶりに一緒に入りたいという事で現在2人で入浴中の為、居間にいるのはミノリとシャルの2人である。


「……うーん、やっぱりどうかと思うんですよね」


 ミノリの姿を見て、シャルが何か言いたげな表情をしている。


「どうか……って、私何かした?」

「えっと……、あまり言いたくなかったんですけどお姉様のその格好ですよ……」

「格好?」


 シャルの指摘に対してミノリは湯上がり後の自分の姿を改めて眺めてみるが特に変わったことはない。 何せこれがいつもの格好だからシャルの指摘がわからずに困惑してしまったミノリは思わずシャルに尋ねてしまった。


「えっと……わからないんだけど一体何が……?」

「下着姿という事ですよ!!! 目に毒すぎます! なんでお風呂から出た後いつも下着のままなんですかお姉様!?

 ネメお嬢様もトーイラお嬢様もお風呂上がりは下着の上にシャツを着ているぐらいでパジャマ着ないですし、ネメお嬢様に至っては時々頭のローブ以外何も身にまとってない時ありますよね!?」


「へ? あー……」


 シャルの指摘でようやくミノリは気がついたのだが、シャルが口にしたように、今のミノリは下着姿なのだ。

 そしてネメは10日に1回の割合で、入浴時にローブ以外の着替えを持って行くのを忘れる。ローブだけは絶対に忘れないのは何故なのかわからない不思議な娘である。


「うーん……ちょっと前まで私、いつも着ている衣装以外着る事が出来なかったのもあって下着姿でいる事に慣れちゃったんだよね……。

 この家に住む前まではいつ誰に襲われるかわからない不安もあって水浴びした後は生乾きのままさっきまで着ていた衣装を着直していた時期もあったけれど、この家に住むようになってからはそういった不安が一気になくなったのと替えの下着もあったから服が乾くまで下着姿でいるのが当たり前になっちゃって」


 ミノリはモンスターとしての制約で数年前までは下着や羽織る物以外はデフォルトで身につけている衣装以外身につけることが出来なかった。

 それは就寝時も例外ではなくパジャマはおろかシャツすら着る事が出来なかった。デフォルトの格好のまま眠るという選択肢もあるにはあったのだが、マントも前垂れも胸当てもつけたままにするのは非常に邪魔で寝づらい。


 その結果、ミノリは基本的に寝る時は下着姿になるのが当たり前になっていた。今ではデフォルトの格好以外も出来るようになったのだが、既に下着姿で寝る習慣が身についてしまっており、パジャマを着るという発想が脳内から完全に消え失せてしまったのだ。


 そしてネメとトーイラもそんなミノリの寝姿に影響されてしまい、パジャマを着る習慣が身につかずに下着の上にシャツを着て寝るのが当たり前になってしまっている。


「ネメに関してはー……ごめん。あの子、全裸でいることに対して羞恥心しゅうちしんが何故かあんまり無くて……」


 ちなみにネメはローブを基本的に取りたがらず、寝る時は就寝時専用のものを使用しているほどのこだわりっぷりだ。どうしてローブだけは忘れないのか、そして何故そこまでローブにこだわるのか、こればかりはミノリも理由がわからない。


 シャルにそんな言い訳を伝えながらミノリは改めてシャルの姿を見直してみた。風呂上り直後のシャルは、普段は結っている髪をほどいており、ふわふわの長髪がなんともかわいらしく見える。湯上がり直後で血色も良い上パジャマも髪色に合わせたかのような淡いピンクのものを着て、さらにクッションを抱くようにしながら座っている為、かわいらしさに拍車をかけている。


 シャルもネメと結ばれるまでは普段着ている衣装でなければ具合が悪くなったそうなのだが、ネメと結ばれてからは違う服も着られるようになり、それからはいつもと違う格好をすることが多い。


 やはりおしゃれ系女子である。


(それにしてもシャルって、同性の私から見てもただのザコモンスターでくくってしまうには非常に惜しいと思えてしまうぐらいにゲームの他のメインキャラたちにも引けを取らない程の美少女なのに一部の好事家こうずか以外からは『経験値稼ぎのサンドバッグ』呼ばわりなんだよね。

 ……だけど、シャルはそういう扱いで縛られるモノが無かったからこそこうしてネメと()()()になる事ができたわけで……きっとこの今がシャルとネメの2人にとって一番幸せな世界なんだよね、きっと)


 そんな事をミノリが考えていると、トーイラとネメがお風呂から上がってきたようだ。


「ママー、お風呂あがったよー。もう寝ようよー」

「べっどまねき」

「え? 風呂上がり早々に? 早くない!?」


 なんとミノリたちが普段寝る時間よりも2時間は早い。


「えへへ……ネメとママと私の三人で久しぶりに一緒に並んで寝られると思うと嬉しくって」

「待っていられない川の字がある」

「まぁ、2人がそんなに楽しみなら……」


 いつもよりも遥かに早い2人からの就寝へのお誘いに思わず驚くミノリだったが、きっとそれだけ楽しみだったのだろう。その気持ちに応えてミノリはまだ早いかもと心の片隅で思いながらも今日は床につくことにした。


「それじゃシャル、今日はネメを借りるね。おやすみ」

「シャルぐっない」

「おやすみなさーい」


「あ、はい。皆さんおやすみなさい」


 そうシャルに就寝前の挨拶をして3人は寝室へと移動し、居間に残されたのはシャルただ一人。


「……」


 先程まで賑やかだったのにあっという間に静寂に包まれる居間。


「まだ早いけど私も寝よ……」


 少し寂しげに背中を丸めながら、シャルは自分の寝室へと一人向かうのであった。


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