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77. 12年と8ヶ月目② シャルの住処。

「シャル、そういえば……」

「なんでしょうかお姉様?」


 2人の飛行魔法練習後もまだこの場に残っていたシャルに、ミノリは一つ気になっていた事を尋ねることにした。


「シャルは来週には私たちと一緒に住むことになるけど……今住んでる所の荷物はどうするの?」

「あー……、もしお姉様たちが許可してくれるなら持ってきたいですね。

 大切な魔導書もありますし、部屋にかけてる結界魔法の効果もそろそろ切れそうで、もしも誰かに見つかっちゃったらられてしまうかも」


「うん、持ってきても問題ないよ。それだったら今日このままシャルの住処へネメとトーイラを連れて荷物を取りに行った方がいいんじゃないかな? そういう危険があるのなら早めの方がいいよ」


 ミノリは許可をすると同時に、今日にでも持ってきた方がいいのではとシャルに提案した。

 ネメとトーイラが飛行魔法を使えるようになったものの、そしてまだまだ練習したそうな雰囲気がある。

 それならば、練習がてら荷物の運搬もした方が都合がいいと判断したからだ。


「え、今日ですか? 別に構いませんけど……お姉様は来ないんですか……?」


 上目遣いでミノリの事を見るシャル。その目は一緒に来てほしいと訴えかけているようで、どこか寂しがりの犬を髣髴ほうふつとさせるような表情だ。


「いや、私飛行魔法使えないしお荷物になるだけで、ネメとトーイラで荷物を運びきれなかったらシャルは2往復する事になるよ? すっごく時間の無駄じゃ……」

「いえ!お姉様も一緒がいいです!」


 自分が行っても仕方ないのに……と思うミノリなのだが、何故かかたくなに同伴を希望するシャル。ようやく泣き終えて、横でミノリとシャルの話を聞いていた2人もシャルの意見に同調した。


「確かに持ってこれる荷物は減っちゃうけど、ママを一人にはさせたくないな私……。何かあったら不安だもの」

「森の中ひとりぼっち」

「う、うーん……2人にそこまで言われると……私も不安になってしまう……ような? ……まあいいか。みんながどうしてもと言うならいくよ。……高いところ怖いけど……さっきのよりはましだろうし……」


 ミノリたちが住んでいる森は、そもそもミノリたち以外のモンスターや人間が侵入してきたことは一度たりともない。その為、実際には不安になる要素は一つもないのだが……。実はこれ、なるべく一緒にいたいというトーイラとネメの作戦だ。


 そんな2人の不安そうな表情にほだされてしまったミノリが、一緒に行くと決めると、心の中でガッツポーズを決めたのは言うまでもない。


「まぁ、2人はひとまず練習も兼ねてるから……それじゃ、シャルの後ろに乗せてもらおうかな。お願いね、シャル」

「ひはーぅっ!? は、はい! 安全運転に努めてまいります!!」


「なに今の奇声!? ……本当に大丈夫なのシャル?」

「ごめんなさい! 大丈夫です!」


 何故か奇声をあげるシャル。過去に一度断られたミノリを後ろに乗せて空を飛ぶ夢が、ここでいきなり叶ってしまい、頭の中が喜びで一瞬オーバーヒートしてしまったらしい。


「まぁ大丈夫なら別にいいけど……あれ? そういえば宅配の時って、シャルは住んでいる所から町に寄って買い出しをしてからその荷物を持ってきてたんだよね」

「はい、そうですよ」


 ここでミノリは、そもそもシャルが今まで何処に住んでいたのかを全く把握してなかったことに気がついた。遠くだと空を飛ぶのが長時間になる。その為ミノリは、シャルの居住地を確認したくなったのだ。


「ちなみに今更だけどシャルって、……何処から私たちが住んでる所まで来ていたの?」

「えっと……イオトルハの村とイムサエゲスの村の間くらいにある洞窟の中です」

「は!? それって海の向こうだよね!?」


 シャルが挙げたのはこの大陸の北に隣接する別の大陸の村だった。まさか大陸まで違うとはミノリは思ってもみなかったようだ。


「そんな遠くからだったのなら無理して宅配請け負わなくても良かったのに……。今更だけどすごく申し訳なくなってきた……」

「いいえそんな事は! だってお姉様のためですからそれぐらいへっちゃらでしたし、それにここから飛んでいけば片道2時間ぐらいですよ!」

「遠いよ!?」


 ミノリの中では30分ぐらいなら高所を我慢しようと心に決めていた。しかしシャルの口から出たのはその4倍。さらに往復する事も考えると実に4時間もの間、空を飛ぶ事が必要な計算となる。


「……やっぱり私は行くのやめようかな……」


 空を飛ぶ前から心が折れてしまうミノリ。


「「「そんな!?」」」


 これは無理だとミノリはすぐさま辞退しようとしたのだが、どうしても一緒に来てほしいと3人に激しく懇願こんがんされてしまい、結局ミノリは、3人と共にシャルの住処まで一緒に行くことになったのであった。


 ……ある事を、心の中で密かに思いながら。




(もしかして、私って……すごくチョロい?)


誤字報告いつもありがとうございます。投稿前に何度も読み返しているはずなんですが気づかないもので助かっています。

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