73. 12年と4ヶ月目 我が家。(1章終)
夏の陽気が感じられるとある日、畑から野菜を収穫していたミノリは、ふと住んでいる家を見つめた。
転生して降り立った森の中で見つけたこの家。こんな辺鄙な場所に建っていることからただ単にご都合主義的なものかなとミノリは最初考えていたが、最近そうではないのでは、と思うようになっていた。
「私がボツキャラとして埋もれていたのと、モンスターとしての私の種族であるダークアーチャーがこの森にしか出現しないのを考えると……もしかして私がボツキャラだったのと同じように、この家もゲーム内に埋もれていたボツマップだったのかな。
そしてこのボツマップで起きるイベントで仲間になるはずだったのが私……だからこの家自体元々私の……いや、私たちの為の家だったのかも」
確かに通常のダンジョンなら普通にモンスターが配置されていてエンカウントだってするはずなのだが、この森に関してはミノリ以外のモンスターがいた事は招待されたシャルを除くと一度もなかった。
つまり、何かしらのイベント、それもミノリだけでなくネメとトーイラも関係していたイベントを用意していたのかもしれない。
しかし、今となっては全て想像の域を出ないし、永遠にその答えがわかることはない。
ただ、先程ミノリが口にした、『私たちの為の家』という可能性は十分にある。
この家に来た当初に見つけたものの着る事できなかった衣類の数々だが、ネメによってフラグを書き換えられた後で試しに来てみたらすんなりと着る事が出来たのである。
その為、これらの衣類はモンスターとしてのミノリ用にではなく、仲間キャラとしてのミノリ用に用意されていたと考えられる。
さらに、ネメとトーイラがこの家に初めて来た時に、ミノリが替えの衣類を探した際、明らかにミノリ用のサイズではなく、ネメとトーイラの為に用意されたかのようにぴったりのサイズの衣類まであったのだ。この家の近くにある洞窟の宝箱に入っていたネメとトーイラ用の水着も恐らく同じだろう。
「もしそれが当たっていたら、この家はボツになりながらも、私たちの事を待ち続けていてくれていたって事だよね……。ありがとう」
ミノリはそっと家の壁に手を当ててぽつりとお礼を言いながらもう一度家の外観を眺めていると……。
「ママどうしたのー?」
「熱中症対策必須」
娘たちが家の中から声を掛けてきた。
「あ、なんでもないよ。今入るね」
そして、そんな家にはミノリの事を待ってくれている2人の娘たち。……まぁ背丈はとっくに抜かれているのだが。
ちなみにネメはシャルをこの家に住まわせてあげたい事をまだミノリには相談していない。早く話してほしいな、と心の中で思いつつもネメから話してくれるまでミノリは待つ事に決めている。
「おかえりママ!」
「おかあさん。おかえりなさい」
家の戸を開けるとミノリを迎えてくれる2人の「おかえり」の言葉と笑顔。ミノリにとってはすっかりここが、永遠に守りたい大切な我が家となっていた。
そして、その温かい言葉に、ミノリも笑顔で応えた。
「ただいま、2人とも」
というわけで、これにてミノリさん完結です。
お読みいただき、本当にありがとうございました。
(追記)
完結としましたが、最終部分更新後になってもう少し続きを書きたい、という気持ちも出てきてしまった為、急に話が増えたりするかもしれません。




