69. 12年目 愛をこめて花束を。
「2人とも、誕生日おめでとう! そっかぁ……もう18歳になったんだね」
今日はミノリがネメとトーイラに出会い、そして親子となった日からちょうど12年目。
あんなに小さかった2人も、前世ならばもう大人の仲間入りだ。それは転生前17歳で亡くなったミノリも迎えることができなかったことなので、ミノリもまるで自分の事のように思えて喜びも一入だ。
「うん……ママもありがとう。血の繋がってない私たちをここまで育ててくれて」
「親愛の女神」
「たはは……。そう面と向かって言われるとやっぱり照れちゃうなぁ……」
「あの日、町から追い出されてモンスターに襲われた時にたまたまママが助けてくれなかったら……きっとこういう風に一緒にいられなかったんだね」
「運命を左右した一瞬の接点」
「そうだね……」
2人と出会わなかった未来は『もしも』の域を出ないため、ミノリには想像する事すら難しい。しかし、2人の存在を知らないままだったら、今のようにこの世界を色鮮やかに感じられることはなかっただろうという事だけは感じている。
「それでね……私たちからママへプレゼント!」
「2人より愛を込めて」
なんと今日が誕生日の2人の方から逆にプレゼントを差し出されてしまったミノリ。驚いたミノリが目を瞠るとそれは大きな花束だった。
大小様々に彩られた花々の中心には白い花があり、その周りを黒い花と黄色い花が囲んでいる。その色の組み合わせはどこかで……と、一瞬思ったミノリだったがすぐに自分たちの髪色だと気がついた。
「もしかしてこの花、私と2人を意識したの?」
「ママ当ったりー!」
「3人の象徴」
ミノリの両サイドにネメとトーイラ、それが3人で行動するときの基本的な立ち位置だ。それが端的に表現されているこの花束は、3人の為だけにあるといっても過言では無い。
そして中心にある白い花……、この世界の花の名前をミノリは基本的に知らないのだが、前世で非常によく似た花を知っている。
「ところでこの白い花、なんて名前なのか2人とも知ってる?」
「あれ、なんだったっけネメ?」
「未知の花」
「そっかぁ。でも綺麗なのには変わらないから大丈夫だよ」
その白い花、前世のミノリが庭の花壇で育てていたアザレアによく似ていた。
(確か白いアザレアって、『あなたに愛されて幸せ』みたいな花言葉だったような……。色でこの花にしただけで、花言葉自体この世界に無いのかもしれないけれど、2人にそう思われてるのはやっぱり嬉しいな)
ミノリが嬉しそうに花束を抱えながら、うっとりと眺めていると、トーイラとネメが残りの花についても教えてくれた。
「真ん中の花は知らないけど、こっちの黄色い花が『チャオモ』の花で、こっちの黒い花は、『アイガメ』の花だよー」
「贈呈花でおなじみらしい」
「へぇ……チャオモとアイガメの花ねぇ……。チャオモ……アイガメ……。愛ガメチャ重……」
花の名前の順番を入れ替えて読んだことを何故か後悔したくなったミノリだったが、花の名前についてはまあただの偶然だろうと結論付け、それ以上その事には触れないように、2人にお礼を述べた。
「それにしても私の為に花束用意してくれるなんて……2人とも、ありがとうね」
「えへへ……私たちね、ママが喜んでくれる事が一番嬉しいの。だから、私たちからも、ありがとうママ!」
「おかあさんの笑顔が増えるたび、私たちにも増える幸せ」
トーイラとネメもまた、この花束のように最高の笑顔をミノリに向けて咲かせていた。それは、この幸せな日々がいつまでも続きますようにという願いが込められたような、そんな満面の笑顔だった。




