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61. 11年目 これまでも、これからも。

 ミノリが2人の母親となって11年が経過し、ネメもトーイラも17歳となった。


 1年前にミノリをむしばんだ『モンスターとしての本能』も今では全く出なくなり、すっかり平穏を取り戻せたようだ。


 しかしだからといってミノリの生活に何か変化があったかといえばそんな事も無く、今日もいつも通りにミノリは家事に勤しむ。そして、ネメもトーイラもそんなミノリのお手伝い。


 仲間フラグの切り替えによって仲間キャラという扱いになったミノリは、その影響からか道行く人にもモンスターとして認識されなくなっていた。なお、それでもミノリはキテタイハの町には行きたくないらしい。


 ちなみに、既にモンスターとは呼べない状態になっているミノリに対して、シャルがそれをどう捉えるのか若干不安にもなったミノリだったが、当のシャルはあまり気にしていないようで、変わらずにミノリの元へ宅配を続けている。


一応それとなくシャルにも聞いてみたのだが……。


「確かに、お姉様はモンスターなのかそうじゃないのかよくわからなくなってしまいましたが、そんなもの私のお姉様への愛の前には些細なことですもの!! 私の『モンスターとしての本能』なんて投げ捨ててやりましたわ!

 ……まぁ投げ捨てたというのは冗談ですけど、本能をなんとしてでも抑え続けていかないと、人間であるネメお嬢様とも親しくできないじゃないですか。モンスターが人に恋をする、というのはそれぐらい強い気持ちを持ち続けないとだめなんですよ、お姉様♪」


 シャルはミノリが思った以上に心が強かったようだ。しかしそれ以上にミノリへの態度とネメへの態度。どちらも同じ愛情なのだが……ミノリへの愛情に対しては相変わらずどこかベクトルがおかしい。


(ネメに対する時は本当に恋する女の子という感じで、心の底からかわいいと思うのに、私への場合は……なんだろう、どうしてこうも残念な子に……)


 そんな風にミノリはつい思ってしまうのであった。



 *****



「……さて、準備はこれで十分かな」


 そして、今日は3人で暮らし始めてから初の遠出。この大陸の南端に位置する二つの村まで、3人で行くことになったのだ。それは、数年前に2人が眺めていた観光本に載っていた場所だ。


 ネメとトーイラは、この初の遠出が楽しみだったのか既に準備を終え、庭でミノリが出てくるのをいまかいまかと待ちわびた様子をしている。


 ちなみにシャルもその話を聞いた当初はうらやましそうにしていたが、親子3人での初めての遠出と聞くと遠慮した。アホの子扱いされていてもこういう時の空気はちゃんと読む子なのだ。


「ママ―、準備できたー?」


 嬉しそうなトーイラの声が聞こえる。


「カツマリカウモの村の栄え具合とワンヘマキアの村の寂れ具合の対比を見るのが楽しみ」


 ネメの楽しみにした声も聞こえる……その内容は兎も角。


 ようやく準備を済ませたミノリは、玄関の戸を開け、2人に向かって声をかけた。


「2人とも待たせてごめんね。もう出るよー。ただ、こんなに長期で開けるのは初めてだから少し不安だなぁ……」

「それなら大丈夫だよー。誰にも入ってこれないように防犯用の魔法も掛けたからオッケーだよー」

「最高級ほーむせきゅりてぃ」


 そういうだろうと思っていたのか、先にトーイラが手を打っていたようだ。流石である。


「それじゃママ、早く行こー」

「栄えと寂れが 我らを 待っている」

「あ、うん」


 靴を履き終えて、後は鍵を閉めるばかりとなったミノリは、ふと、我が家に向かって、誰にともなく微笑みながら一言つぶやいた。


「それじゃ行ってきます」


 ……そして静かに戸を閉め、鍵まで閉め終えると先に待っていた二人の下へと駆け出した。




──ただ、死にたくないという思いで必至に足掻いてきた、人型モンスターに転生してしまった元人間の少女。そして、町から追放されて最終的に死ぬ運命しかなかった人間の双子。出逢いは本当にただの偶然だったが、このモンスターの少女が差し伸べた手を二人が取ったその瞬間から、この奇跡のような親子関係が始まった。


 その関係に血の繋がりは勿論あるはずがない。しかしそれ以上に強い絆で結ばれ、その少女が逆に窮地に陥った時には今度は自分たちが助ける番とばかりに双子が手を差し伸べ、ともに幸せになれる道を目指し続けた3人。


 これから先にもおそらく色々なことが起きるに違いないが、きっと3人なら乗り越えられるだろう。


 そんな不思議な関係の親子がどこかのゲームの片隅で生活している。そういう世界があっても悪くないのかもしれない。

当初の本編最終回はこの話でした。

次回からは1章のおまけパートになります。

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