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59. 10年目② 模索。

 気持ちを落ち着けてから、ミノリたちは、残された時間の中で、なんとか解決策を図る事にした。

 ここで、解決しなければならないもっとも大きい要因は、ミノリがモンスターであるという事だ。


 それが起因して、『モンスターとしての本能』によって2人を襲おうとする意識に乗っ取られそうになったり、ゲームウインドウにミノリの名前を敵一覧に表示したりしているわけなので、この状態をまず解決しなければ、何も解決できない……が、そう簡単に解決策が浮かぶようなものではない事は3人も承知だ。


 しかし、もしもこれを解決することができれば、ミノリも敵一覧に示されるようなザコモンスターでは無くなり、この騒動のきっかけとなった『自分はモンスターだからいつか理性を失って本能のまま2人を襲うかもしれない。』という懸念も、ネメとトーイラが困っている『回復魔法をミノリに掛けられず、攻撃魔法が勝手にミノリにまで及ぶ。』という状態を一気に解決できるに違いない。


 その為、3人は必死になって解決策を思案している。


……なお、2人がミノリに依存しすぎている状態なのも要因の一つなのだがそれはスルーすることにした。なんだかんだミノリもこの3人での親子関係が好きなのだ。



 それはさておき、2人と出会った当初からミノリの名前が敵一覧から消えないのはおそらくこのゲーム自体に敵を仲間にするシステムがないからだろう。


(無いものねだりしても仕方ないけど、どこかのゲームみたいに起き上がって仲間になりたそうに……なんてあればすぐ解決できそうなのに……。

 あ、そういえば捕獲魔法の案をインタビューで見たなぁ……。)


 当初、このゲームにも敵を仲間にする捕獲魔法のシステムを組み込むはずだったのを思い出したミノリ。しかし、企画段階で早々にボツにしたとも当時のゲーム雑誌開発記事でのインタビューに載っていたような……。


「あの捕獲魔法がまだ残っていたらもしかしたら……いやでも流石にそれは……企画段階でボツになってたし……」


 そのミノリのつぶやきはとても小さいものだったが、それを2人は聞き逃しはしなかった。


「捕獲魔法……? つまりその魔法でお母さんを捕獲してペットにすれば監禁首輪し放題?」

「お母さんをペット扱いするのは勘弁してほしいなーネメ!」


 『捕獲』という単語に反応して、再びヤンデレ化の症状が出てきたネメ。


「そうよネメ! 私がママのペットになるもの!!!」

「トーイラも少し落ち着こうね!!? ますます意味のわからないことを言ってるから!!」


 ミノリさん残念! ネメだけでなく、トーイラもだった!


(……こ、この暴走モードに入ってしまう2人をまずなんとかしなければ自分に平穏は訪れないのでは……?)


 急に先行きが不安になるミノリであった。



 一旦呼吸を落ち着けてから、ミノリは2人に対して『ゲーム』や『ボツ』といった『ゲーム要素的な言葉』を別の言葉に言い換えて捕獲魔法について伝えた。


「それでね、その捕獲魔法はもう失われた魔法なの。だからその魔法で仲間一覧に私の名前を移す事は難しいと思うんだ」


 それを聞いても2人はまだあきらめたような表情をしていない。むしろ……。


「問題ない、失われたならまた作ればいいだけ。それに失われたって思ったものは『大抵掘り起こせば出てくる』」

「ごめんネメが何言ってるのか全然分からない」


 ゲームの世界ではあるが、ここは既にミノリにとっても現実の世界でもある。なので、新たに魔法を創造する方法もあるかもしれないが、恐らくそれは至難の業であろう。それと……。


(一体何だろう『掘り起こす』って……)


 ネメの謎の言葉についてミノリが考えていると、珍しく饒舌じょうぜつに、ネメが喋り出した。


「失われたからもう無理って簡単に諦めちゃえば、私はキテタイハの町の言い伝えのとおり、町から追放された時点で闇の者に連れ去られて今こうしてトーイラと一緒に過ごしてないし、そもそもおかあさんともこうして過ごせることはなかった。

 だから諦めなければ何かは出来る。なので、今から頭の中フル回転させる」



 言われてみればそうだ。この2人はそもそもゲーム上では決別して敵同士になっているし、今の年齢まで生きていること自体そもそもあり得ない。


 特にネメに至っては仲間になる事自体が通常ではあり得ないのに、プレイヤー側と同じと思われるゲームウインドウが見えているという事もおかしい。

 つまりネメは既にゲーム本来の流れからは逸脱した状態になっているのである。


 それは勿論ミノリも同様である。ミノリはそもそもただのザコモンスターで、ゲームならばただ機械的にプレイヤーを攻撃し、ただ倒されるだけの存在だ。


 それがこうしてその行動パターンから外れて2人を娘として育ててこの10年もの間、共に仲良く過ごしてきたのだ。


 おそらくあと一つ、『何か』を変えることが出来れば、敵として認識しているこのゲーム本来の流れというかせが外れるかもしれない。


 ……などとミノリが思っているとネメの表情に変化が現れた。なにやらぶつぶつつぶやいている……。


「8……9……A……B……C……D……E……F……0……1……」


 なにやら数字を順に連呼しているが、9の次にAがきて、Fの次に0に戻っている。つまりそれは……。


「16進数……?」


その事に気がついたミノリはポロリと独りちた。


 16進数といえば、曲名の無いサウンドテストモードがある古いゲームでよく見ることのできる、「09」の次に「10」とならずに「0A」と表示され、その後「0B」、「0C」と続き、「0F」まできてその次にようやく「10」とくらいが上がる数だ。


 そのほかによく見かける例でいえば、古いRPGではステータスの最大値になっている場合が多い『255』は『2桁の16進数の最大値FFを10進数に換算した値』だし、

『65535』も『4桁の16進数最大値FFFFを10進数に換算した値』だ。


 そして、16進数はゲームによってはサウンドテスト以外にも不具合を確認する作業時に、一時的にレベルを最大にしたり、イベント発生フラグを切り替えたりする時にも使うことがある。

 つまりそれは……。


 ミノリの頭には、『デバッグモード』という語句が浮かんできた。


(掘り起こすってそういう事か!?)


 ミノリは一人、心の中で叫んだ。


「ネメが16進数顔に……」

「……ママ、ジュウロクシンスウって何?」


 ミノリのつぶやきにトーイラが反応したが……すごく答えづらい。なんて説明すればいいんだろうかと悩んでいると……。


「5年ぐらい前、確か皆既日食があった頃からだけど、視界に入ってくる透明な板が増えた。数字と見たことのない文字や記号だけが大量に書かれた不思議な『でばっぐもーど』と書かれた板」


 やはりネメに見えていたのはフラグ管理やデータ管理を確認するためのデバッグモード用のウインドウだったようだ。そして見たことのない文字や記号とはAやBなどのアルファベットの事だろう。


 以前にミノリが思い出した順番で紙に書いた不規則に並ぶABCをネメが順番に尋ねられる事ができたのもそれが理由だ。


「この数字や文字をいじると、今までできなかったはずの事ができるようになってた。前におかあさんが襲われた時に魔法を人間相手に使えたのも、シャルやおかあさんに回復魔法をかけられたのもそれが理由。


 それまでは攻撃魔法を使おうとすると、真っ先におかあさんの方へ向かってた。畑作ったときの土魔法とか。初めて冬支度したときの植物魔法とか」


 それを言われた瞬間、ミノリはその時の記憶が蘇り、思わず叫んでしまった。


「あーーー! あれらって全部私に向かっていた攻撃魔法だったの!!?」


 また、トーイラも、


(なるほど……、男達にママが襲われた時、ネメの名前まで敵一覧に移ったのは、それをいじったことによって、ネメが私の……、いや、()()()()()()()()()()()という扱いになったから敵一覧の方に表示されていたんだ……)


 ……と、数年来の疑問がようやく解けたようだった。


「最近になって、この板が世界のことわりに干渉する危ないやつだって気づいた。だから多用はしたくないけど、おかあさんの為ならなんだってする。だから『掘り起こす』」


 そう言いきるなり、再びネメは数字や記号をぶつぶつと言い始めた。まるで脳内にチートコードを探すツールが埋め込まれてしまったかのような存在になってしまったネメである。


(……でもなんでそんな事がネメにだけ出来てしまうようになったんだろう……。あ、もしかして……)


 不思議に思うミノリだが、この世界は『ミノリたちにとって現実の世界であると同時にゲームの世界でもある』事が関係しているのだろうとミノリは考えた。


 ネメとトーイラが闇と光それぞれの使いに連れ去られた時点で、ネメの『仲間キャラとしてのフラグ』が消滅し、『敵である闇の巫女ネメの状態』に本来はなるはずだった。


 しかし、そうなる前にミノリによってネメとトーイラが保護されてしまった事がきっかけで、ゲーム本来の流れではありえない『ネメが仲間キャラとして存在したまま』の状態が起きてしまった。


 それでもまだ『闇の巫女ネメ』になる可能性はあった。それが皆既日食の際に暴走状態になったネメだ。

 しかし、それもミノリたちによって阻止された事で『ネメが仲間キャラとして存在したまま』の状態が継続してしまい、それが引き金となり、とうとうゲームの世界側に『バグ』という形で表出した。


 そしてそのバグが、この世界の根幹ともいえる『デバッグやフラグ管理関係のウインドウ』を、ネメの視界に『バグで表示させてしまった』のではないか、と。


 推測の域を出ないが、ミノリはそう結論付けた。



 それから数分後、探し終えたのかネメは悲しそうな顔でミノリの方を見ながらつぶやいた。


「……だめ、捕獲魔法見つからなかった」


 一縷いちるの望みが絶たれたような表情をしたネメとトーイラだったが、それも仕方ない。捕獲魔法はそもそも、企画段階でボツになったのである。その段階でボツになったものは流石にゲームシステム内に組み込まれるはずがない。


 落ち込む2人の頭をミノリはぽんぽんと優しく叩き、声を掛けようとした。……が、ふと、ミノリの今の姿であるこのモンスターで、ある事を思い出した。それは……。




 このモンスターは当初は仲間キャラ候補として作られていたはずである、と。




 確かに、企画段階でボツになったのならゲームデータにはその片鱗すら残らないだろうが、ミノリは明らかに流用されたものだ。つまり、『一度データを作成してからボツにした』と考えた方が強い。



 もし、ミノリをボツにしたのがゲーム内で一度形にしてからだとしたら?


 ある程度形にした段階からボツにしたデータを、そのまま消してしまうと何処でゲーム内のデータにほころび……つまりバグが発生するかわからないからそのリスクを避ける為に、『通常のゲームプレイ時には絶対に出ないようにただフラグをいじっただけ』だとしたら?


 その可能性は既にネメが証明している。ネメも仲間キャラとしてはボツキャラなのだ。


 絶たれたはずの望みが再び繋がったかのようにミノリは感じた。

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