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53. 8年と1週間目 褐色耳長臍出し女神様。

「ん、なんだろあれ……?」


 先日の事件から一週間経ち、そろそろ狩りをしても大丈夫だろうと、ネメとトーイラを連れて森の外に出たミノリ。


 周囲は先日ネメが、男達に向かって放った数々の魔法によって大きく地面がえぐり取られていたままだったが、それにも関わらず、食用に向いているモンスターが今日はわんさかと湧いており、絶好の狩り日和だ。


 早速獲物の狙いを定めようとミノリが周囲を見回していると、前回狩りをしに来た時には無かったはずのほこらのようなものがあるのに気がついた。


「ねぇ、ネメ、トーイラ。あそこにあんなほこらみたいなの、あったっけ?」


 もしかしたら、2人は気づいていたかもしれない、念のためミノリは確認を取るが……。


「知らないよー」

「謎の一夜城」


 その反応からするに、どうやら前回の狩りから今日までの間に造られていたらしい。


「気になるから、ちょっと行ってみてもいいかな?」

「私も行くー」

「お供」


 そしてほこらの近くまでやってきた3人だったが、先客がほこらの前で正座をしているのに気がついてしまった。


「しまった。誰かいる……」


 慌てて引き返そうとするミノリなのだったが、その先客にミノリは見覚えがあった。その人物はミノリが転生してきたばかりの頃、ヤワニクウルフに襲われていた老婆であった。


 あの日から8年以上経過しているのだが未だに存命だったようである。


 一体こんなところで何をしているのだろうと、つい、足を止めてしまったミノリ。するとその老婆は、大地にひれ伏したかと思うと、突然叫びだした。


「あぁぁあ~! ナンジャラモンジャラ怒りをお鎮め下さいませ褐色耳長(へそ)出し女神様!」

「誰が褐色耳長(へそ)出し女神様だ!」


褐色で、耳長で、(へそ)を出している……女神の神部分は置いておくとして、女。そして、森近く。そんな身体的特徴を持っている者は、この周辺では明らかにミノリしかおらず、思わずツッコんでしまったミノリ。


 そのミノリの声に反応して顔を上げた老婆はというと……。


「褐色耳長(へそ)出し女神様!褐色耳長(へそ)出し女神様が顕現けんげんなされた!! ありがたやありがたや……」


 ……ミノリを見るなり拝みだした。しかし……。


「ひいゃああ!!! 女神様が光と闇の巫女を引き連れて顕現けんげんなされた!! 女神様はお怒りじゃ! 世界は滅びますぞ! 滅びますぞ!!」


 ミノリの後ろにいたネメとトーイラを見て、再び地面にひれ伏しだした。キテタイハの町で忌み嫌われる双子、光と闇の巫女。その双子を引き連れて女神が現れたという事は、キテタイハの町の住民であろうこの老婆にとっては、世界の終焉がやってきたといっても過言ではないのだろう。


 しかし、一方のミノリたちはというと……。


(どうしろってんだこれ……)


 その老婆の姿を見て、ただただ呆然と立ち尽くすしかない。

 暫くすると、老婆はミノリたちが尋ねてもいないのに、いきなり自分語りを始めた。


「あれは今から8年前、わしはモンスターに襲われて腰を抜かしてしまったのじゃ。すると、どこからともなく光り輝く矢でモンスターを貫く女神様が現れたんじゃ。姿こそは、モンスターそのものじゃったから、わしもつい逃げてしまったのじゃが、わしは気づいてしまった。

 あれこそがモンスターの姿を借りてこの醜くも美しい世界に降臨なされた女神、褐色耳長(へそ)出し女神様じゃと」


(いやこれホントどうしよう……)


 ミノリが、当惑しながらその老婆を見ていると……。


「ママが女神なのは周知の事実すぎる!」

「おかあさんは 世界を 救う」


(しまった! 何故かネメとトーイラまでこの老婆の世迷い言に納得している!)


「そんな女神様に対して町の連中は駆除をしようなどという罰当たりなことをしおって結果的には女神様を怒らせてしまった! だからわしは反対したんじゃ! あれはモンスターでは無く、女神様じゃと!! モンスターなら人を襲って、同じモンスターを襲うはずがないと!」


(……いや、まぁこの姿になる前は人間だったんで人を襲うのは無理だし、モンスターを狩ってたのもただ食欲を満たすためだけなんだけど……。)


 規模が大きくなっていく老婆の話をさらに当惑しながら聞くしかないミノリ。どうしてこうなった。


「そこでわしは、女神様の怒りをしずめるために、ここにほこらを建て、褐色耳長(へそ)出し女神様として、ここに奉ることにしたのじゃ!」


 ……自分の思い知らないところで、自分を神としてあがめる妖しい宗教が爆誕してしまった。それが他人の話なら笑い話として聞き流せばいいだけだったのだが、あがめられているのはミノリ本人だ。


(だれかなんとかして……)


 すっかり目が死んでいるミノリ。


 そのミノリの表情を見て流石に『これ以上いけない』と悟ったのか、ネメとトーイラが老婆にやめるようお願いした。

 その結果、渋々ながらも老婆は承諾し、あっという間にほこらを解体してしまった。


「しかし、このご神体だけは家で大切に奉らせていただきますぞ!」


 そう言いながら去っていった老婆の手には……一体どうやって作ったのだろうか……精巧に作られたミノリの姿をしたフィギュア。

 そのあまりの出来映えに、ミノリが完全に真っ白になる一方で……。


「ママ!! あれほしい!」

「おかあさんマニア垂涎の一品!!! いい仕事してる!!」


 老婆が立ち去った後も、しきりにミノリフィギュアが欲しい欲しいと騒ぎ立て、ミノリをさらに困惑させるネメとトーイラなのであった。



 何故か既にドッと疲れが出ている、そんなミノリではあるが……。


「ただ、私を駆除しようという動きの中で、反対してくれた人……いたんだ」


 その事実だけは、心の底から嬉しかったミノリだった。



 *****



「……という事があったんだよね。そんな事されても困るというか……」

 後日、ミノリはネメと一緒にシャルから宅配を受け取りに行った際、笑い話程度にこの話をしたところ……。


「その手があったか!!! よし、私がお姉様をたてまつほこらを再建立しますよ!!」

「シャル名案。おかあさんは女神だからやっぱり必要」


 ミノリの話を聞いたシャルが、ならば自分が建てると騒ぎ立てたのだ。そしてそのシャルにネメまで意気投合。


「2人ともやめて!!?」


 あの告白の後、すっかり仲が良くなっている2人にミノリはさらに当惑させられてしまうのであった。

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