48. 7年と3ヶ月目 年相応に必要なもの。
「……ママ、お願いがあるの」
「んー? どうしたのトーイラ?」
トーイラがミノリにおねだりをしてきたのだが、もじもじとどこか恥ずかしそうにしていてなかなか言えずにいる。それを不思議に思うミノリだったが、覚悟を決めたらしいトーイラが口を開いた。
「えっと……服着てると動いたり、こすれたりして痛いから……上につける下着欲しい……」
トーイラはそう言いながら顔を少し下げ、自身の体のある部分に視線を向けた。
「あー……そうだよね、もうトーイラもとっくに必要な年だったよね。……ごめんね、気づくのが遅かったかも」
トーイラの視線の先にあるものが胸元だったのでミノリも合点がいった。トーイラは既に13歳。体つきもどんどん大人の女性らしく成長しているので胸部用の下着、つまりブラジャーが必要になっているのも当然のことだった。
「急いで作るから、ちょっと寝室でサイズ測ろうか」
「うん」
いくら3人しかいないとはいえ、いきなりリビングで測られるのは恥ずかしいだろうと考えたミノリは、サイズを測るためにトーイラを寝室に連れていった。
*****
「それじゃサイズ測るから上着を捲ってくれる?」
「ん……」
恥ずかしそうにしながらトーイラは上着を捲ると、てきぱきとサイズを測るミノリ。
「んーと、大きさはー……あれ、トップもアンダーも私とほぼ一緒だ……」
今のトーイラのサイズは、たまたまミノリと大体同じだったようで、ミノリが使っているものもそのまま流用できそうだった。
「トーイラのブラジャーはちゃんと新しく作るけど、サイズが私と一緒だから作り終えるまでの間、私のでつけ方練習する? まぁ下着ではあまりやりたくないと思うけど……」
練習とはいえ他人のを使うのは生理的にどうかなぁ……なんて思いながらミノリは尋ねたが、トーイラから返ってきたのは予想外の答えだった。
「うーん、別にママのは嫌じゃないけど、ママの下着は別の用途に使いたくなっちゃうから我慢する」
「何!? 別の用途って何!?」
突然トーイラがとんでもない発言をぶっこんできたので思わず動転するミノリ。
しかし当のトーイラというと、おっと失言だったとばかりに黙秘権を行使し続けた為、用途については結局ミノリにはわからずじまい。その為、今のトーイラの発言については大人の対応で聞かなかった事にしたミノリなのであった。
「それじゃママ、お願いねー」
「うん、わかったー。……あ、ネメのも作った方がいいかな」
サイズを測り終えたトーイラが寝室を出ていくと、ミノリは次にネメのサイズも測る事にした。トーイラが13歳なら双子のネメも13歳。本人は特に気にしていない様子だがトーイラと同様にブラジャーが必要な年なのには変わらない。
ミノリは本を読んでいたネメに寝室から声を掛けた。
「ネメ―、次にネメのも測るからこっちに来てー」
「合点承知」
ミノリの呼び掛けに応じ、すぐさま寝室へとやってきたネメ。そしてネメはミノリが上着を捲ってと伝えるよりも先に、全く恥ずかしがる素振りも無いままに『シュポンッ』という効果音が聞こえてきそうな勢いで服を脱いでしまった。
そんなネメの突拍子のない行動はミノリですらも予想外だったようで目が点になっている。
「あ、あのねネメ、上着は捲るだけで良かったんだよ……?」
「なんと」
冗談でやっている可能性を少し疑ってしまいそうになるミノリだが、ネメ自身がミノリの言葉に驚いた顔をしている。……どうやら素でやってしまったようだ。
それはそれとしてネメのサイズを測ると、トーイラよりも小さいものの、やはりネメにも必要だったとミノリは判断し、2人分のブラジャーを作る事にしたのであった。
「それじゃ2人とも、明日までには作るから待っててね」
「はーい」
「ほい」
*****
ミノリはその夜、2人が先に眠ったのを確認してから1人、リビングで2人用のブラジャーを作り始めた。
(そういえばゲーム上の15歳時点でのキャラクターデザインは、2人ともあんまり栄養が足りてなかったのか13歳である今よりも胸囲だけでなく身長からして小さかったような……。それを考えると、私の元で健康的に育ってるってことだよね。
ただ、ブラジャーは前世の私ですら、もっと小さい時には既につけてたから2人にもそれぐらいから作っておくべきだったなぁ……失敗した。)
今のところ2人の成長具合から育児が順調だと感じて自分を褒めたくなる一方、ブラジャーについて気づくのが遅くなった事で2人に申し訳ない気持ちでいっぱいになるミノリ。
そして、ミノリにはそれとは別に複雑な心境になってしまう事があった。それは、自身の胸囲との比較だ。現時点で胸囲がミノリとほぼ同じサイズのトーイラはあと1年もすればミノリよりも胸囲だけでなく、身長も大きくなるだろう。
そしてまだミノリより小さいネメも確実に数年後にはトーイラと同様にミノリよりも大きくなるだろうという謎の確信めいたものがあった。
一方、7年前から身長体重胸囲の全てが変わらないミノリ。体重が変化しないのはありがたい事ではあるのだが……。
「……いいもん、わたし成長しない体だもん」
珍しく子供のように拗ねてしまいたい気分になったミノリなのであった。




