44. 6年目 大掃除。
「あー……もう荷物がいっぱいになってきたね。どうしようかな……」
ミノリがそうつぶやきながら見ていたのは家の収納スペース。3人で暮らす日々が6年にもなると、流石に空きスペースが少なくなってきていたのだ。
「これは不要品の処分考えたりしないとダメかも」
というわけで、今日は家中の大掃除をしようと意気込んだミノリは早速取りかかったのだったが……。
「…………私には無理だったよ」
先程意気込んだばかりのミノリは一転、即堕ち2コマ漫画2コマ目みたいな顔をしている。そんなミノリの手には、ネメとトーイラを引き取ったばかりの頃に2人が着ていた衣類。
流石に今では小さすぎてネメもトーイラも着ることは出来ないので不要品になるのだが、どうしてもミノリには捨てることが出来なかった。
「……本当に2人とも大きくなったんだね」
転生前の世界基準ならネメとトーイラは小学校入学から卒業するぐらいにまで成長している。その分の思い出が蘇ってきてしまい、ミノリにはどうしても自分の判断で捨てる事ができなかったのだ。
「多分これがゴミ屋敷になる原因なんだろうけど……、私に捨てるのはできないよ」
流石にカビが生えていたり、ボロボロになっていたりした服は処分する判断ができたものの、こればかりは自分では無理だと判断したミノリ。結局、2人が着ていた服はそれぞれにお願いすることにした。
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「……というわけで2人とも、今日は大掃除をするよ。2人はいらない服をこっちにまとめて置いてね。あとで雑巾にするから」
「わかったー」
「ほいきたさっさ」
そう答えると2人は次々に服を選別し始めた。やはり2人に任せて正解だったようだ。
「それじゃ私は残りの服を……」
残った服は元からこの家に残されていたネメやトーイラにはサイズが合わない服たちだ。ミノリはデフォルト以外の衣服を着ることができないし、2人を引き取った時点よりもさらに小さい服などもある。
それらは明らかに不要なものだがミノリのサイズに合う服はもしかしたらいつか着られる日が来るかもしれないと考えて残すことに決め、小さい服も将来ネメとトーイラに子供ができたときに使うかもなどと考えてしまって捨てることのできない、片付けられない女ミノリ。
「あと『あれ』もいっそこの機会に……やめよう。迂闊に捨てて……何か起きたらと思うと……」
ミノリが口にした『あれ』とはスク水の事である。今のデフォルト以外の服はどれも着ることが出来ない中で何故か唯一着ることが出来てしまうある意味ミノリにとっては恐怖の対象だ。
この機会にスク水も処分しようと一瞬思ったのだが、何度捨ててもいつの間にか衣装棚に舞い戻ってきそうな雰囲気を感じ、ミノリは見なかったことにしてそのままスク水を衣装棚の奥へと追いやった。
すっかり呪いの品扱いである。
結局衣服の処分に関してはすっかり断念してしまったミノリは、部屋を移動して衣類以外の片付けを始めるのであった。
それから1時間ほど経った頃だろうか。
「ママー、終わったよー」
「思い出との決別戦、終戦」
トーイラとネメの声を聞いたミノリが2人の元へ行くと、いらない服の選別が終わったようで、こんもりと服が盛ってある。
「うわぁ、こんなにいっぱい。やっぱり2人に任せて正解だったね。……あれ?」
その量に驚いたミノリだったが、小さな服がそれぞれ1着ずつ残されているのにミノリは気がついた。
「あれ、この服は捨てないの?明らかに2人には小さいけど……」
ミノリが尋ねると、2人が反論した。
「それはだめー!ママが初めて作ってくれた服だもん!」
「永久なる記念品」
その2人の言葉で、その服はミノリが初めてネメとトーイラに作った服だったことを思い出した。2人にとって、その服だけは明らかにサイズが小さくてもう着ることのできないものであっても、かけがえのない一品だから残しておきたかったらしい。
2人がそう思ってくれていた事に思わず頬が緩むミノリだが、まだ片づけは終わっていない。
「それじゃ、あとは私と一緒に大掃除、手伝ってくれるかな?」
「いいよー」
「おおせのままに」
そしてミノリたちは大掃除の残りを再開するのであった。
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「はぁー……やっと終わったぁ……」
その後、家中の片付けを終えたミノリは、2人に先にお風呂に入ってもらう事にして、自身はリビングの椅子に腰を掛けて一息ついている。
ふと視線を前に向けると、すっかり日常に溶け込んでいる壁に貼られた2枚の絵がミノリの視界に入った。それは2人が7歳になった時にミノリにくれた2枚の絵。時々、2人には恥ずかしいからもう外してほしいと言われるのだが、決してミノリは外そうとはしなかった。
その2枚の絵も貼った時と比べると、子供らしい字で黒く書かれた『ママだいすき』『おかあさん最高』の文字以外は少し色あせてきている。
「……あの絵をもらったのももう5年も前になるのかぁ……。昨日の事のように思い出されるけど、もうそんなに経つんだね。本当に2人とも大きくなったなぁ……」
ミノリは、一人静かに 顔を綻ばせるのだった。




