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37. 3年と10ヶ月目 3人の写真。

「あ、そういえばこれ見て下さいお姉様!やっと入手したんですよー」


 いつものようにシャルから宅配を受け取りに行ったミノリたちは、シャルからある物を見せられた。それは、ミノリも前世で見たことのある形状のものだった。


「カメラ?」


 ミノリはスマホ世代なので実際に使った事が無く、家族の私物を見たことがあるぐらいだったがそれはまさしくカメラだった。そういえばこのゲームのアイテムにもそんなものがあった気がする。


「カメラじゃなくて写真器ですよー。この穴から覗き込んで撮りたい場面でボタンを押すと紙の上に景色を写せるんですよ」


 ミノリの『カメラ』発言を否定したシャルは『写真器』だと答え、それがどういうものなのか説明し始めた。内部が機械というわけでも、フィルムを使うわけでもなく、魔法によって紙に今を焼き付ける仕組みなので、写真『機』ではなく写真『器』。

 そしてゲーム内でも『カメラ』という呼称は出てこなかったので、『カメラではない』といわれるのもまあそれもそうかとミノリは納得した。


「それでですねー……、実はお姉様にお願いしたいことがあって……」


 そう言いながらミノリにおねだりするかのように上目遣いでチラチラとみてくるシャル。あまりにもあざとい仕種しぐさだったが、見た目だけは美少女のカテゴリに余裕で入るシャル。それ故にそんな表情をされてしまうとミノリでも断るのを躊躇ためらってしまう。


「まぁ、余程の事じゃなければいいけど……、何をお願いしたいの?」


 なんとなく予想はできるが、ひとまず確認をする事に。


「お姉様の写真を1枚撮らせて下さい!!」


 ミノリの予想通りのお願いをして、頭を下げたシャルだったが、頭を下げたと同時にシャルの服から紙が1枚はらりと舞い落ちた。


「ん、何か落ちたよ?」

「あ゛っ!?」


 美少女らしからぬ声をシャルが上げたが気にせずミノリがそれを拾い上げると……。


「…………」


 ミノリは沈黙した。


「…………」


 シャルも沈黙し、気まずそうに眼を横に反らしている。


 その紙にはシャルが撮影したものであろうかミノリが弓を構えた凛々しい姿が映っていた。しかしおかしい。何せミノリは先程初めてシャルが写真器を入手した事を聞かされたばかりで、写真を撮らせてほしい事もさっき言われたばかりだ。

 なのでこれは全くミノリには身に覚えのない写真なのだ。それはつまり……。


「……それではシャルさん。この写真について釈明があればどうぞ」

「ごめんなさいお姉様!お姉様の姿をいつまでも肌身離さず持っていたいあまりについ先撮りしてしまいました!」


 盗撮である。


「ピンク……」

「それはどうかと思うなぁー流石に……」


 ネメとトーイラまでもがシャルを白い目で見てしまっている。


「まぁ……こういう写真なら先に一言言ってくれたら別に構わないから」


 流石に下着姿や全裸の写真だったら滅多に怒らないミノリでも怒髪天だったが、この写真にはそういうよこしまなものは感じられず、ただ憧れだけを強く感じたのでミノリはシャルを深くとがめるようなことはしなかった。


「まあ、撮られた代償にというわけじゃないけど、私とネメとトーイラが3人で写ってる写真も撮ってほしいなぁ。シャル、お願いしてもいい?」

「は、はいお姉様!」


 後ろめたいものが解消されたからか、ミノリのお願いを目を輝かせながらすぐさま承諾するシャル。もしシャルに犬の尻尾がついていたら、先程までおびえて尻尾が股の間に入っていたものが一転、引きちぎれんばかりに振り回しているだろうというのがわかるほどの変わりようである。


「それじゃ、どんな感じに撮ってもらおうか?」

「ママが真ん中がいいなー。それで手を繋いでほしいな」

「おかあさんサンド。あと私も手繋ぐ」


 そう答えた2人は、既にミノリの両サイドを陣取っている。ミノリの左側にネメ、右側にトーイラ。2人の立ち位置はこのポジションで固定されてきているようだ。

 そして、ミノリがネメとトーイラそれぞれの手を繋いで準備完了。ミノリはシャルに呼び掛けた。


「シャルー、これでいいよー」

「それじゃ、3人とも動かないでくださいねー。……はい、撮りましたよー!」


 そうファインダーを覗き込みながらシャルがシャッターを切るとすぐに紙が写真器から排出された。


「はい、お姉様どうぞ。これが撮れた写真ですよ。3人分撮りましたので皆さんで分けてください」

「ありがとうシャル。こんな風になるんだね」


 出来上がった写真は、転生前の世界のものと遜色そんしょくない出来栄えでネメとトーイラもその写真に満足したようだ。


「……それじゃそろそろ帰ろうか。シャルまたね。……ってあれ?」


 宅配だけでなく写真も受け取る事ができたので、そろそろミノリはシャルに別れを告げて家に戻ろうとしたのだが、いつもならばミノリの傍にいるはずのネメとトーイラがなにやらシャルとまだ話をしているようだが、小声で話しているためミノリには何を話しているのかは聞こえていない。


「2人がシャルと話してるの珍しいなぁ……。もしかして、少しはネメとトーイラもシャルに対して心を開いてくれたのかな?」


 などとミノリは考えたのだが……。


「ピンク。あとでさっきのおね……おかあさんの紙を1枚」

「私も欲しいなー」

「は、はい!お二人とも!喜んで複製しますんで!」


 強請ゆすられていた。しかし、そんな状況になっているとは夢にも思わず、ミノリはただニコニコとその光景を眺めているのであった。



 ******



「さて、この写真どこに飾ろうかな……」


 家に着いたミノリはもらった写真を早速飾ることにした。しかし壁には既に居間には2人が描いてくれた2枚の絵が貼ってある為、これ以上貼るのはなんとなく避けたい。

 また、写真立てに飾るという方法も考えたが、ミノリは写真立てを持っておらず、これから作るというのも若干手間だ。


「うーん……。いや、この写真は飾らないでお守りとして大切に持っていよう」


 そうつぶやくと、ミノリはマントの内ポケットに写真をしまいこんだ。ミノリにはネメとトーイラが本来ならば死んでしまう運命にある15歳を乗り越え、無事に16歳を迎えてほしいという願いがある。その為、何か大変な目に遭ったとしてもこの写真を見たら頑張れる、ミノリはそう考えたのだ。


「2人が無事16歳を迎えるまであと6年と2ヶ月ちょっと……。まだまだ先は長いけど、頑張るからね」


 ミノリは改めて決意するのであった。

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