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36. 3年と3ヶ月目 肩越しの夕日、同じ高さの影法師。

 茜雲が浮かぶ夕暮れ時、いつもよりも遅い時間であるがミノリとトーイラは森を抜けて狩り場にやってきた。ネメが不在なのはミノリに代わって今日はご飯を作りたいと提案したからで、ただいま家で晩ごはんを作りながらお留守番。


「それじゃトーイラはあっちの方で食べられるモンスター探して狩ってね。私はこっちを探すから」

「はーい!」 


「……さて、今日は何がいるかな……。あ、ビミナルラビット!」


 二手に分かれてからミノリが辺りを見回すと、珍しくビミナルラビットを発見した。ミノリはそれに気づくとすぐさま弓を構え、矢を射った。ビミナルラビットもミノリの存在に気がついたようだったが、時すでに遅し、あっという間に弓の餌食となった。


「よーし、成功」


 ミノリが一息つくと、ほぼ同タイミングでトーイラも狩りができたようでミノリに向かって手を振っている。


「ママ―! ヤワニクウルフ狩れたよー!」

「わぁ、相変わらず手際がいいね、トーイラ」


 ミノリに褒められたトーイラはとても嬉しそうにニカッと笑っている。


(それにしてもトーイラもネメも最近は攻撃魔法を使わずに体術だけでモンスターを狩っている事が多いんだよねぇ。何か訓練でもしているのかな?)


 ゲームでは魔法専門の典型的な後衛タイプである2人が攻撃魔法を使わずに体術だけでモンスターを狩れるようにしているのは、同じモンスターであるミノリにまで攻撃魔法が及ぶリスクを避けるためなのだが、当のミノリはその事実を未だに知らない。


「さてと、それじゃネメがおうちで待っているから、早く帰ろうか」

「うん、帰ろー!」


 ミノリに対して元気よく返事をしたトーイラは、ミノリと並んで歩きたいのか先に行かず、ミノリが自分の隣の位置まで来るのを待っている。そんなトーイラの金色こんじきの髪は、肩越しの夕日に照らされていつも以上に神々しく輝いていた。


(本当に『光の巫女』になるはずだった子なんだなぁ……。惚れ惚れするほどに綺麗……)


 それはトーイラがまだ9歳の少女で同性であるにも関わらず、ミノリも思わず息を呑んでしまう程に美しい姿だった。ちなみにミノリはネメが月灯りに照らされていた場合も同じ反応をするので、結局のところただの親バカである。


 ヤワニクウルフはトーイラが持つのには難しい大きさだった為、代わりにミノリがそれを担ぎ、一方ミノリが狩ったビミナルラビットはトーイラが持つ事にして、それぞれの空いている手を繋ぎながら夕日に照らされた丘を森に向かって歩き始めた。


 そんな時、ミノリはふと後ろを振り返ると、そこにはミノリとトーイラの影法師が仲良さげに並んでいるのが見えた。段々とトーイラも成長してきているが、まだまだミノリよりも小さい。


 ミノリが2人で並んだ影を見ているのに気がついたトーイラはというと……。


「あ、ママ動かないでね」


 そう言うなり、ミノリから手を離したトーイラは少しだけミノリの後ろへ下がり、自分の影がミノリの影と同じ高さになる位置で立ち止まった。


「私、すぐママよりおっきくなって、ママをいっぱい楽させてあげるからね!」


 自分に幸せをくれたミノリへの恩返しという事だろうか、その言葉には絶対にそうするという強い意思が込められているようにミノリは感じた。


(本当にトーイラもネメもどちらも母親想いのよい子に育ってくれてるなぁ……おや?)


 感激しているミノリだったが、トーイラが不思議な挙動をしているのに気がついた。

 ミノリの影のほっぺ部分ににトーイラの影の口部分がくっつくように調節しているように見える。どうやら、影だけでもミノリのほっぺにキスをしたいらしく、チラチラと確認しながら体を動かしている。


「なにしてるのトーイラ?」


 ミノリがその事に気がついた上で、わざと頭を動かすと、


「あー、ママ動かないでよー!」


 ほっぺをプクーっと膨らませて不満そうにするトーイラ。


「あはは、ごめんねトーイラ。ほら、早く帰ろ。ネメが待ってるよ」


 影越しだけどほっぺにキスなんてかわいいことしてくれるなぁ、と思わずトーイラがキスをしてくれた大体の位置をにんまりとしながらつい触ってしまうミノリ。

 そして、再びお互いの空いている手を繋ぎ、ネメが待っている家路へと急ぐのであった。

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