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34. 2年と8ヶ月目 弓使いに憧れて。

「おかあさん、お願いがある」


 最近はおねえさんと言い間違える事があまり無くなってきたネメが、ミノリにお願いをしてきた。それも真剣な表情で。


「ん?どうしたの?」

「お母さんの弓を使わせてほしい」

「弓を?」


 予想外のお願いに内心驚いてしまうミノリ。ネメは多種多様な魔法を使いこなせるからてっきり魔法一筋かと思っていたのだ。まぁ試しになら使わせても……と思うミノリだったが、ネメに使わせた場合、問題が起きる可能性があることを思い出し、躊躇ちゅうちょしてしまう。


「うーん……。私のは矢がちょっと特殊で……」


 ミノリの現在の姿でもあるこのモンスターの特性である『いくら射っても矢が無くならない』が、ネメにも適用されるか不明だったのだ。弓はともかく、矢もミノリのものを使わせた場合、ミノリの特性から外れてしまい、射った途端に矢がくなってしまう可能性が有り得ると判断したのだ。


 くなって元の本数に戻らなかった場合、今後の狩りに影響が出てしまう事も十分に予想される。その為、真剣に考えなければならない。


「ネメは魔法の才能がかなりあるから弓を使う必要は無いと思うけど……どうして使ってみたいの?」


 まずはネメがどうして弓を使ってみたいのかミノリは確認する事に。


「お母さんみたいに弓を使うの、とってもかっこよくて、私もお母さんみたいな弓使いになりたいって思った」


 おそらく魔法を使わず弓を使って正確にモンスターを狩っていくミノリに、ある種のあこがれを抱いたのだろう。愛娘まなむすめにそう思われるのは悪い気がしなかったミノリは、ネメの希望を叶えてあげたいと思い、妥協案をネメに示した。


「それじゃ、新しくネメ用に弓矢を準備するからそれを試しに使ってみて。使いこなせたらそのまま使ってもいいから」

「承諾」


 そしてその日、たまたまシャルが宅配に来る日だったので受取に行った際、次回の宅配時に弓矢もお願いすることに。……ちなみに、ミノリから弓矢の調達をお願いされたシャルはというと……。


「えぇ! お姉様!つまりそそれは、その新しい弓矢で私のハートを狙い撃ちって事ですよね!? むねきゅん……」


 ……相変わらず人の話を聞く気がなかったので、適当に流したミノリだった。


 ちなみに、ネメだけでは不公平なので、トーイラにも弓矢がほしいか尋ねたのだが珍しくトーイラは遠慮した。


「弓はママが使う姿がとてもきれいだから、自分で使うんじゃなくて弓を射つママの姿を見ていたいなー」


 そのトーイラの正直な感想に、表情には出さないようにしながらもついつい照れてしまうミノリなのであった。

 それから次の宅配日、ネメとトーイラを伴って森の外まで来たミノリは、既に待機していたシャルからいつもお願いしている日用品に加えて、弓矢を受け取ると早速ネメに渡して使わせることに。


「それじゃ試しに、あそこの木を狙ってみて」

「了解」


 そう答えながら、木の方を向くと早速射つ仕草を開始したネメ。それを黙って見つめるミノリとトーイラ、……そしてシャル。


「……シャル、もう帰ってもいいんだよ?」

「そんなァお姉様冷たい!! でもその冷たさが逆に私を悩ませるの……」


 シャルは相変わらずの平常運転だったので、スルーすることにしたミノリ。


 一方、ネメは真剣な表情で弓を構えている。そして……手を放して射った。しかし、その矢は狙った枝を大きく外れてどこかへと飛んで行ってしまった。


「むぅ……、これは要練習」


 一発で当たれば弓の才能もあると思うのだが、流石にそれは無かったようでネメは少し不服そう。ちなみにミノリの場合は、自身の特性上、実は目をつぶっていようとも狙いを外さずに当てることができたりする。


「ドンマイ、ネメ」

「うん、最初はそんなものだから、これから練習していけば大丈夫だよ。ネメ」


 トーイラが、ネメの背中をぽんぽんと叩く。ミノリもネメをフォロー。


「むぅ。わかった」


 頑張って射てるようになろう、という決心をしたのか小さく片手を握るネメ。……ちなみにその横では……。


「あんな感じにお姉様が、愛の矢で私のハートを射貫いてくれたら……。うひひ……」


 相変わらず体をくねくねとさせて気持ちの悪いシャルがいた。


(誰かこれなんとかしてくれ……。)


 思わずミノリが白い目をシャルに向けていると……、突如ネメがシャルに向かって矢を射った。


「うるさいピンク」


 ネメの射った矢は、シャルの顔をかすめて近くの木に刺さった。その突然の行動に思わず驚いてしまうミノリ。


「ちょっ!……ネメ、何やってるの!?」


 明らかに顔面蒼白になっているシャルと納得顔をしたネメ、そして惜しいなあという顔をしたトーイラ。


「むぅ、やはり腹立つ標的があると狙いやすい」

「残念だったねーネメ」


 いくらシャルが嫌いだからとは言え流石にそれはやってはいけない事だ。さらにトーイラまで同調している。これは叱らないとダメと即座に判断するやいなや、ミノリは2人に対して雷を落とした。


「こ……、コラーー!!! 2人ともそこに座りなさい!!! そしてシャルに謝りなさい!!」


 その日、ミノリは2人の親になってから初めて2人を叱りつけ、結果的に僅か一日でミノリはネメへ弓使用禁止令を出し、弓使いネメの夢はここでついえたのであった。



「……怒ったママ……、すごく怖かった……」

「おかあさんの すごい 柳眉りゅうび逆立さかだち……」


 いつも優しいミノリが怒るとすごく怖い。その事実がわかった2人はこれから先、二度とミノリを決して怒らせてはならないと心に誓うのであった。

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