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32. 2年目 新しい服。

 ミノリが転生してきてから月日は流れて早2年目となり、ネメとトーイラも今では8歳になった。

 2人とも現在成長期まっただ中で、家に置いてあった服のサイズも段々と小さくなってきていた。ちなみにミノリの体は、幼児体型気味ではあるものの、成長期は既に過ぎているのか今着ている衣装がそのまま着られるので今回は対象外だ。なおこの衣装、今のところ破れたり壊れたりする様子がない。頑丈さだけが取柄である。


「2人に新しく服を準備しなくちゃ……」


 流石にサイズがぴちぴちの服を2人に着させるわけにはいかないと、ミノリは新しい服を入手する方法を考えていた。しかし問題点はいくつもある。


 まず、服を買う場合は、町まで行って買わなければならないのだが、この周辺にあるのはキテタイハの町だけである。しかもその町は2人を追放した町であることもあり、当然、2人は顔も割れているから町まで2人を伴って買いに行くのは難しい。


 ミノリが単独で買いに行くという方法もあるが、ミノリはモンスターであるため、ばれないように変装しなければならず、もし買い物の最中にモンスターだとばれると命の危険が伴う。服を買いに行くだけという行為に対して、それはあまりにもリスクが大きすぎる。さらにミノリにとってもキテタイハの町の印象がよくない事もあり、なるべくなら行くのは避けたい。


 必然的に、この2案はミノリの脳内で検討されるまでもなく廃案となった。


 シャルにお願いして2人の服を買ってきてもらう、という手もある……が、サイズや趣味が合わなかったら悲惨だし、そもそもシャルの事を2人が快く思っていない現状で、シャルの趣味嗜好の入った服を2人が着るだろうか……、いや着ない。


 この案もやはり脳内で取り下げた。


 この世界に転生してから、いきなり人生が詰んでしまったなどと嘆いていたが、なんとかここまで乗り越えてきたミノリ。しかしここでまさかの『娘たちの服を入手する手段が思いつかない』、という、わりとしょうもない事実でいきなり詰みに入ってしまったかに見えたが……、ここでミノリは唐突にひらめいた。


「そうだ! ないなら作ればいいじゃない!」


 この家の前の住人が置いていったのだろうか、ちょうど家の中には服を作れるだけの大量の布が都合良く保管されていたのだ。そして、転生前のミノリは実は家庭科の成績が良く、服ぐらいなら時間はかかるものの作ることが出来るほどの腕前はあった。


 このミノリの困り事をあらかじめわかっていたかのように、必要なものが置いてある家、わりと不思議なのだが……当のミノリはというと『ラッキー』としか考えていない。基本的にミノリは楽天家なのだ。


 使う布を引っ張り出して服作りの準備を始めていると、何かを始めたミノリに気づいたトーイラとネメが興味津々な顔でやってきた。


「ママ、何してるのー?」

「部屋一面布の海」

「あ、2人とも。実は2人の服を作ろうと思っているんだけど……、何か希望ある?」


 せっかくだから……と、ミノリは2人の希望を聞いてみた。


「ママと同じ格好!」

「おそろ。おかあさんと」


 それはもう綺麗なほどに即答だった。そしてネメが初めてミノリの事をおねえさんと言い間違えずにちゃんとおかあさんと言った。その事実だけで思わず感激しそうになるミノリだったが、その前に2人の返答に言葉を詰まらせた。


「いや……でもこの格好は……2人には早い……かも?お腹冷えるよ?」

「大丈夫だよー。ママとおそろいになりたいなー」

「トリプルルック」


 ミノリの格好は、額に宝石の入ったヘッドアクセ。マントに胸当てに前垂れといった、ゲームにモンスターとして出てきた格好そのままだ。

 2人の母親としての立場を優先しているため、おしゃれをする気配すらないミノリだが、おしゃれに全く興味がないわけではなく、現に、今の姿とは何度か違う格好をと考えて、この家を見つけた時に衣装棚に入っていた服を着ようと試した事があった。


 しかし、今の衣装の上から変装のためにローブをかぶったり、エプロンを着けたり防寒のための手袋や帽子といった、今の格好+α(アルファ)という事は出来たものの、全く違う衣装を身につけるとどうにも違和感、つまり『装備できません』状態が全身を襲って断念するしかなかったのだ。


 それでもごく一部、ちゃんと着ることが出来た衣装もあるにはあったのだが……。


(スク水はきついって……。)


 この家の衣装棚に一体どういうわけか置いてあったスク水。遊び心で着てみた事があったのだが、それだけはまるで自分のために作られたかのようにジャストフィット。しかし、いくらこの体が幼児体型気味であっても精神的には転生前の17歳にこの世界で過ごした2年が合わさり、実質19歳。


(……いたい、いたすぎる)


 どこかの銘菓の語り口のような心境になったミノリは、スク水を見なかったことにしたのだ。なお、以前3人でかくれんぼをした時にトーイラに見つかってしまったが、その後厳重に封をし、現在では衣装棚の奥底に封印済みだ。


 というわけでスク水含めて、ミノリができる基本的な恰好は、デフォルト以外では残りは全裸や下着姿の4つだけとなり、結果的にデフォルトのヘソ出しマントスタイルを選ばざるを得ない状況なのだ。


「う、うーん……、この格好は弓使いの私に適した格好だから、2人はもっと違う衣装が似合うと思うなぁ」


 もっともらしいことを言って、この服を着ているしょうもない理由についてはごまかしたミノリである。2人は少し渋ったものの、それぞれ着てみたい衣装を紙に書いてミノリへと渡した。


「よーし、それじゃ頑張って作るから、2人とも楽しみに待っててね」

「「はーい」」


 それから数日、ミノリは2人の衣装作りにはげんだ。その間、ネメとトーイラはミノリに代わってご飯や狩りや洗濯などの、普段はミノリがしていた家事を代わりに行うなどして協力した為、ミノリは集中して作業をすることが出来たのであった。


 なお、裁縫はミノリにとって久しぶりの作業だった為、おぼつかなくなっていた事もあるにはあったが、比較的順調に作業を進められ、2人の望んだ衣装を無事作り終えることが出来た。


「ど、どうかな……、2人とも……」


 できたての衣装に袖を通した2人にミノリはおそるおそる尋ねた。


「うん!ばっちり!ありがとうママ!」

「おね……おかあさんの手は魔法の手」


 にこやかな顔をして2人が答えた。その嬉しそうな表情を見て、自分まで心がほっこりとするミノリであった。


 新しい衣装を早速着て嬉しそうにその場でくるくると回り出すトーイラ。

 そして、こないだは言い間違えなかったのに、今回は言い間違えてしまったネメ。


 そんな2人の姿に『これからも自分のペースでいいから成長していってね』と思いながら、ミノリは目を細めるのであった。

というわけで活動報告内のキャラデザで描いたネメとトーイラの衣装はここからだったりします。

(髪飾りはクリスマスプレゼントのものです)

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