31. 1年と2ヶ月目 春雷。
「うーん……明日は雨やむかなぁ……」
連日雨が降り続いていて、お天道様を見ない日が続いている。なんとなくで作ってみたてるてる坊主はやはり何の役に立つ事は無く、今日も土砂降りで一向にやむ気配のないまま夜になってしまった。
明日は晴れるかなと、ミノリが窓から外を覗いてみたその刹那、空が光り、轟音が鳴り響いた。光と音の差が殆ど無かったのでかなり近くで雷が発生しているようだ。
「そういえばこの家で暮らすようになってからこんなに近くで雷が鳴ったのは初めてかも。……2人ともどうしたの?」
ミノリが、窓から部屋の方に振り返ると、ネメもトーイラも青い顔をしている。どうしたんだろうとミノリが声を掛けると再び雷光と地響きのような轟音。
「きゃあーっ!!」
「ひぃ」
ネメの方はかなり棒読みで抑揚のない「ひぃ」だったがそれでも本人なりに驚いているのだろう。多分。
「二人とももしかして、雷苦手?」
「うん……」
「裁きの雷」
よく見ると2人とも雷が怖い犬猫のようにものすごい震えようだ。
(これはなんとかしてあげなくちゃ)
「2人とも、今日は私の布団で一緒に寝よっか。その方が安心だよね?」
ミノリがその事を提案すると、2人は先程までの怯えた表情から一変。瞳を輝かせて喜んでいる。
「いいの?やったー!」
「勿怪の幸い」
(……あれ? すごく嬉しそう。そんなに私と一緒に寝たかったのかな?)
ちなみに、その時2人が思っていた事はといえば……。
(……雷は怖いけど、ママが優しくしてくれるのすごく嬉しいなぁ……。)
(慈愛の精神に溢れた聖女。)
大体あっていたが、徐々に2人がミノリを神格化し始めている事をミノリは当然気がついていない。
「それじゃ、今日は私ももう寝ちゃうから、2人も一緒においで」
「「はーい」」
寝室に入るとネメとトーイラは枕を持ってきて、ミノリのベッドの脇で待機。ミノリは先に自分のベッドに入ってから2人に自分の布団に入るよう手招きをすると、それに応じて2人もミノリのベッドへ。
ミノリの横に2人が入ってきたのを確認したミノリは、前にしたときと同じように2人を抱き寄せた。
「こうやって肩をくっつけ合って寝るのも久しぶりだね」
「うん」
「おね……おかあさんあったかい……」
さっきまであんなに怖がっていたのが嘘のように落ち着いた様子でミノリに抱きついているトーイラとネメ。
「ママのにおい……とてもあまくて落ち着く……」
「馨しき……」
そう言われたミノリの心境はちょっと複雑……。
(いいにおいと思われているとはいえ体臭の事を言われるのは、ちょっと恥ずかしいなぁ……。でも、2人がそれで落ち着くというなら……。)
恥ずかしさを我慢して2人の背中をぽんぽんと叩くミノリ。そして暫くした頃だろうか。
段々と2人の瞼が落ち……ない。逆に目が冴えてしまっているようだ。
(んんー……? 2人とも寝つけない……? ……あれ?)
一向に眠る気配のない2人を不思議がっているミノリは、そこである事に気がついた。
(……二人とも、なんだか心臓の音早くない?)
ミノリに抱きついているために、2人の心臓の鼓動が直接ミノリの肌にも伝わっていたのだが、そのペースが明らかに早かったのだ。
(もしかして、落ち着くといってもやっぱり雷は怖いのかな……?)
ミノリがすぐ傍で寝ているからドキドキしている可能性にまでは考えが至らないミノリ。やがてミノリの方が先に瞼が重くなってしまい、そのままスヤスヤと眠りについてしまうのであった。
そして翌朝。昨夜の激しい雷雨が嘘のようにすっきりとした青空が木々の隙間から見えた。
「わぁ、ほら見て2人とも。今日はいい天気だよ」
「そうだねママ……」
「ん……」
(結局2人ともあまり寝つけなかったみたい。……そのわりになんだか2人とも顔がツヤツヤしているような?)
目の下に隈をつくりながら、何故か『ご満悦』という2人の表情をまあ幸せそうだから別にいいかと呑気に思うだけのミノリなのであった。




