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30. 1年と1週間目 お米が食べたいミノリさん。

 この3人での親子生活が始まってから先日1年が経過し、生活サイクルもすっかりできあがった。その為今のところ順調に日々を過ごしていたのが……、ミノリはあるものが不足している現状に、思わずポツリとつぶやいた。


「お米が食べたい……」


 転生前は根っからの日本人であったミノリこと隠塚おんづかミノリ。この世界に転生してからは、狩りや釣りによる肉と魚、畑で取れた野菜や果物、そしてシャルが定期的に宅配で運んできてくれる卵や牛乳、パンなどを食事にしていたのだが、その中に含まれていないものがある。それが先程つぶやいたお米だ。


 先日、ネメとトーイラが風邪を引いた時に『お粥』とつぶやいてしまったが最後、すっかりお米に飢えてしまっているミノリである。一応この世界にも米はある。ゲーム上でも回復アイテムにおにぎりがあったので、どこかで米の栽培はされているのは間違いない。しかし以前、シャルにお米を宅配してもらえないか聞いたところ……。


「あー……お米ですか? すみませんお姉様。米ってこのあたりはおろか、私が普段いる場所でも食べる習慣がなくて売ってないんですよ。あるとしたら南の方なのですが……」


 シャルの話に出てきた南とは、ゲームでの序盤の地域のことだろう。回復力が低いため、アイテムでおにぎりが入手できたのは、ゲーム上でも最初の方だけだったのだ。


「うー……そうすると田んぼから作らなくちゃならないけど……、あれも大変そうなんだよね……」


 転生前のミノリの実家では家畜を飼っていた為、農業の中でも畜産分野に関しての知識については若干あったのだが、稲作に関しては完全に専門外だった。親戚や近所の人で、稲作を行っている姿を見ていた程度であり、これといった知識がない。


「こんな事になるのなら、そっち方面も少しは勉強すべきだったなー……」


 と、ミノリががっくりきていると……。


「おね……おかあさんどしたの?」

「ママ、落ち込んでる?」


 肩を落としているミノリの様子を心配してネメとトーイラがやってきたようだ。ほんとうに優しい子たちである。


「あ、ネメ、トーイラ。ううん、大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


 その答えを聞いた2人は、それでも食い下がった。


「おね……おかあさんがなにかを悩んでる顔。ネメそういうのすぐわかっちゃう。だから正直に言うといい」

「そうだよママー。3人なら何か解決できるかもよー?」


 普段からミノリをよく見ているネメたちは、そのミノリの表情で何か悩み事があるんだと瞬時に見抜いていた。


「あはは、2人には隠せないね……。実は……」


 お米のことについて2人に正直に話したミノリ。


「「うーん……」」


 先程のミノリと同じような顔をして2人とも悩み始めた。そのそっくりな姿から2人と段々親子らしくなってきていると実感し、その事に関しては微笑ましく感じるミノリだった。そして、そのミノリの話を聞いて何か考えていた2人はというと……。


「お米知らない。田んぼも知らない」

「食べたことないよねー」


 シャルの言葉通りこのあたりではお米を食べる習慣がないため、2人も当然知らないようだった。


「うーんやっぱりかぁ……。でも仕方ないか」


 ミノリはひとまず、お米については諦めることにした……が、その諦めは翌日あっさりと解決することになる。



 ******



 ミノリがいつものように、森の外に出てシャルから宅配を受け取ると、


「あ、そうだお姉様。以前お米探していましたよね?実は昨日、たまたま売っているのを見かけまして、なんとなく買ってみたのですが必要でしょうか?」


 なんでも、シャルが普段変装して利用する町に南の方から旅商人がやってきていて、お米を売っていたそうなのだ。ちらりとシャルに見せてもらうと玄米のままではなくなんと精米。最高すぎる。


「え、本当!?ほしかったんだ。ありがとうシャル!」


 シャルの予想外のファインプレー。ミノリは嬉しさのあまり、シャルの右手を両手で包み込むように握った。


「あっ……あひぃ!お姉様の、柔い……柔い肌が……私の右手をつつみこんで……もう私一生手を洗いません!!!」

「ちゃんと洗って」


 せっかくのファインプレーも台無しすぎて、思わずミノリも真顔になってしまった。


 その後、シャルから米を受け取ると、森の中にある家へウキウキ気分と戻るなり早速ミノリは米を炊き始めた。そして夕飯時に、ふっくらと炊きあがった米を真っ先に口に運ぶと、口の中で広がる懐かしい味に嬉しさのあまり……。


「あぁ……やっぱりこの味……。お米おいしい……懐かしい……」


 と、目に涙を浮かべたミノリなのだった。ちなみにその横では……。


「……あのピンク、米で媚び売り……」

「……調子に乗ってるあの泥棒猫……、どうしてくれよう……」


 異様に不機嫌な様子の2人がいたのだが、久しぶりの米の味が嬉しいあまり、その事にミノリが気づくことはなかった。

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